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学校日和  作者: めろん
73/102

第73回 約束日和

ゴミ袋。それは、その名の通りゴミを捨てる為の袋。


「こんなところで何をしてるの?」


それに入っている上にこんなところいるのだから、俺はきっと捨てられたのだろう。


「風邪引いちゃうよ?」


ザアアアア


―…雨が降り頻る夜、黒髪の少年は、町外れのゴミ捨て場で金髪の女性に出会いました。










バンッ!!


「ただいまァ!!」


少年には記憶がありませんでした。


「! おかえりなさい黒髪くん」


だから、少年には名前もありませんでした。


「見て見ておねェさん!!これ捕まえた!!」


目を輝かせながら、少年は金髪の女性・お姉さんに言いました。


「な…何を捕まえたの?」


何か甲虫的なものを出すのかと、虫嫌いなお姉さんが恐る恐る尋ねると


「鹿!!」


「鹿?!」


少年は、捕まえてきた鹿を得意気にお姉さんに見せました。


「え!?え?!鹿?!一体どうやって!?」


予想外な少年の獲物にお姉さんが混乱していると


「早く食べようよゥおねェさん!!」


目を輝かせながら少年が言いました。


「食べるの?!」


「食べるのー♪」










ある日の夜。


「…うゥ…眠れない…」


暗い部屋で毛布にくるまっている少年が呟きました。


今日は、お医者さんであるお姉さんが夜勤をする日。


少年は、お家に一人でお留守番しているのでした。


ガタンッ


「っ!?」


音がした方を向くと、本棚の本が倒れていました。


「…も〜…脅かすなよゥ」


先程の音が本が倒れた音だと分かって胸を撫で下ろす少年。


幼い少年は、夜一人でお家にいることがたまらなく怖いのでした。


「…おねェさんのところに行こうかなァ…」


怖さに耐えきれなくなった少年は、お姉さんがいる病院に行こうと考えました。


「…でも…」


少年はベッドから降りて窓へと移動しました。


「お外はもう真っ暗だよなァ…」


シャッ


そう呟きながらカーテンを開ける少年。


窓の外では、白銀の星と金色の月が紺碧の空に輝いていました。


今日の月は満月です。


キンッ


「っ?!」


突如、少年の頭に激痛が走りました。


痛くて痛くて、とても耐えられなくて。


「うわああああああ!!」


少年は、そのまま意識を失ってしまいました。



――――――



――――



――



月の光も届かないような暗い暗い森の中。


「…ゥ」


気が付くと、少年は不気味に光る白い岩の上に倒れていました。


そして、目の前にホチキスが見えました。


「うわあ?!」


驚いてそこから飛び退く少年。


「あ!大丈夫?!」


すると、ホチキスを持った水色の髪の少年が見えました。


「キミが俺に何もしてなければね!?」


思わずその少年に突っ込みを入れる少年。


「…?痛くないの?」


そんな少年を見て、水色の髪の少年が小首を傾げました。


「へ?」


少年が小首を傾げ返すと


ボタボタボタッ


少年の血が滴り、真っ白な岩に真っ赤な斑点が出来ました。


「ええ!?血?!」


その時、初めて自分が右目を怪我していることに気が付く少年。


「どうして―…」


少年が混乱していると


「ごめんね」


水色の髪の少年が静かに言いました。


「へ?」


少年が右目を押さえながら小首を傾げると


「…ぜんぶ僕のせい」


水色の髪の少年は、下を向いて口を開きました。


「…僕がおひるねしなければ…」


水色の髪の少年は、肩を小刻に震わせながら


「僕がきみに会わなければ…そんな怪我しないですんだのに…」


震える声で言いました。


「だ…大丈夫だよ!」


そんな少年に、少年は優しい声で言いました。


「…?」


水色の髪の少年が顔を上げると


「なんかね?ぜんぜん痛くないんだァ」


にこっと笑いながら少年が言いました。


「しししっ死んじゃうよう?!」


痛みも感じなくなってしまったのかと水色の髪の少年が慌てていると


「…あ」


彼は思い出したように少年に右手を向けました。


「?」


少年が小首を傾げると


「…病院に瞬間移動」


水色の髪の少年が言いました。


「! 待って!」


でも、少年は何故だかもっと彼と一緒にいたいのでした。


「このままだと本当に死んじゃう」


しかし、水色の髪の少年は首を横に振りました。


「っ!!」


「…最後に…お家まで送ってくれてありがとう」


言葉を詰まらせた少年を見て、水色の髪の少年はそういうと


「さようなら」


とても悲しく微笑みました。


すると


「…やだ」


右手を右目から離しながらしっかりとした声で少年が言いました。


「…え?」


水色の髪の少年が聞き返すと


「最後じゃないもん」


少年は微笑みながら言いました。


「!」


その言葉を聞いて目を見開く水色の髪の少年。


「俺とキミは、ず〜っと友達ね!!」


少年はそう言うと


「約束だよ?」


にこっと笑いながら水色の髪の少年に言いました。


「…うん!!」


水色の髪の少年は嬉しそうに頷くと


「またね!テレポート!」


少年に人身瞬間移動魔法をかけました。










シュパンッ


ドサッ


「?! 黒髪くん!?」


突然目の前に現れた血だらけの少年を見て仰天するお姉さん。


「…!…すごい…」


お姉さんがいるということは、ここは病院。


少年は、水色の髪の少年の高度な魔法に驚きました。


「酷い怪我…!!メディケーション!!」


すぐさま少年に回復魔法をかけるお姉さん。


ぷわわ


すると、少年の怪我は見る見る内に回復してゆきました。


しかし、少年の右目には、縦一直線の痛々しい傷痕が残り、その目は二度と開くことはありませんでした。


「…おねェさん」


右目の傷痕に触れながら、少年は静かに口を開きました。


「…?…なあに?」


自分の力不足を悲しんでいたお姉さんが聞き返すと


「俺、名前決めたよ」


にこっと笑いながら少年が言いました。


「! 本当!?」


顔を明るくしたお姉さんが聞き返すと


『ポトフ…食べたいの?』


少年は、いつ聞いたのか憶えていないけれど、頭の中に響く水色の髪の少年の優しい声のままに口を動かしました。


「…俺は…"ポトフ"!!」


この日、ようやく"ポトフ"はこの世に誕生しました。

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