第44回 犬日和
風がそよぐ大きな木の下で
「ぶう…詰まんない」
ぷーっと膨れるプリン。
運動が苦手な彼の目の前のグランドでは、ウサギさん寮の男子の皆さんがサッカーをしている。
今は体育の授業中。
彼は体育サボリ中。
「…ぷわ」
眠くなってきた彼が欠伸をした直後
「プ〜リンっ!」
「みゅ?」
隣から自分を呼ぶ声が聞こえたのでそちらを向くプリン。
「! ミント!」
お友達の登場に喜ぶプリンくん。
「プリンは体育やんないの?」
小首を傾げながらミントが尋ねると
「体育ヤー」
ぷーっと膨れるプリン。
「ヤーって…そこに座ってるだけじゃ詰まんないでしょ?」
ミントが言うと
「うむ。」
コクンと頷くプリン。
「ね?だからほらっ!プリンも体育に参加参加!!」
そう言いながらプリンの腕を引っ張るミント。
「運動ヤー!」
ミントに抗うプリン。
「ワガママ言わないのーっ!」
負けじと引っ張るミント。
「ヤー!」
負けじと抗うプリン。
「うーごーかーなーいーとーふーとーるーよー!?」
全力でプリンを引っ張るミント。
「それはヤー!」
するとプリンはスクッと立ち上がった。
「うわ?!」
どてっ
思いの外プリンがすんなりと立ち上がったので、ミントは勢い余って尻餅をついてしまった。
「あぅえわわっ…ごめんミントっ」
慌ててミントを起こすプリン。
「大丈夫大丈夫…って太るのは嫌なんだね?」
立ち上がりながらミントが聞いた。
「うむ。僕の重力負担が増え―…」
プリンが答えている途中で
ドカ―――――――――ン
「ぴわ!?」
「!」
プリンに右から物凄い勢いで飛んできたサッカーボールがぶち当たった。
サッカーボールと共に左に吹っ飛ぶプリン。
「プリンっ!?」
ミントが慌ててプリンに駆け寄ろうとしたら
「ミントォ〜!こっちにボール飛んでこなかったかァ〜?」
後ろからポトフがやってきた。
「え?あ…うん 飛んできて飛んでったね」
ポトフの問いに答えるミント。
「…痛い」
「お?」
サッカーボールがぶち当たった右頬を押さえながら、ムクリと起き上がったプリンを見て
「あっはっはっ!アホだな枕ァ〜!!」
面白そうに笑うポトフ。
「…貴様…」
キッとポトフを睨みつけるプリン。
「あっはっはっ!」
ポトフは笑いながらプリンの隣に転がっていたサッカーボールを軽く蹴りあげてキャッチした。
「悔しかったら俺からボールを取ってみろ枕ァ!」
キャッチしたサッカーボールを左手の人指し指の上でクルクルと器用に回しながらポトフが言うと
「ハンドルマター」
ってプリンが言った。
すると
ふわり
とサッカーボールがポトフの人指し指から離れて宙に浮き
ぽすっ…
とプリンの左の掌の上に舞い降りた。
「取った」
「いやそれは卑怯だろ?!」
ポトフが突っ込むと
「ふふふ…悔しかったら僕からボールを取ってみろ」
不敵に笑いながらプリンが言った。
「上等だァ!!」
ポトフの言葉を合図に走り出すプリンとポトフ。
「あはは 二人とも素直に"遊ぼう"って言えば良いのに?」
そんな二人を見て、温かく見守るような微笑みを溢すミント。
「? ミントも早く行こうぜェ?」
ミントがつったっている事に気が付いたポトフがにこっと笑いながら言った。
「うんっ!」
こうして三人はグランドを駆け回り始めました。
「ちょ…プリン…サッカー…間違ってる…」
息切れを起こしながらミントが言った。
「…む? …ボールを…奪い合う…球技ではないのか?」
息切れを起こしながら枕とサッカーボールを抱えているプリンが言った。
「…大方…当たってるケド…」
溜め息をつくミント。
「…つうか…魔法で…攻撃してくんなよお前…」
息切れを起こしながらポトフが言った。
「…知るかっ」
ぷいっとそっぽを向くプリン。
彼は三人の中で一番駆け足が遅いので、二人に追い付かれないようにするには、お得意の魔法で妨害するしかなかったのでした。
「しー!!」
…すみません。
『クゥ〜ン』
「「?」」
背後から可愛らしい鳴き声が聞こえてきたので振り向く三人。
『きゃん!』
声の主は、三人の後ろにたっている大きな木の根本に置かれたダンボール箱の中にいる、可愛らしい子犬だった。
「…捨てわんこ?」
ポトフがぽつりと呟くと
「わんわんだー!」
プリンは目を輝かせながら子犬の前にしゃがみ込んだ。
「「わんわん?!」」
プリンの発言に驚くミントとポトフ。
『クゥ〜ン』
「ふふふ 可愛い」
可愛らしく鳴く子犬に柔らかい微笑みを向けるプリン。
「…犬好きなの?」
小首を傾げながらプリンの隣に移動するミント。
「うむ!わんわん大好き!」
元気に頷くプリン。
「…」
静かにプリンの反対隣に移動するポトフ。
『! きゃんきゃん!!』
すると急に子犬が小さな牙を向き、ポトフに向かって吠え始めた。
「…」
自分に向かって吠える子犬を見て、悲し気な顔をするポトフ。
「…ふふふ 即座に嫌われたな」
「あははっ!凄いねポトフ〜」
そんな事を言いながらプリンとミントがポトフの方を向くと
「…美味そう…♪」
先程の表情はどこへやら。
ポトフはナイフとフォークを持って、危険な笑みを溢していた。
「さっきオヤツ食べたばっかでしょポトフ!!?」
オヤツ=骨付き肉。
『うぅうう…』
「む?」
プリンは、ポトフを睨みながら唸っている子犬がカタカタと震えている事に気が付いた。
「…」
そんな子犬を見て
「…寒いのか?」
かぽっ
プリンは子犬が入っているダンボール箱を引っくり返した。
「なっ?! なんてコトしてんのさプリン?!」
慌てて突っ込むミント。
『きゃんきゃんきゃん!?』
ダンボール箱の中で暴れだす子犬。
「ふふふ 感謝されてる」
満足そうに微笑むプリン。
「んなワケ無いでしょ!?」
再び突っ込むミント。
「よくやった枕ァ!!」
ナイフとフォークと左目を怪しく光らせるポトフ。
「ちょっポトフ!?冗談やめ―…」
ミントが慌てて止めに入ると
「丸焼きがオススメだ」
ってプリンが言った。
「何言って…って君さっき"わんわん大好き!"って言ってましたよねえ!!?」
ミントが慌てて突っ込むと
「食の分野で」
ってプリンが言った。
「君のさっきのキラキラした瞳は嘘だったの?!!」
再び突っ込むミント。
『きゃんきゃんきゃんきゃんきゃんきゃん!!!?』
危険を察知したのか、狂ったように吠えだす子犬。
「ほら嫌がってるしっ!!ね?!思い止まろう!?」
ミントが言うと
「…枕?」
「ふふふ…そうだな」
ポトフとプリンは顔を見合わせ
きらーん
「「…そそられる…♪」」
って言った。
「誰かこの危ない人達止めてええええええ?!!!」
食欲旺盛なポトフと、意外とワイルドなプリンに、頭を抱えるミントでした。