第66回 怒号日和
授業中に眠くなったら、最低でも少しは寝ないように努力しましょうね。
「…だぁかぁらぁ〜…」
裏庭にやって来たミントが、ガタガタ震えながら
「なんでオレまで?!!」
叫んだ。
「あっはっはっ!細けェコトは気にすんなよミントォ?」
その隣で朗らかに笑うポトフ。
「うふふ…誰のせいかなポッティー?」
ガタガタ震えながらポトフを睨みつけるミント。
「あっはっはっ!にしてもスッゲェ草だなァ?」
確実に怒っているミントに冷や汗を掻きながら話題を逸らすポトフ。
「裏庭の草抜きって…植物使いとして気が引けるなぁ…」
そんなポトフを見て、小さく溜め息をつきながらミントが言った。
「そっか…ミントは樹属性―…」
機嫌が治ったミントに、胸を撫で下ろしながらポトフは
「ってコトはこんな草、枕の風魔法で一発じゃねェか!!」
閃いた。
「ぐー。」
プリンはポトフの隣でぐっすりと眠っていた。
「…寝てるね」
ポトフが言うと
「ね」
同意しながらミントがプリンの枕をひったくった。
「枕!?」
すると飛び起きるプリン。
「…てなワケだ」
飛び起きたプリンに、ポトフが先程の提案をした。
「…貴様…僕を利用する気か?」
不機嫌そうにポトフを睨むプリン。
「お願いプリン?」
そんなプリンにミントが言うと
「うむ。分かった」
プリンはコクンと頷いた。
「…耐えろ…耐えろ俺…」
わなわな震える利き足を必死に押さえるポトフ。
「下がっててミント」
そんなの気にも留めずにプリンがミントに言った。
「え?…うん」
頷きながら言われた通り後退するミント。
「…冥界より産まれし風」
ミントが下がった事を黙認すると、プリンは目を瞑って詠唱に取り掛かった。
「…全てを滅ぼし…」
風もないのになびくプリンの長い髪。
「…我が前に道を切り開け…」
プリンはゆっくりと右手を前に向けた。
「…朽ち果てろ…」
そして目を開けると
「木枯らし!!」
裏庭に向かって大きく叫んだ。
ビュワッッッッッッッ!!
プリンの叫び声と共に、裏庭一面に吹き荒れる禍々しい風。
「「…!!」」
その風が収まると、ミントとポトフは目を見張った。
先程まで雑草が鬱蒼と生えていた裏庭が、ほんの数秒で丸裸になっていたのだった。
「ぷう…終わった」
驚いている二人に、おでこに掻いた小汗を拭いながらプリンが言った。
「う…うん…ありがとう」
プリンにちょっとした恐怖を抱きながらお礼を言うミント。
「…樹属性一撃必殺…ってヤツか?」
ただただ呆然としていたポトフが言った。
「うむ。だからミント、気を付けて?」
コクンと頷きながらミントに注意を促すプリン。
「は…はい…」
プリンへの恐怖は、ちょっとしたものではなくなったミントでした。
「…終わったのか?」
そこへ、銀髪のセル先生がやって来た。
この処罰を命じた張本人である。
「うむ。」
セル先生の問いに、コクンと頷くプリン。
「…」
セル先生は無言で視線を裏庭に向けると
「何故裏山までやった?」
感情の入っていないような声でプリンに言った。
「「ええ?!」」
バッと裏庭の先にある裏山のを向くミントとポトフ。
「む?」
ゆっくりと裏山を見るプリン。
「嘘だろ…?!」
驚愕するポトフ。
裏山は、裏庭同様枯れ野原になっていた。
「…」
「…」
数秒の沈黙のあと
「…さあ?」
プリンが小首を傾げた。
「ばっ―…」
ポトフが慌ててプリンを止めようとした瞬間
「ディメンジョンブッシュ!!」
地面に左手を当てたミントが魔法を唱えた。
ブワッ…!!
その直後、裏山に美しい緑が蘇った。
「「?!」」
目の前で起きた出来事に目を見開くプリンとポトフ。
「これでいいですか?」
左手についた土を払いながら、ミントがセル先生に言った。
「…いいだろう」
セル先生はそう言うと、踵を返してさっさと校舎の方へ戻っていった。
「ミント凄い!」
目を丸くしながらプリンが言った。
「いや…プリンのが凄いからね?」
手を横に振りながらミントが言うと
「…壊すより、産み出す方が難しいんだぜミント?」
ポトフが何かを悟ったように言った。
「!? なんかポトフがかっこいい?!」
思った事を思わず口に出すミント。
「あっはっはっ!…いつものコトだろォ?」
右手の親指と人指し指の間に顎を当てながらポトフが言うと
「そうでもないぞ?」
プリンが冷静に言った。
「喧嘩売ってんのか枕?」
素早くプリンを睨みつけるポトフ。
「…そう言えば、セル先生ってルゥ様にそっくりだよね?」
そんな二人を止める為か、ミントが話題を提示した。
「…言われてみればそォだな?」
ミントの言葉に、プリンを睨む事をやめるポトフ。
「でも、ちっちゃくない」
その後、不満そうにプリンが言った。
「確かに」
即座に頷くポトフ。
「…一体何でルゥ様を認識してるのかな二人とも?」
ミントが顔を引きつらせながら二人に尋ねると
「「身長」」
二人は自分の肩より下ぐらいのところで、右手を横にした。
「あはは…それ以外特徴なかったのかな?」
ミントが呆れながら二人に再び尋ねると
「無類の戦闘好き?」
小首を傾げながらポトフが言った。
「隣国といつ戦争が勃発してもおかしくないな」
コクンと頷くプリン。
「いやいやそれは…ないとも言い切れない…っ?!」
発言の途中で、自分の発言に自信を失うミント。
「あと、なんか子供っぽいよな?」
反対側に首を傾げながらポトフが言った。
「ちっちゃくて可愛い」
柔らかく微笑むプリン。
「あはは…今ルゥ様が此処にいたら絶対爆発してたね?」
呆れたように笑いながらミントが言った。
*
「ぶぇくしょーんっ!!」
その時、王宮から大きなくしゃみが聞こえてきました。
「…随分下品なくしゃみだなルゥ?」
赤い髪の男性・ミントパパが肩をすくめながら言った。
「ああ?オレに"くちゅん☆"ってくしゃみしろってのかシャーン?」
不満そうに銀髪の国王様がほっぺを膨らませると
「構わないけど?」
ミントパパが無表情で言った。
「ごめ〜ん構って〜!!」
王宮は今日も平和です。
*
「ホントそっくりだよな」
腕を組んで頷きながらポトフが言った。
「でも、可愛くない」
何故かそれに反論するプリン。
「いや"可愛くない"って…セル先生が可愛かったら逆に困るでしょ?」
溜め息交じりにミントが言うと
「困るな」
即座に頷くポトフ。
「ぶう…ちっちゃくない」
プリンはまだ不満そうにほっぺを膨らませた。
「…何か文句でもあるのかアラモード?」
すると、プリンの後ろからセル先生の声が聞こえてきた。
「「!!」」
仰天するミントとポトフ。
「ちっちゃくない」
目線が同じくらいのセル先生に向かって、露骨に不満気な声でプリンが言った。
「「面と向かって言っちゃった?!」」
透かさず突っ込むミントとポトフ。
「…貴様に…」
すると、セル先生がわなわなと震え出した。
「「へ…?」」
セル先生の異変にミントとポトフが小首を傾げると
「貴様に毎日好きでもない牛乳飲んで頑張って身長伸ばそうとしてる奴の気持ちが分かるか?!!」
セル先生がプリンに向かって怒鳴った。
「「せせせ先生?!」」
迫力満点のセル先生の怒号に仰天するミントとポトフ。
「胃腸が弱い俺がどんな想いで毎日牛乳飲んできたか…それが貴様に分かるのか?!分からねえよな!?」
プリンの胸ぐらを掴みながらセル先生が叫ぶ。
「「ちょっ…先生―…」」
慌てふためくミントとポトフ。
「あの日…忘れもしない今から十四年前…ギューンてものっそい身長伸びた時の感動も全っっっ然理解出来ねえだろうなあ?!!」
感情込めて怒鳴り続けるセル先生。
「「先生キャラが―…」」
おろおろするミントとポトフ。
「俺が…あの日…やっと…クーに―…」
セル先生がここまで言うと
「「…"クー"?」」
ミントとポトフが同時に聞き返した。
「…はっ!!」
我に返るセル先生。
「いい今のは聞き流せ!!と言うか記憶から抹消―…いや抹殺しろ!!!!」
頬を紅潮させながら、三人に向かってセル先生が言った。
「は…はい…」
「そ…そうさせていただきま―…」
ミントとポトフが頷いていると
「ふふふ よしよし」
よく頑張ったネ☆風に、プリンがセル先生の頭を撫でた。
「「!!!!」」
プリンの行動に度肝を抜かすミントとポトフ。
「頭蓋骨カチ割って脳味噌えぐり出してやる」
セル先生はどす黒いオーラを発しながら、袖口に隠し持っていた短剣でプリンに切りかかった。
「ん?ドコかで聞いたことある台詞だぞ?」
素早くプリンとセル先生から距離を取ったミントが、小首を傾げながらのほほんと言った。
「本当にそっくりだな…性格まで」
ミントの隣で、肩をすくめながらポトフが言った。
「くたばれええええ!!」
「ふふふ ヤー」
学校は今日も平和です。