第59回 勝負日和
「死にさらせェェェ!!」
「貴様がな」
ドカ―――――――――ン
ポトフの足とプリンの枕が衝突した。
「朝ごはんだよーってどうしたのー?!喧嘩ー!?」
その時丁度部屋にやって来たココアが尋ねると
「うん そうみたい」
座って二人の喧嘩を眺めていたミントが答えた。
「? 止めないのー?」
小首を傾げるココア。
「いやどっちの方が強いのかなー?って思って」
呑気に笑いながらミントが言った。
「んー…どっちだろねー?取り敢えず裏山に移動してくんないかなー?」
にこっと笑うココア。
「分かった」
ミントはそう言うと
くんっくんっ
「「!?」」
薔薇の鞭を巧みに操って二人を素早く縛り上げた。
「裏山に移動するよー?」
突然の出来事に驚いている二人にミントがゆるく言った。
「…ミントが一番強いみたいね…?」
「失せろォ!!」
「絶えろ」
ドカ―――――――――ン
再び足と枕が激しく衝突する。
「…ねぇミントー?」
そんな様子を見ていたココアが口を開いた。
「何?」
ミントが小首を傾げると
「あの二人、なんで喧嘩してんのー?」
ってココアが尋ねた。
「んーとねー…」
プリンとポトフが喧嘩している原因は、三十分くらい前に遡る。
≫≫≫
「…連れて来なきゃよかった…」
広い部屋の中の北東の隅で壁の方を向いて体操座りしたプリンが消えそうな声で言った。
「…乗らなきゃよかった…」
反対側の隅で同じく体操座りをしたポトフも、同じく消えそうな声で言った。
「げ、元気出してよ二人とも?」
困ったように笑いながらミントが言うと
「…大体…なんであんな邪魔なとこにいたんだよテメェ?」
ポトフが壁を向いたままプリンに問い掛けた。
「…馬鹿か貴様は?僕は最初からあの位置にいた」
壁を向いたまま返すプリン。
「タルト出てきてからまったく動かなかったのプリン?!」
透かさず突っ込むミント。
「うむ。面倒」
コクンと頷くプリン。
「面倒臭がっちゃった?!大幅にキミに関わる問題だったのに?!」
更に突っ込むミント。
「…僕にそんな変な趣味は無い」
不貞腐れたような声でプリンが言った。
「いやそうだろうケドさあ…!!」
ミントが何か釈然としないものを感じていると
「…ふざけんなよ…」
ポトフが呟いた。
「「?」」
ミントとプリンがポトフの方を向くと
「あの流れからしてあのハプニングは枕じゃなくてココアちゃんとだろォ?!」
立ち上がって頭を抱えながらポトフが叫んだ。
「はい?!」
驚いたミントが聞き返すと
「あのキモメンの不意打ちのせいでココアちゃんの可憐な唇を奪ってしまう俺…それと同時にココアちゃんのハートも奪ってしまう俺…そしてついにココアちゃんは俺にメロリンコ―…」
ポトフが感情込めて語り出した。
「痒い」
その語りを一言で止めるプリン。
「かゆ?!」
透かさず聞き返すポトフ。
(ごめんポトフ 否めない)
目を背けるミント。
「…まァいい…」
するとポトフが溜め息をつきながら言った。
(大人になったねポトフ!!)
とか思うミント。
「そんな甘い夢も…テメェのせいで台無しだ―…」
ポトフはここまで言うと
「…―から面貸せコラァァ!!」
ってプリンの方を向いて怒鳴った。
「ええええええええ?!」
さっきまで大人だったのにと悲しむミント。
「…いいだろう」
プリンが静かに立ち上がりながら答えた。
「プリン?!」
ミントが聞き返すと
「丁度何かを破壊したいと思っていたところだ」
プリンは冷たい目でポトフを睨みつけた。
「上等だァ!!」
ポトフはそう叫ぶと、プリンに攻撃を仕掛けた。
≫≫≫
「…てな流れだよ」
一連の流れをココアに説明し終えたミント。
「一回あいつ殴ってきていい?」
左腕を金槌に変身させたココアがポトフを見ながら言った。
すると
「…レベル的にはプリンさんの方が高いですね」
「「アロエ?!」」
ミントとココアの後ろから手帳を持ったアロエがやって来た。
「枕を使った攻撃を得意とするプリンさんは、体力が低い代わりに魔力が高いみたいですね。それと彼の枕は、彼の攻撃力を上げると同時に彼の機動力を下げているようです」
そう言った後、アロエは手帳のページを捲り
「足技を得意とするポトフさんは体力が高い代わりに魔力が低いようです。彼は攻撃力・守備力共に高いのですが、視界が狭いというハンデがありますね」
って言った。
「な…なんでそんなコト分かるのさ?」
目を丸くしながらミントが尋ねると
「アロエは人間観察が趣味ですので」
手帳を閉じながらアロエが言った。
「へー…じゃあプリンとポトフのどっちが勝つか分かるのー?」
ココアが小首を傾げながら尋ねた。
「…一応プリンさんの方が有利ですね」
難しそうな表情でアロエが答える。
「へー!そーなんだー!」
面白そうに目を輝かせるココア。
「…ただあの二人、弱点がありますね」
眼鏡をかけ直しながらアロエが言った。
「「?」」
ミントとココアがその言葉に首を傾げる。
「…五、四、三、二、一」
アロエがカウントダウンし終わった直後
ピタッ
とプリンとポトフの動きが止まり
「ぷわ…ねむねむ」
「…腹減ったァ…」
って二人が言った。
「「喧嘩中に何ぬかしてんの?!」」
透かさず突っ込むミントとココア。
「これは心意気さえあれば直せる弱点ですね」
再び眼鏡をかけ直しながらアロエが言った。
「凄いねアロエ!」
目を輝かせながらミントが言うと
「いえいえ。ミントさんの髪の毛には及びませんよ」
ってアロエが言った。
「う…」
頭を押さえるミント。
「ちょっとアロエー?"ミントの髪の毛に手ー出さない条約"結んだでしょー?!」
腰に手を当てながらココアがアロエに注意した。
「はい。もちろん間違っても手は出しませんよ」
コクンと頷くアロエを見て
「…ほ」
と胸を撫で下ろすミント。
「ぐー。」
立ったまま眠り出すプリン。
「ミントォ腹減ったァ〜」
ミントに手を振りながらポトフが言った。
「ええ?!オレに言われても―…」
ミントが言いかけると
「鱚ならありますよ?」
ってアロエが何処からともなく鱚を取り出した。
「「!!!!」」
衝撃を受けるミントとココア。
「「…き……す……?」」
石化するプリンとポトフ。
「?」
アロエが小首を傾げると
「俺の唇返せ枕ァァ!!」
「気持ちの悪い事を言うな」
ドカ―――――――――ン
三度喧嘩が始まった。
「あらら まーた始まっちゃった」
呆れるココアと
「あはは…好きなだけやればいいさ」
溜め息をつくミントをよそに
「データ収集です」
二人の喧嘩を目を輝かせながら見て手帳にペンを走らせるアロエ。
「朽ちろ」
「果てろォ!!」
「交ぜろぉ!!」
ドカ―――――――――ン
枕と足と巨大なフォークの柄が衝突した。
「「?!」」
突然現れたフォークを見て驚くプリンとポトフ。
「ルゥ様?!」
二人の喧嘩に乱入した銀髪のチビッコを見て驚くミント。
「てへっ☆」
後頭部に左手を当てて茶目っ気たっぷりに舌を出す国王様。
「てへっ☆じゃないですよ!?どうしてこんなところにいるんですか?!」
透かさず突っ込むミント。
「も・もちろん仕事だ!」
胸を張る国王様。
「嘘つけえ?!」
透かさず否定するミント。
「嘘じゃないもん!!」
ぶーっと膨れる国王様。
「じゃあ何の仕事ですか?!」
ミントが尋ねると
「さあやるぞポッティーとプリッツ!!」
ミントにくるりと背を向けて国王様が言った。
「僕はプリンだ」
"プリッツ"と呼ばれたのがお気に召さなかったプリンくん。
「帰って下さいルゥ様」
ミントが頭を抱えながら言うと
「ミント…男の喧嘩は黙って見届けるもんだぜぇ?」
国王様が決め台詞っぽく言った。
「参加してるヒトが何言ってるんですか?」
冷ややかに突っ込むミント。
「ええい煩い!!ならミントも参加しろい!!」
国王様がミントをズビシッと指さしながら言うと
「いいんですか?」
ミントがにこっと笑った。
「え」
国王様が驚いていると
「頑張って下さァい」
「ファイト」
ココアとアロエの隣に移動したポトフとプリンの声援が聞こえてきた。
「あれれ?!ポッティーとプリッツがいつの間にやら観客に!?」
透かさず突っ込む国王様。
「…だって俺ら…大切なミントを攻撃するコトなんか出来ねェもんなァ?」
ポトフがそう言うと
「なー」
コクンと頷くプリン。
「急にベストフレンズ?!」
国王様が突っ込んでいると
ピンッ
「なっ!?」
国王様が持っていたフォークが、ミントの薔薇の鞭によって奪われた。
「ではいきますね♪」
先端にしっかりと巨大なフォークを固定した鞭を、鉤爪ロープ風に振り回しながにこっと笑うミント。
「ちょっ?!それは卑怯でショウ?!」
焦る丸腰の国王様。
「蓮華♪」
ミントがそう言った直後、辺り一面に国王様の悲鳴が響き渡った。
「…結局プリンとポトフはどっちが強いのー?」
「本日二人は鱚より弱いという事が分かりました」
「…あんなとこに桜が咲いてるぜェ枕…?」
「ふふふ…もう春だな…」