第57回 誘拐日和
モクモクと湯煙が立ち込める露天風呂にて。
「ふえ〜…い〜いお湯だね〜♪」
頭に白いタオルを乗っけたミントが温泉につかりながら幸せそうに言った。
「ぷわ…ねむねむ」
ミントの隣で欠伸をするプリン。
「枕が枕持ってねェ…!」
ミントの反対隣で目を見開くポトフ。
「あははっ!そんなの当たり前―…」
ミントが言いかけると
「ん?何それプリン?」
プリンが何か抱えている事に気が付いた。
「む?泡枕?」
小首を傾げながらプリンが答えた。
「「泡枕?!」」
透かさず聞き返すミントとポトフ。
「うむ。ふかふか」
コクンと頷きながら白くて丸い枕をふかふかさせるプリン。
「わあ…!いいなあ!!」
プリンが泡枕をふかふかさせているのを羨ましそうに眺めるミント。
「ふふふ ミントにも作ってあげる」
プリンは微笑みながらそう言うと
「モルディング」
白く濁ったお湯に向かって魔法を唱えた。
するとお湯がプリンの右手に集まり、見る見る内に白い球体になってゆく。
「はい」
完全な球体になったところで、プリンは出来た泡枕をミントに手渡した。
「わあ!ありがとう!!」
目を輝かせながらミントがお礼を言うと
「…照れる」
泡枕で顔を隠すプリン。
「…枕は常に枕持ってんだな…」
無駄知識を得たポトフでした。
「ほらポトフも触ってみてよ!これ凄いふかふかするよ!?」
溜め息をついたポトフに、ミントが目を輝かせながら先程もらった泡枕を差し出して触ってみるように促した。
「…」
ミントに言われるがままに
ふにっ
泡枕を摘んでみるポトフ。
「ね!?」
それを見てミントがにこっと笑うと
「可愛いなァミントォ♪」
「うわあ?!」
バシャーン
ポトフはミントに抱きついた。
「ミントっ!?」
慌てて顔から枕を離すプリン。
「ぽ…ポトフ…ぐるし…」
するとプリンの目に、ポトフに捕えられたミントが飛込んできた。
「ミント離せっ!」
慌ててポトフに向かって叫ぶプリン。
「プリン…!」
ミントがこれで助かったと思っていたら
「誰が離すか」
ポトフはミントに抱きついたままプリンの方を向き
「ミントは俺のだ」
ベーっと舌を出した。
「何言ってんのポトフ?!」
透かさずミントが突っ込むと
「違うっ!ミントは僕のっ!」
ってプリンが言った。
「プリンまで何言ってんの?!」
透かさず突っ込むミント。
「…俺のだ」
キッとプリンを睨みつけるポトフ。
「僕のーっ!」
負けじと言い返すプリン。
「「…ぬぬぬ…」」
火花を散らす二人に
「何二人でオレの取り合い始めてんの?!」
突っ込みを入れるミント。
「…やるか?」
プリンが聞くと
「…上等ォ」
不敵に笑うポトフ。
「ちょっと二人とも?!」
ミントが慌てて止めに入ると
「「…」」
バシャーン
ポトフとプリンが倒れた。
「ええ?!二人同時にのぼせた!?」
そよそよ…
「…ん…?」
微弱な風に顔を撫でられ目を覚ますポトフ。
「…はれ?此処は…?」
むくりと起き上がって辺りを見回すポトフ。
彼はいつの間にか浴衣姿で外のベンチに座っていた。
彼の隣には、同じく浴衣姿のプリンが横になっている。
「あ!気が付いたのポトフー?」
するとお盆を持ったココアがやって来た。
「ココアちゃん?」
ポトフがココアの方を向くと
「もーっ!ミントが"二人がのぼせて倒れたー"って騒いでたから心配したんだよー?」
って言いながらココアはポトフに氷水が入ったコップを手渡した。
「ありがとォココアちゃん?」
すると、ポトフはココアの手の甲にキス―…
「どういたしまして」
スパァン!!
「ぐはァっ?!」
出来なかった。
「…あれ?ミントはー?」
そして何事もなかったように辺りを見回すココア。
「ん?」
ポトフは自分が座っているベンチの下で
「…これ…ミントの帽子…?」
ミントの帽子を発見した。
「え?ミントが帽子置いてくなんて珍し―…」
驚いたココアがそう言いかけると
「「…誘拐?!」」
顔を見合わせながらココアとポトフが言った。
「おい起きろ枕ァ!!」
慌てて隣で寝ているプリンを起こすポトフ。
「ぐー。」
起きないプリン。
「寝てる場合かァ?!ミントが拐われたんだぞ?!」
ポトフが言うと
ガバッ!!
「ミントが?!」
飛び起きるプリン。
「まだ誘拐か分かんないけど…ミント、のぼせた二人を看病してたハズなのにいなくなっちゃったのー!」
顔を青くしながらココアが言った。
「大変…!」
つられて青くなるプリン。
「ああ…!」
ポトフが言うと
「…ミント湯冷めしちゃう!!」
ってプリンが言った。
「やばくねェ?!」
顔を青くするポトフ。
「あんたらの頭の方がヤバイわ」
ココアは冷静にツッコミを入れると
「ちょっとー?誘拐って事は…もしかしたらミントが殺されちゃうかもしれないんだよー?!」
って言った。
「「!!」」
それを聞いた二人は
「…探すぞ枕」
「…当然だ」
シリアス顔して立ち上がった。
「急に切り替わった?!」
ココアが突っ込むと
「…お邪魔ンタ」
プリンがポトフを呼んだ。
「お邪魔ンタ?!」
透かさず突っ込むココア。
「あ?」
返事をするポトフ。
「その呼び方でいいの?!」
更に突っ込むココア。
すると、プリンはミントの帽子の横に落ちていた手拭いを摘み上げた。
「…スメルズ?」
プリンがポトフに尋ねると
「…バーッド」
って手拭いの臭いをかぎながら答えるポトフ。
「あんたら超仲良しじゃん?!」
ミントに代わってツッコミまくるココア。
「こっちだ!!」
ポトフが先立って走り出した。
「臭いで分かるの?!」
ココアが驚いていると
「行くぞココア」
ってプリンが言った。
「信頼しちゃうの!?」
ココアの質問に
「…わんわんだからな」
ってプリンが答えた。
「いや違うでしょ?!」
ミントくんがいないと大変なココアちゃんでした。
「?!」
林の中で、ポトフはピタッと足を止めた。
「きゃっ?!」
どんっ
急に止まったポトフにぶつかるココア。
「…どしたのポトフー?」
鼻を押さえながらココアが尋ねると
「臭いが…消えた…?」
ってポトフが呟いた。
「え―…」
ココアが聞き返そうとすると
「危ないココアっ!」
「きゃあ!?」
プリンがココアを突き飛ばした。
ドスッ!!
その直後ココアのいた場所に突き刺さるナイフ。
「あ…ありがとプリン…」
ナイフを見て顔を青くしながらココアが言った。
「うむ。」
「上か…!!」
上を向くプリンとポトフ。
「…ようやく到着か」
スタッ
プリンとココアとポトフの前に怪しいヤツが現れた。