表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学校日和  作者: めろん
77/102

第77回 厄日和

お日様の光が眩しく降り注ぐ縁側にて


「…詰まり、僕たちはその虫食い穴を通って異世界に来たのか」


お兄さんにお茶菓子として貰ったなかなか切れない大福に苦戦しながらプリンが言った。


「ああ そォだぜ」


プリンの隣に座っているポトフは、そう言って彼の確認に頷いた。


「…頭大丈夫か?」


あんこがお好みではなかったのか、一口かじっただけの大福を包み紙に戻すプリン。


「…ヤバイかもな」


食べ残しなんて言語道断。と言うように、ポトフはプリンの手からその大福を奪い取った。


「? 貴様にしてはやけに素直―…」


だってそれ甘いんだもん。と言うように、ほっぺを膨らませながらプリンが言うと


「…昨日のミントの怯えた顔…思い出しただけでもゾクゾクするぜェ…V」


その大福を一口で食べたポトフが、昨日の出来事を思い出しながら危険な笑みを溢した。


「確かにヤバイな」


若干引くプリンくん。


「…でも一昨日俺はあと少しでそのミントを殺すところだった…」


ポトフは手についた大福の粉を払いながら


「レディを傷付けるなんて…最低の男だな…」


情けなさそうに呟いた。


「生物学上ミントは男だ」


的確な指摘をするプリン。


「でも可愛いだろ?!」


プリンに同意を求めるようにポトフが言った。


ははは プリンくんを貴方と一緒にしないで下さ―…


「う…」


あれ?何ほっぺを赤くしているのですかプリンくん?


「…あの可愛さは反則だ」


ぼそり


あれれれれ?何右斜め下を見ながらボソッと呟いているのですかプリンくん?


「…可愛いだろ?」


「…うむ」


ははは ミントくんの逃げ場はもうありませんね。


「ああっ!!食いたい!!ミントを食いたいィ!!」


ポトフが発狂した。


「はい」


発狂したポトフに、今しがた足元から引っこ抜いた植物を手渡すプリン。


「わォ!お口に広がる爽快感…ってアホか俺は?!」


それを勢いに任せて口に放り込んだポトフがワンテンポ置いてからプリンに怒鳴ると


「びっくり 知ってたのか?」


驚いた様子で眠そうな目を見開くプリン。


「…あのなァ…」


そんな彼を見て、ポトフはガタガタ震えながら


「ミント違いだ!!」


怒鳴った。


「? ミント?さっきのは雑草だぞ?」


小首を傾げるプリン。


「いやもっとふざけんなよテメェ?!」


透かさずポトフが突っ込むと


「…四ツ葉の」


ってプリンが言った。


「えっ…?」


四ツ葉のクローバーをくれたプリンくんに胸を打たれるポトフくんでした。










「凄い…!!」


大きな鏡の前で目を見張るミント。


鏡の向こうからは、真っ黒い髪の自分がこちらを見返してくる。


ミントは髪の毛を染めることに成功したのであった。


「あああありがとうございますソラさん!!いえソラ様!!」


素晴らしい速さでペコペコと頭を下げるミント。


「あはは どういたしまして」


…様?とか思いながら返すお兄さん。


「真っ黒…!!これでもうクリスマスなんて誰にも言わせませんっ!!」


真っ黒い自分の髪の毛にミントが感動していると


ス…


「「…え?」」


ミントの髪の毛がクリスマスカラーに戻った。


「…」


ぐしぐし


目を擦ってもう一度鏡を覗き込むミント。


「…」


クリスマスカラー。


「何故ええええええ?!」


ミントが発狂した。


「お…おかしいな…こんなはずは…」


不測の事態に戸惑うお兄さん。


「呪い?!呪いですか!?あの変人ズはそこまでオレを変人の仲間にしたいんですか!?」


頭を抱えて叫ぶミント。


「あ。でも確かジャンヌって呪い魔法使えるよね?」


思い出したようにお兄さんが言った。


「!? オレの…認めたくないけど…両親を知ってるんですか?!」


驚いたミントが聞き返すと


「あ。うん 友達だよ」


こくっと頷くお兄さん。


「とととっ友達!?ま…まだそんなにお若いのに…お可哀想に…」


お兄さんを哀れむようにミントが言うと


「…」


お兄さんは下を向いた。


「…?ソラさん?」


正常に戻ったミントが小首を傾げると


「きみの両親と僕は、四年前、同い年の時に出会ったんだよ」


下を向いたままお兄さんが言った。


「え?でも―…」


どう見ても二十歳くらいにしか見えないお兄さんにミントが言い返そうとすると


「…向こうとこっちの時間の流れの速さには差があって、向こうはこっちの約五倍の速さで時が流れるみたいなんだ」


悲しげな声でお兄さんが言った。


「五倍…?!」


思わず聞き返すミント。


「あ。でもすぐ栓したからミントくん達はちゃんと来た日に戻れるよ?」


慌てて顔を上げて付け加えるお兄さん。


「そ…それってソラさんから見たら、友達が五倍速で歳をとってるコトになりますよね?」


恐る恐るミントが言った。


「うん だからポトフくんも二年ですっかり大きくなっちゃって」


悲しげに笑うお兄さん。


「! ポトフの育ての親なんですか?」


ミントが尋ねると


「ほとんど何もしてないけどね」


お兄さんは微笑みながら頷いた。


「辛く…ないんですか?」


自分の姿はほとんど変わっていないのに、五倍速で歳をとっていく友達を想像し胸を痛めるミント。


「大丈夫」


そんなミントにお兄さんは


「僕ね?老け魔法、得意なんだ♪」


と言ってにこっと笑ってみせました。


「っえ?」


そういう問題?とミントが固まっていると


「あはは 折角異世界から来てくれたのに染められなくてごめんね?」


お兄さんは朗らかに笑いながらミントに謝った。


「い…いえとんでもない」


ふるふると首を横に振るミント。


「…折角だから異世界の学校でも体験させてみようと思ったんだけど…それじゃちょっと無理だよね」


すると、お兄さんは苦笑いしながらテーブルに置いてある箱の蓋を開けた。


「? なんですかソレ?」


お兄さんの隣に移動しながらミントが尋ねると


「雲の中学の制服とセーラー服だよ」


お兄さんは箱に入っていた制服とセーラー服を持ち上げてミントに見せました。


「・・・セーラー服?」


セーラー服を持ち出したその意味を尋ねるミント。


「プリンちゃん…だっけ?あの子背ぇ高いよね〜」


のほほんと笑うお兄さん。


「いやいやいや待って下さいソラさん?」


そんなお兄さんにミントはブンブン手を横に振って


「生物学上プリンは男ですよ?」


って言った。


「! ええ!?あんなに髪の毛長いのに?!」


驚いたお兄さんは、持っていたセーラー服を落としてしまった。


「って言うかなんでセーラー服なんか持ってるんですかソラさん?」


床に落ちた丈の短いセーラー服を訝しげに見ながらミントが尋ねると


「ああ 姉のだよ」


さらりと答えるお兄さん。


「…さいですか」


セーラー服を拾い上げてテーブルの上に戻しながらミントが言うと


「「…セーラー服…」」


後ろか危険なら声が聞こえてきました。


「「?」」


声がした方を振り向くミントとお兄さん。


そこにはプリンとポトフが立っていました。


(…枕)


ポトフが左目でプリンに合図を送ると


(…承知)


プリンは小さく頷きました。


プリンが頷いたのを確認すると、ポトフはじりじりとミントに歩み寄ってゆきます。


「な…何…?どしたのポトフ?」


ミントが後退りしながら尋ねると


「今すぐそれ着ろォ!!」


目を輝かせながらポトフが走り出しました。


「ぎゃあああああああ!?プリン!!助けて!!」


真っ青になってプリンに駆け寄るミント。


「ふふふ」


自分に抱きついてきたミントを見て邪悪な笑みを溢すプリン。


「え―…」


ミントがギョッとしていると


「えいっ」


プリンは微笑みながらミントの背中をポンと軽く叩きました。


ポンッ


ミントはセーラー服姿になりました。


「いやああああああ?!」


鏡に映った自分の姿を見て悲鳴をあげるミント。


「「最高」」


ミントに向けて親指を立てるポトフとプリン。


「何言ってんの二人とも?!つうかどうしたのさプリンまで?!」


妙に短いスカートを押さえながらミントが突っ込んでいると


「っ!!あの時のっ…トラウマがあぁああああ!!」


頭を抱えたお兄さんが叫んだ。


「?! どうしたんですかソラさん?!」


温厚だったお兄さんの発狂に焦るミント。


すると


「ぅアシッドレイン!!」


お兄さんはそう叫びながら戸棚に置いてあった茶色いビンを投げつけました。


パリーン!!


「どどどどうしたんですかソラさん?!」


顔のすぐ横をかすめていったビンに顔を青くしながらミントが言うと


「む?塩酸だ」


割れたビンのラベルを見ながらプリンが言った。


「塩酸?!何処で手に入れたんですか!?ってか死ぬ!!死にますって!!」


ミントの叫びも虚しく


「変態抹殺!!アシッドレインアシッドレインアシッドレインアシッドレインアシッドレインアシッドレインアシッドレイぃン!!」


お兄さんは戸棚に無数に置いてある塩酸が入ったビンを無方向に投げつけ始めました。


パリーン!!パリーン!!


しかし、それは何故かすべてミントに向かいます。


「オレ貴方になんかしましたかあああああ!!!?」


今日はミントの厄日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ