第49回 治療日和
「コーラは偉大だあ…♪」
縁側でのんびりと空を眺めながらズゴーとコーラを飲んでいるミントくん。
彼はここ数日、滅多に無い平穏を楽しんでいる。
「幸せだなあ♪」
しかし、一応彼は"コメディ"というジャンルの物語の主人公なのである。
「…え?」
そんな彼の平穏が長続きして良いワケねぇだろ。
「何その不平等条約?!」
別に条約じゃないですよ。
「ちょっと黙れよ?!」
まぁ良いじゃないですか。
「そしてさらりと流すなよ!?」
この前だって、君のファンの子にコーラを…
「ええ!?初耳だよ?!」
貰えたらいいなあ。
「希望かよ?!」
…あんまりナレーションにつっかからないで下さい。
「は?」
傍から見ると、危ない人に見えますよ?
「別にオレ以外誰もいな―…」
「ぃようっミントぉ♪」
にゅ
「うわあ!?有り得ない所から国王様がにゅっと現れたあ!?」
突然の出来事に説明口調でツッコミを入れるミント。
ミントのツッコミ通り、まだ若いのに白髪のちっこい国王様が有り得ない所からにゅっと現れた。
「ちっこい言うな!!そしてこれは銀髪だ!!ついでに有り得ない所って何処だ!?」
国王様までナレーションにツッコミを入れないで下さい。
「こんな所で何してるんですか国王様?!」
ご尤もなツッコミを入れるミント。
「やん!国王様って呼ぶなよぅ♪」
両手で顔を隠す国王様。
「じゃあチビキング」
「うん♪殺すよ?」
ミントが言った瞬間、爽やかに微笑みながらフォークを巨大化させて素早くミントに突き立てる国王様。
「嘘です」
巨大化したフォークの股に首を挟まれ、冷や汗を噴き出すミント。
ちなみに彼の首からは血が噴き出している。
「ええ!?」
「あ。悪ぃ悪ぃ。手元が狂っちった」
フォークを縮小させながら謝る国王様。
「…最近闘ってねぇからな…」
小さくしたフォークをクルクル回しながら国王様がブツブツ言っている間に
「…っ」
涙目で絆創膏を首に貼るミント。
相当怖かったのだろう。
「…で、今日はミントにお願いがあってん♪」
そんな事お構い無しにキャピっとミントに話しかける国王様。
流石国王様。見事な自由奔放ぶりである。
「…何ですか?」
流石国王様。ミントも大人しくなっているぞ。
「匿って♪」
キャピっとお願いする国王様。
「嫌です」
スパンと切り捨てるミント。
「…ミント…オトンは悲しいぞ?」
うるうるした瞳をミントに目を向ける国王様。
「誤解を招くような発言をしないで下さい」
スパンと切り捨てるミント。
「…はぁ…ミントは父ちゃんにそっくりだな?…足は長いケド」
何かを諦めたように国王様が言った。
「親と言えば、変人ズは何処に逝ったんですか?」
思い出したようにミントが尋ねた。
「いひひっ残念ながらまだ逝ってねぇよ♪ あいつらは今"足長の旅"に行ってるぞ?」
楽しそうに笑いながら国王様が答える。
「また馬鹿なツアーに…」
答えを聞いて、頭を抱えるミント。
「まったくだな…お前の父ちゃんがいねぇからこっちは人手不足なんだぜぇ?」
溜め息をつく国王様。
「ご迷惑おかけしてすみません…ってあんな短足が一人いなくなっただけで!?そんなに人がいないんですか城は?!」
謝った後に透かさず突っ込むミント。
「にしぇんにん♪」
可愛らしく答える国王様。
「何キャラなんですか!?ってかそれだけいれば十分じゃないですか?!」
更に突っ込むミント。
「…!」
すると国王様は閃いた。
「そう…今は人手不足なんだよ…」
「…?」
国王様が突然声のトーンを落としたので首を傾げるミント。
「…だから…」
ガシッ
「!?」
国王様はミントの胸ぐらをしっかり掴むと
「お前の父ちゃんが帰ってくるまでお前が代わりに働けな?」
にこっと笑いながらミントをずりずりと引っ張っていった。
ずりずりずりずり
「…ってええ?!嫌ですよ!?」
ワンテンポ遅れて突っ込むミント。
「良いじゃん良いじゃん♪どーせ暇だろ?」
楽しそうにミントを城へと引っ張ってゆく国王様。
「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌いーやーでーすー!!!」
懸命に抵抗するミント。
すると国王様が
「国王命令♪」
って言った。
「っ!!」
うわコイツ汚ぇ…とか思いながら仕方なく口を噤むミント。
「いひひ♪よろしくなミント♪」
こうしてミントの平穏は幕を閉じたのであった。
テクテクテクテク
「ぐー。」
こちらは眠りながらお散歩中のプリンくん。
便利な特技ですね。
テクテクテクどんっ
「ぐー?」
「きゃ?!」
前方確認をせずに歩いていたプリンは、女の子にぶつかってしまいました。
「ご、ごめんなさ―…」
謝ろうとした桜色の髪をした女の子は、プリンを見て固まった。
そして
「プリン?!」
素っ頓狂な声を出した。
「…む?ココア?」
その声で目が覚めたプリンも微妙に驚いた声を出す。
「わー!久しぶりー!!」
「うむ。久しぶりだな。そしてごめん」
久しぶりの挨拶を交したところで
「頭大丈夫ー?」
ってココアが言った。
「…ご挨拶だな」
ココアの言葉を聞いて、ぷーっと膨れるプリン。
「…あ、中身じゃなくて表面の事だよー? 包帯なんか巻いてどうしたのー?」
プリンが膨れたのを見て慌てて誤解を解くココア。
「む?勘違い」
自分の勘違いに気付いてシュッと顔をいつもの無表情に戻すプリン。
そして
「怪我した」
って言った。
「いやそんなの見て分かるから…病院には行ったのー?」
呆れたようにココアが尋ねると
「自然治癒」
って答えるプリン。
「無理だよそんなの?!絶対病院行った方が良いって!!」
透かさず突っ込むココア。
「む?」
プリンが小首を傾げると
ボタボタボタッ
「ほら大出血してるじゃん!!自然治癒力にも限界があるよ!!」
ってココアが言った。
「あ。本当」
自分のおでこから血が出ている事に気が付いたプリンは、ココアと一緒に病院に行く事になりました。
「え!?私も行くの?!」
「テレポート」
シュパンっ
国立病院の前にやって来たプリンとココア。
「…お散歩中だったのに」
がっくりと肩を落とすココア。
彼女もまた、平穏を崩されてしまった被害者だった。
「くらくらする」
その隣でふらふらしながらプリンが言った。
長時間おでこから血を流し続けているのだから当然の事である。
と言うか普通死ぬ。
「だっ大丈夫ー?!」
その事に気が付いたココアは、慌ててプリンを引っ張っていった。
どんっ
「お?」
「きゃ?!」
病院の前で、またしても人にぶつかってしまったココア。
「ご、ごめんなさ―…」
謝ろうとしたココアは目の前にいる黒髪眼帯男を見て固まった。
そして
「ポトフ?!」
素っ頓狂な声を出した。
「ココアちゃん!」
久しぶりにココアと出会えて嬉しそうな顔をするポトフ。
しかし、ふと我に返り
「ごめん…俺の不注意で…怪我は無い?」
心配そうな顔をしてココアに尋ねた。
「大丈夫だよーこっちこそゴ…ってそだ!」
謝ると思いきや
「回復魔法使えたよねポトフー?」
話を変えるココア。
「え?うん」
当然の質問に驚くポトフ。
「だよね♪だからプリンを治してあげてー!!」
ふらふらしているプリンをポトフの前に突き出しながらココアが言った。
「何があったんだよ枕?!」
おでこから血をダラダラ流しているプリンに思わず突っ込むポトフ。
「くらりねっと」
意識が朦朧としているプリンが言った。
「クラリネット?!」
プリンの意味不明な発言に突っ込みつつも慌てて彼の包帯をほどくポトフ。
すると
「いやーーーーっ!!?」
「本当にお前に何があったんだァ?!!!」
驚愕するココアとポトフ。
プリンの傷口には何か金具的なモノが…
「ちょっ…シャレになんねェぞオイ?!」
ポトフは呼び出し魔法でピンセットを呼び出すと、プリンのおでこの金具を取り除こうと試みた。
「…」
しかし動かないポトフ。
「? どうしたのー?」
ココアが首を傾げると
「クソ…遠近感が…」
悔しそうにポトフが言った。
「っ!! じゃあ…私がやる…!!」
するとココアが言った。
「ココアちゃん…!」
申し訳無さそうにココアにピンセットを渡すポトフ。
「えいっ!!」
ブチイッ!!
すぐさまプリンの金具を取り除くココア。
「メディケーション!!」
すぐさまプリンに回復魔法をかけるポトフ。
「あ。治った」
こうしてプリンの傷は無事に塞がりました。
「たく…何考えてんだテメェ?!」
「本当本当ー!!おでこにホチキスなんかしないでよねー!?」
正気に戻ったプリンに二人が言うと
「二人が治してくれた?」
ってプリンが聞いてきた。
「「え…っ?」」
突然の質問に戸惑う二人を見て
「…ありがとう」
柔らかく微笑みながらプリンが言った。
「「ど…どういたしまして…」」
なんだか照れ臭くなる二人でした。
困った時に助け合える、友達って素敵なモノですね。
「…ってなんだこの終わり方はァ!?」
「「のほほーん」」




