第58回 悲惨日和
「…ようやく到着か」
巨男が木の上から飛び降りて、三人の前にスタッと着地した。
「みんなっ!!」
身動きがとれないようにロープで縛られたミントを抱えて。
「「ミント!!…と…」」
プリンとポトフとココアが同時に目を見開いた。
「フッフッフッ…」
巨男が不敵に笑うと
「「…誰?」」
「え」
って三人が同時に小首を傾げた。
「…おいテメェ…誰だか知らねェが俺の前でミントに手ェ出すたァいい度胸してんじゃねェか?」
喧嘩口調でポトフが言うと
「え?本当にわたくしが誰だか知らないの?」
巨男が焦り出した。
「誰もあんたみたいな蒸し暑いヤツ知らないよー?」
小首を傾げたままココアが言うと
「ええ?!旅館でたまたま見掛けたから折角の機会だと思って仕返ししに来たのに!?」
頭を抱えながら巨男が言った。
「だから誰だ貴様は?」
プリンが聞くと
「プリン様まで?!」
ショックを受けたようにプリンの方を向く巨男。
「「…様?」」
しらっとした目で巨男を見る三人。
「プリン様もわたくしが分からないの?…わたくしは―…」
巨男が言いかけると
「みんなっ!!コイツがタルトだよっ!!」
ってミントが言った。
「ちょっ今折角名乗ろうとしたのに?!」
ショックを受けるタルト。
「「…タルト?」」
更に首を傾げる三人。
「うおーい?!」
悲しくなるタルト。
「ほらっ!プリンのストーカーの!!」
ミントが言うと
「「…」」
数十秒の沈黙の後
「「も?!」」
驚いて聞き返す三人。
「ゴホンッ…ようやく分かったようね?」
咳払いしながらタルトが言うと
「ちょっとちょっとー!?プリンのストーカーってあんた男じゃない?!」
ってココアが言った。
「心は乙女よ!!」
胸を張って答えるタルト。
「なら何故鍛えた?!」
透かさず突っ込むココア。
「ええい煩い!!わたくしは復讐にきたの!!」
そんなのはどうでもいいと言う風にタルトが声を張った。
「復讐?!」
ココアが聞き返すと
「…その…」
スッ
タルトはポトフを指さした。
「?」
ポトフが首を傾げた瞬間
「こ憎たらしい眼帯野郎にね!!」
ドスッッ!!
「がはァっ?!」
「「ポトフ!!」」
ポトフの腹にタルトの膝蹴りがヒットした。
「…テメ…俺がテメェに何したってんだよ…?」
屈み込んだポトフは、キッとタルトを睨むと
「俺はレディとミントにしか興味ねェぞ!!」
って叫びながら思いっ切りタルトの足を払った。
「「思わぬ問題発言だよポトフ?!」」
透かさず突っ込むミントとココア。
「…しらばっくれても無駄よ?」
静かにタルトが口を開いた。
「「!?」」
タルトは足払いを避けたようだ。
「わたくしのプリン様と…いつもラヴラヴしやがって!!!!!」
タルトはそう怒鳴りながらポトフに蹴りを入れた。
「っ!!」
どうにか両腕を使って直撃を避けたポトフ。
「シャドウエッジ!!」
間発入れずにココアが魔法を唱えた。
じょばあっ!!
「!」
足を負傷するタルト。
「変な焼き餅焼かないでよね変態さんっ!」
ココアが言うと
「くぬぬ…っ!お前はいつもプリン様の髪の毛をいじくってる小娘っ!!」
ガタガタ震えながらタルトが言った。
「は?」
ココアが聞き返すと
「キィ〜っ!!羨ましいっ!!」
ドカンッ
「きゃあ!!!?」
タルトはココアを殴り飛ばした。
「!!」
「ココア!!」
目を見開くポトフとミント。
「…う…」
木に激突して力なくうなだれるココア。
すると
「…テメェ…」
ザワッ…
「「?!」」
凄まじい殺気に驚くタルトとミント。
「…俺の目の前でか弱いレディに手ェあげるたァ…」
ポトフはそう言いながらゆっくり立ち上がると
「いい根性してんじゃねェか!!」
ドカッッ!!
タルトに上段回し蹴りを渾身の力で見舞わした。
「きゃあ?!」
って叫びながら吹っ飛ぶタルトに
「きゃあ!?」
透かさずミントが突っ込んだ。
「大丈夫ココアちゃん?!」
ポトフはすぐさまココアに駆け寄って
「トリート!」
回復魔法をかけた。
「あ…ありがとポトフー」
ココアがお礼を言うと
「…吹け…」
ポトフの後ろで
「微風!」
ってプリンが言った。
ぱひゅう
戦場に微弱な風が吹く。
「さっきから何もしてないと思ったらずっと詠唱してたのプリン?!」
「テメェは引っ込んでろ?!」
透かさず突っ込むミントとポトフ。
折角本気モードになったポトフのテンションもガタ落ちだ。
「!! プリン様に対してテメェですって?!」
吹っ飛ばされたタルトが立ち上がりながら言った。
「はェ?」
ポトフが振り向くと
「許しませんっ!!」
ダゴンッ!!
走ってきたタルトがポトフの顔を思いっ切り殴った。
「おわ?!」
そのまま前のめりになるポトフ。
そして
ちゅっ
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「え」
「あ」
「あらら」
時間が止まった。
タルトとミントは目の前で起きた信じがたい出来事に固まり、ココアは顔を赤らめて自分の口を両手で覆った。
今、三人の目の前で、眼帯くんと枕くんが
「…キス」
「…接吻」
「…ちゅー」
している。
ちなみに上からタルト、ミント、ココア。
「「@#△¥★%?!」」
言葉にならない悲鳴をあげて互いを突き飛ばすプリンとポトフ。
その顔は真っ赤と言うより真っ青だ。
「…酷い」
タルトは一歩後ろに下がると
「見せ付けなくたっていいじゃないっ!!」
そう叫んでから涙を散らして走り去っていった。
「…」
地面に両手両膝をついて首を垂らすプリン。
「…」
左腕を木に当てながら、下を向いて口を押さえるポトフ。
「…プリン…」
「…ポトフ…」
そんなプリンとポトフを見て
「「…ご愁傷様…」」
気の毒そうにミントとココアが言った。
「「…消え去りたい…」」
今にも風化しそうなプリンとポトフでした。