第53回 お花日和
「…これだけ走れば大丈夫だろ…」
ふうっと息を吐きながらミントは足を止めた。
「み…ミント速い」
息切れを起こしているプリンが膝に手を当てながら言った。
「相変わらず体力ねェな枕?」
その隣で平然としているポトフが
「それよりミントっ何処に遊びに行くんだ!?」
目を輝かせながらミントに言った。
「…へ?」
小首を傾げるミント。
「はェ?今から遊びに行くんだろ?」
小首を傾げ返しながらポトフが言った。
「…あ」
思い出したように辺りを見回すミント。
そこは見渡す限り一面のお花畑。
「メルヘンだな?!」
思わず突っ込むミント。
「ってかココどこ?!」
更に突っ込むミント。
「はェ?ミントが連れてきたんだろ?」
小首を傾げるポトフ。
「い…いや…そうなんだけど…」
どうやらミントくんは、家から離れるために無我夢中で此処まで走ってきたので此処が何処だか分からないようですね。
すると
「あ。母の庭だ」
ってプリンが言った。
「「いや広すぎだろ?!」」
透かさず突っ込むミントとポトフ。
「…照れる」
枕で顔を隠すプリン。
「…てコトは勝手にプリンの家の敷地に入っちゃったのオレ?」
遅れて驚くミント。
「うむ。そのようだな」
コクンと頷くプリン。
「お。これ美味ェ♪」
綺麗に咲いている赤い花を食べるポトフ。
「って何してんのさポトフ?!」
透かさず突っ込むミント。
「む?それは猛毒の"シニソウ"だぞ?」
小首を傾げながらプリンが言った。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「…死にそう」
「今すぐ出せえええ!!」
真っ青になって倒れるポトフと、しゃがんでその背中をバンバン叩くミント。
「母はこんな危険な花も育てていたのか…あぶあぶ」
こんな非常時に、呑気にシニソウを観察するプリン。
「み…ミント…俺…死ぬのかなァ…?」
虚ろな瞳で空を見上げながら弱々しい声でポトフが言った。
「馬鹿っ!そんなワケないでしょポトフ!!!」
ポトフの背中をバンバン叩くミント。
「む?ハチさん」
プリンが観察していたシニソウに一匹の蜂がやって来た。
「わォ…凄ェぜミント…綺麗な川が見えるゥ…♪」
幸せそうな顔をしながらポトフが言った。
「!? 渡っちゃ駄目だよポトフ!?たとえ向こう岸に女子がいても骨付き肉があったとしても!!」
顔を青くして更に強くポトフの背中をバンバン叩くミント。
「♪」
シニソウの周りを飛ぶ蜂を楽しそうに目で追うプリン。
「あっはっはっ…どっちもいるぜェミントォ?」
幸せそうなポトフ。
「駄目駄目?!絶対渡っちゃ駄目だよポトフ!?」
涙目になりながら更に強くポトフの背中をバンバン叩くミント。
「! ヤー!」
目で追っていた蜂が自分の方に飛んできたので枕で追い払おうとするプリン。
「…ミント…今まで…楽しかっ―…」
ポトフはそう言っている途中で
ガクッ
と力なく首を垂らした。
「ポトフー?!」
目の前で起きた信じる事ができない出来事に泣き叫ぶミント。
ちくっ
「ぴわ?!」
プリンは枕を持っていた右手を蜂に刺されてしまいました。
「ってさっきからオレの視界の隅で何やってんのさプリン?!」
不謹慎なプリンに耐えきれなくなったミント。
「…痛い」
刺された右手を押さえながらプリンが言った。
「うわあ?!凄いぶっくーなってる!?何があったのさ?!」
プリンの痛々しく腫れた右手を見て驚いたミントが尋ねると
「ハチさんに刺された」
ってプリンが答えた。
「えええ?!大丈夫!?」
ミントが言うと
「うむ。多分」
コクンと頷くプリン。
「そっか!!じゃあプリンもポトフ助けようね!!」
プリンの腕をガシッと掴みながらミントが言った。
「む?助ける?」
小首を傾げるプリン。
「何すっとぼけてんのさ!?シニソウ食べたポトフがガクってなってポックリしてワー!ワー!ワー―…」
パニック状態のミントに
「お、落ち着いてミント?」
ってプリンが言うと
「…―このままじゃポトフが死んじゃうよお!!!」
涙目でミントが叫んだ。
「大丈夫」
そんなミントにプリンが言った。
「何が!?」
透かさず突っ込むミント。
すると
「…すかーっ」
いびきが聞こえてきた。
「…へ?」
ゆっくりとポトフの方を向くミント。
ポトフはぐっすりと眠っていた。
「ふふふ シニソウの毒は強力な眠気を引き起こすだけだ」
驚いているミントを見て、柔らかく微笑みながらプリンが言った。
「なっ―…もう…焦らせないでよプリン?」
胸を撫で下ろしながらプリンの方を向いてミントが言うと
「ただし一定量を越えると永眠する」
ってプリンが言った。
「ポトフー?!」
再びポトフの背中をバンバン叩き始めるミント。
「そんな時はこの"マズソウ"を」
するとプリンが紫色のお花を取り出した。
「うわ不味そう?!」
ミントが思わずそう突っ込むと
「食べさせる」
「むぐっ」
プリンはマズソウをポトフの口に突っ込んだ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「…Beautiful」
ぽつりと呟くポトフ。
「へ?」
思わぬ感想に思わずミントが聞き返すと
「Beautiful!!!!!」
って叫びながら、ポトフは森の方へと走り去っていった。
「ポトフー?!」
ポトフを追い掛けようとミントが立ち上がると
「ふむ。美しい味がするのか」
マズソウを摘みながらプリンが言った。
そしてマズソウをパクッと食べるプリン。
「…ぷぇ…にぎゃい」
プリンは渋い顔をしながら枕で口を覆った。
「何してんのさプリン?!」
プリンの意味不明の行動にツッコミを入れるミント。
「美しい味なら美味しいのかと」
そんなミントにプリンが言うと
「上手い!!」
ってミントが言った。
「いや、不味いぞ?」
そう言って
「むぐ」
プリンはミントの口にマズソウを突っ込んだ。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「…Wonderful」
ぽつりと呟くミント。
「む?」
プリンが小首を傾げると
「Wonderful!!!!!」
って叫びながらミントは森の方へと走り去っていった。
「…」
そんなミントを見て
「…ツッコミは苦手だ」
ってプリンが言った。
人には向き不向きというものがあるのですから、あまり気にする事ではないですよプリンくん?
「…ぷわ…ねむねむ」
…やっぱり少しは気にして下さい。