第6回 枕日和
「ぐー。」
いつものプリンの鼾が聞こえてくる。此処はミントとプリンのお部屋。
「…流石にもうコーラは勿体ないよなぁ…と言うかオレが飲む」
ぐびーっ
一気にコーラを飲み干したミントは、手に顎を乗せながら首を捻っていた。
「…目覚まし時計とか?」
そう言って自分の目覚まし時計をいじくりだしたミント。そしてプリンの耳元へ持っていく。
「目覚めよ!!」
ジリリリリリリリリリリン
目覚まし時計がやかましく鳴り響いた。
「むー。」
ぱしん
寝たまま一度も触ったことのない筈の目覚まし時計のスイッチをオフにするプリン。
「やはりか…」
ミントが目覚まし時計を机の上に置く。
そして再び首を捻出す。
「うーん…ここはやっぱ水か?」
そして風呂場に向かうミント。
ジャーーーーーー…キュッ
「…っしょっと」
ミントが水をなみなみに入れたバケツを持ってきた。
「目覚まし&洗顔も出来ますよっ!!」
ドバシャーーーーーーー!
大量の冷たい水がプリンの顔面に滝のように降りかかる。
「ぐー。」
ころんっ
水攻めの結果→寝返り。
「…駄目か」
悔しそうにバケツを戻しに風呂場に行くミント。
そして帰りに雑巾を持ってきた。
「ヤバイヤバイ、カビちゃうカビちゃうっ!」
急いで床を拭き始めるミント。しっかりしてますね。
「くっそ…プリンめ…!」
雑巾をしまうとミントはまた首を捻った。
「ぬぬぬ…家の両親より酷いなこりゃ…ん?」
ふとカーテンに付いていた洗濯バサミが目に止まるミント。
「究極!鼻スッキリ簡易整形術!!」
ばちんっ
そして洗濯バサミでプリンの鼻を挟むミント。彼の鼻は十分に高いのだが…
「ぷう」
ぺいっ
プリンが顔を左右に振ったので、あっけなく払い落とされる洗濯バサミ。
「…」
(…何をしているんだろうオレは…)
ふと我に返るミント。
そして洗濯バサミをカーテンに戻した。
「もう朝飯の時間だしなぁ…」
ミントが時計を見ながら言った。そしてプリンを見る。
「ぐー。」
びしょびしょの彼はスヤスヤとびしょびしょの枕を抱えながら眠っている。
「…」
何を思ったのか、無償にプリンの枕を奪ってみたくなったミント。
「…いつも大切そうに持ってるよな…」
ミントは己の好奇心のままにプリンの枕に手を伸ばした。
「えいっ!」
そしてひったくろうとした。が、
がしっ
「!」
プリンが眠ったまま枕を離すまいとしがみついた。
「くっ…負けねえっ!!」
負けじと枕を引っ張るミント。
「むむむっ…」
だがプリンも負けていない。大事な枕を離すものか。このまま長時間、枕の引っ張り合いが続いた。
…ガッ!
激しい死闘の末、ミントが勝った。やはり起きている方が有利だったのだ。
「か…勝った…!!」
ミントが息切れしながら言うと
ぱちっ
プリンが目を覚まし、ガバッと起き上がった。
「…枕?」
プリンが呟いた。そして辺りをキョロキョロ見回した。
「枕…枕?!」
プリンが頭に両手を持っていった。
「まままっ枕が無いっ!?枕っ!?僕の枕は!!?」
このテンパりよう、尋常ではない。危険を察知したミントが
「ご、ごめんプリン!まっ…枕は此処だよ?」
枕を返した。
「…む?…ぐすっ…ミント?」
「っ?!」
ミントが驚いた。プリンはベソをかいていた。
「ごごごごめんっ!本っ当ごめんプリンっ!!」
慌てて謝るミント。
「ずびっ……びしょびしょしてる」
枕を受け取ったプリンが涙を拭いながら言った。
「あわわわわっ!…ごめんプリン…その…プリンが起きないから…ドバッと…」
ミントが言うと
「…そうか」
プリンぽつりが呟いた。そして何やらごそごそと鞄の中身をあさりだした。
「…?」
ミントが見つめるなか、プリンが取り出した物は…
「ええ?!何それ?!」
「…む?枕だが?」
プリンが予備の枕を取り出した。
「そうじゃなくて!!何その形?!」
「ふむ?どう見ても飴玉だろう?」
プリンが小首を傾げた。その両手には、真ん中が丸い形をしていて、左右がヒラヒラになっている、巨大なキャンディーの形をした可愛らしい枕が抱えられていた。
「君は最終的にどこに行き着きたいのさ?!」
ミントが突っ込むと
「むぅ…枕を濡らしたミントが悪い」
ほっぺをぷうっと膨らましながらプリンが言った。
「いや確かにそうだけどさぁ…!!」
なにか釈然としないものがあって、ミントが髪の毛をぐしゃぐしゃにした。
「罰として、ミントに干しといてもらう」
プリンがびしょびしょの枕をミントに突き出した。
「…分かったよ」
(…枕を取れば簡単に起きるんだな…よし、これから毎日こうしよう)
そんなことを思いながら、ミントがびしょびしょの枕を受け取り、窓を開けようとした瞬間
「え゛」
時計が目に止まったと同時にミントも止まった。
キーンコーンカーンコーン
その時、無情にも始業の鐘が鳴り響いた。
「わああああああ!!?」
「ぷわ…もう授業か?」
キーンコーンカーンコーン
この時ミントは、呑気に欠伸をしたプリンに対して小さな小さな殺意が芽生えました。
「すっすみません!!!遅れましたあ!!!!」
「たー」
急いで今回の授業の場所である、危ない森の入り口に走ってきたミントとプリンが先生に謝った。
「…遅刻者二名だな」
銀髪のセル先生がサラサラと名簿にペンを走らせた。
「…ちょっと!何してたのよー?!」
ココアが小声で言った。
「毎度のコトながらプリンが起きなくて…」
「ふふふ」
「何笑ってんの君?!つうかちゃんと謝れよ?!!何"たー"って?!」
ミントがツッコミを入れると
「…では今日の"魔物学"の授業を始める」
先生が言った。
「今日はお前達の魔法がどれだけ実戦で使いこなせるか、身をもって実感してもらう」
先生の言葉に生徒達が氷ついた。
((実戦?!))
「せせせ先生っ!!」
レモンが手を挙げた。
「…なんだ?」
先生がレモンに顔を向けた。
「実戦って…早すぎますわ!?わたくし達、まだ五、六個程度しか―…」
「それだけあれば十分だ」
「っ!?」
先生が言った。
「…安心しろ。この森にいるのは、野生の魔物とは違って、クーが造った血に飢えた狂暴な魔物だけだ」
((野生よりヤバイの!?))
先生の言葉で余計に真っ青になる生徒達。
「ではお前達を森の外れまで飛ばす。学校に着いたらそこで授業終了だ」
心のツッコミだから気付かずに先生が続けた。
…ん?飛ばす?
「…ちなみに言っておくが」
先生がキャンディー枕を持ったプリンを向いた。
「…テレポートは禁止だ」
「うむ。分かった。」
プリンが頷いた。
「よし…始めるぞ」
先生が指をパチンと鳴らしすと、生徒達の姿が消えた。
ぽんっ
森の地上十メートル付近に瞬間移動したミント。
「うおわ?!」
どしんっ
「ったぁ!!!?」
身をもって万有引力を実感したミント。
「…?」
辺りを見回すミント。
此処は木々が鬱蒼と生い茂る深い深い森の中。
「あれ?!みんな?!」
ミントの周りには誰もいなかった。
「ど…どどどうしよう?!…オレ…魔法なんか使えないのに…!!」
彼は今までやってきた魔法を、ひとつも使うことが出来なかった。出来るといったら箒で飛ぶことぐらい。そして今、彼は箒を持っていない。
ガサガサっ
「!」
その時、彼の目の前の茂みが動いた。
「…まさか」
「うー…おしり痛ーい…」
ココアも落下したようだ。おしりに手を当てながら立ち上がるココア。
「もうちょっと丁寧に送って欲しいなー…」
先生に文句を言いながら歩き始めるココア。
「む?ココアか?」
「?」
何処からかプリンの声が聞こえてきた。
「助けてー」
「へ?どこどこ?!何処なのプリン!?」
辺りを見回すココア。
「上上ー」
「上?」
上を向くココア。
「わ!!何してんのプリン!?」
ローブが木の枝に引っ掛かって、プリンが布団干し状態になっていた。
「楽しそー!!」
「ふむ?そうか?」
小首を傾げるプリン。
「うん!いいなー!!」
ココアが目を輝かせた。
「ふふふ、いいだろう」
すっかり乗ってしまったプリン。
「…!!」
「「?」」
奥の方から声が聞こえてきた。
「今のって…ミントの声?」
ココアが言った。
「ふむ。そんな感じだったな」
プリンがぶらぶらしながら言った。
「どうしたんだろう?」
目を凝らしてみるココア。
「ぶらぶらしてる」
楽しそうにぶらぶらしながらプリンが言った。すると
ぽきんっ
プリンが引っ掛かっていた枝が折れた。
どしんっ
プリンが落ちた。
「…痛い」
「大丈夫?プリンー」
プリンを起こすココア。そこではっとする。
「…ねぇ」
「む?」
プリンがローブの汚れを叩いて落としながら返す。
「ミントって…魔法使えないよね?」
ココアが言った。
「うむ。そう記憶してる」
プリンが言った。
「もし今…魔物に会ってたら…どうなると思う?」
ココアがプリンの方を向いた。
「相手は血に飢えているから…」
プリンがココアの方を向いた。
「「ゆ?!」」
そして二人はミントの声のする方へと走っていった。