第41回 プリント日和
本日最後の授業である六時限目の魔物学の授業中。
「アラモード」
銀髪のセル先生がプリンの席の前に移動しながら言った。
「ぐー。」
プリンは机に枕を置いて、その上に突っ伏して爆睡している。
「起きろアラモード」
プリンの前に到着したセル先生。
「ぐー。」
気付かずに眠り続けるプリン。
「死にたいかアラモード」
セル先生が単調な口調でプリンに言った。
「ぐー。」
眠り続けるプリン。
「よし死ねアラモード」
グサッ
セル先生がプリンに最強最悪の簡易必殺技"目潰し"を見舞わした。
「ぴわ!?」
目を押さえて飛び起きるプリン。
「おはようアラモード」
セル先生が言うと
「うむ。おはよう」
目から手を離して平然と挨拶をするプリン。
「さっきまで話した内容が分かるかアラモード」
セル先生が聞くと
「煮込みうどん」
って答えるプリン。
「よし廊下でバケツ持ちだアラモード」
単調な口調でセル先生がプリンに罰を言い渡すと
「すかーっ」
「…」
今度は反対側からいびきが聞こえてきた。
「起きろフラント」
ポトフの席の前に移動するセル先生。
「すかーっ」
ポトフは机に突っ伏して爆睡している。
「死にたいかフラント」
単調な口調でセル先生が言った。
「すかーっ」
気付かずに眠り続けるポトフ。
「よし死ねフラント」
グサッ
セル先生がポトフに最強最悪の簡易必殺技"目潰し"を見舞わした。
「ぐはァっ!?」
目を押さえて飛び起きるポトフ。
「おはようフラント」
セル先生が言うと
「おはよォございまァす」
目から手を離して平然と挨拶するポトフ。
「さっきまで話した内容が分かるかフラント」
セル先生が聞くと
「煮込みうどん」
って答えるポトフ。
「よしお前もバケツ持ちだフラント」
薄暗い廊下に、表面張力が見えるくらいに水が入ったバケツを両手に持ち、ついでに頭にも乗っけている影が三つ。
「…なんで…オレまで…」
二つの高い影の間でガタガタ震えるミント。
このガタガタは恐らく、重いバケツのせいだけではない。
「あっはっはっ!悪ィなミントォ?」
ミントの右側にいるポトフが言った。
「…悪いと思うなら…」
ギギギと右を向くミント。
「"俺ミントが居なきゃヤだヤだヤだァV"とか先生に言うなあ!!」
ミントがポトフに言うと
「だって…そォしないとミントが部屋で一人になっちまうだろォ?」
にこっと微笑むポトフ。
「いえ。むしろそうさせて下さい」
ミントが言い返すと
「ぐー。」
「「…」」
反対側からいびきが聞こえてきた。
「ぐー。」
いつもの単調ないびきをしているプリンは、枕を離すのを断固拒否した為、右足を上げて、その膝に右手の代わりにバケツを乗っけている。
「…反省の色がまったく見えないね」
そんなプリンを見て溜め息をつくミント。
「あっはっはっ!授業中に爆睡するなんて馬鹿だよなァ〜!!」
「あははっ 君もだよ」
「終了だ」
しばらくすると、セル先生がやってきた。
「ふぇ〜い…」
やっと終わったか…という感じにバケツを下に置くミント。
「あっはっはっ!両手の感覚がねェや〜大丈夫かコレっ♪」
テンションがおかしくなっているポトフ。
「ぐー。」
眠り続けるプリン。
「…」
グサッ
セル先生がプリンに最強最悪の(略)。
「ぴわ!?」
目を押さえて飛び起きるプリン。
ザバーっ
と引っくり返るバケツ。
「…びしょびしょ」
になってしまったプリン。
「…プリントだ よく読んでおくんだな」
そう言って三人にプリントを渡すと、セル先生は帰っていった。
「…くちゅんっ!」
くしゃみをするプリン。
「…大丈夫プリン?」
「あっはっはっ!馬っ鹿みてェ!!」
がぶがぶ
「…水にも致死量があるの知ってるポトフ?」
バケツの水を飲むポトフにミントが言った。
部屋に帰ってきた三人。
「あ。そう言えば何のプリントかな?」
部屋の電気を付けながらミントがプリントを見ると
「!?」
パラッ…
ミントは驚いてプリントを落としてしまった。
「? どォしたんだァ?」
プリンにバスタオルを投げつけながらポトフが聞くと
「…授業参観のお知らせ」
バスタオルを受け取ったプリンがミントの代わりに答えた。
「授業参観んんん!!?」
頭を抱えるミント。
「…親が欠席の場合はその理由を明記の上、担任に提出するそうだ」
そんなミントを見てプリンがプリントを読みあげた。
「! じゃあ呼ばなくても良いんだねっ!?」
バッと顔を上げるミント。
「うむ。」
頷くプリン。
「わーん!!プリン大好きーっ!!」
ガシッ
涙目になりながらプリンに抱きつくミント。
「…照れる」
枕で顔を隠すプリン。
「いやそれは別にコイツのおかげじゃねェだろ?」
ポトフはそう言うと
「…おやすみィ」
ばふっ
と布団の中に潜った。
「「…?」」
テンションが妙に低いポトフに小首を傾げるプリンとミント。
「…おやすみポトフ」
プリンから離れてそう言った後、ミントは
「さてとっ!早速"欠席"に丸っと♪」
テーブルに移動して授業参観の紙の欠席の欄に丸をつけた。
「む?それは保護者が記入する―…」
「知らない♪」
にこっと笑ってプリンの言葉を遮るミント。
「理由は〜…」
そしてミントは欠席の理由を考え出した。
「…では僕も」
ミントの隣で同じように欠席の欄に丸をつけるプリン。
「あれ?プリンも親に来て欲しくないの?」
ミントが尋ねると
「…僕の両親は忙しくてどうせ来る事が出来ないし、それに―…」
解答途中で言葉を詰まらせるプリン。
「それに?」
ミントが聞き返すと
「…なんでもない」
ぷるぷると首を横に振るプリン。
「…そ?」
プリンが言いたくないようなので
「じゃあ理由は何にしよっかな〜?」
話題を変えるミント。
「うむ。出来た」
するとプリンが言った。
「速いね!?」
ツッコミながらプリンのプリントを覗き込むミント。
そこには父親と母親の欠席理由の欄に"仕事"とプリンの綺麗な字で記入されていた。
(…なんか悲しいなコレ…)
とか思うミント。
「って、プリンのお母さんも働いてるの?」
社長の妻なのに、とか思いながらミントが聞いてみると
「うむ。僕の母親は会社で"泡で出る洗顔料"を製造している」
って答えるプリン。
「ほぇ〜」
(社長の妻なのに社長の会社で?)
とか思いながらミントが頷いていると
「だから毎日会社であわあわしてる」
ってプリンが言った。
「…ん? あわあわ?」
頷きを停止して聞き返すミント。
「うむ。普通の洗顔料を泡立てている」
プリンが言った。
・・・
・・・・・・
「…え?そうやって作るのアレ?」
ミントが聞き返すと
「あわあわ」
頷くプリン。
「そ…うなんだ?」
泡で出る洗顔料を使いにくくなってしまったミント。
「ミントは何て書く?」
今度はプリンが尋ねる。
「あ。そだった!」
ハッと思い出して
「どうしようかな〜?」
考え始めるミント。
「あわあわ」
隣からプリンの意味不明なエールを贈られながら。
「う〜ん…あ!」
すると閃くミント。
「あわあわ?」
小首を傾げるプリン。
多分、内容を聞いているのだろう。
「"変人だから"とか!?」
ミントが言うと
「あわあわ」
首を横に振るプリン。
多分、それは理由にならないと言っているのだろう。
「…じゃあ…"短足で駅の階段が上がれないから"とか?」
ミントが言うと
「あわあわ!?」
ミントを見るプリン。
多分、どんだけ短いの!?って驚いているのだろう。
「ん〜…"すぐ溶けるから"とか!?」
核心をついたようにミントが言うと
「あわあわ!!!?」
再びミントを見るプリン。
多分、食べ物!?って驚いているのだろう。
「…じゃあ…"仕事"でいっか」
プリンの反応を見て、仕方なさそうにミントが言った。
「あわあわ…」
胸を撫で下ろすプリン。
「…で?何で普通に喋んないの?」
「なんとなくだ」
「はは…そう?」
こうして、ミントとプリンの両親は授業参観があることも知らされずに欠席する事となりました。