第4回 魔法入門日和
雲一つない青い空。小鳥達がさえずり、清々しい朝の訪れを皆に伝える。
「…プリン起きて?」
帽子を被りながらミントが言った。
「ぐー。」
プリンは死んだように眠っている。
「プリン?」
ミントがベッドに近付いた。
「ぐー。」
「プリーン?」
プリンを揺するミント。
「ぐー。」
「起きてよー?遅刻しちゃうよ?」
プリンをばしばし叩いてみるミント。
「ぐー。」
「プーリーンー!!」
プリンのほっぺをつねってみるミント。
「ぐー。」
「起きろー!!!!」
そのまま左右にニョーンって引っ張るミント。プリンのイケメンが台無しだ。
「ぐー。」
「…致し方無い」
ミントが呟いた。
「もー…遅いなぁミント達…」
ココアが言った。
「…授業始まっちゃうよー」
そわそわしながら教室の後ろのドアを確認するココア。
「朝御飯にも降りて来なかったし…もー」
「落ち着きがありませんわね?ココアさん」
ココアの隣に座っていた赤縁眼鏡をしたレモンが言った。
「委員長…ミントとプリンがまだ来ないのー…」
「レモンですわ」
この様子だと、レモンがウサギさん寮の学級委員長になっているみたいですね。
「ってまあ!初日から遅刻ですの?!だらしないっ!」
「そうなのー…どうしよう…」
「弛んでますわ…!!お仕置きが必要ですわね!!」
レモンが言うと
キーンコーンカーンコーン
「「!」」
授業開始の鐘が鳴り始めた。
「わー!!遅刻しちゃうー!!」
「クラスの恥ですわー!!」
ココアとレモンが叫んだ。
キーンコーンカ…
ガララッ!!
「「!」」
教室の後ろのドアが開いた。
「ま…間に合った…!!」
息切れしたミントが現れた。
ーンコーン
丁度鳴り終わる鐘。
「遅いよミントー!!」
ココアが言った。
「ご…ごめ―…」
「まったくですわ!初日から遅刻なんて!!」
レモンが言った。
「え…………………誰?」
ミントが尋ねた。
「んなっ!!…なぁんて無礼ですの?!」
レモンに衝撃が走った。
「わ、わたくしは学級委員長のレモンですわ!!」
レモンが怒りながら言った。
「あー!…ハジメマシテ?」
「昨日もお会い致しましたでしょう?!」
レモンが憤慨した。
「それより!」
「「?」」
一人の女子がミントとレモンの会話に割って入ってきた。
よってその二人が声の主を振り向く。
「あんた」
ミントを指差しながらその女子…確かリンゴって名前だ…が言った。
「プリン君はどうしたのよ?!」
「「そーよ!!」」
リンゴが言うと、近くに座っていた三人の女子…確かミカンとプラムとザクロって名前だ…が立ち上がった。
「は?此処にいるけど?」
ミントが顎で後ろを指しながら言った。
「「?」」
ミントの後ろを覗き込む四人。すると
「きゃー?!」
リンゴが悲鳴をあげた。
「あ、あんたっ…プリン君になんてコトしてんのよ?!」
ミカンが言った。
ミントはプリンの両足をしっかりと持っていた。
「何って…起きないから引きずってきた」
「「死ね赤緑!!」」
そう言って四人はミントを突き飛ばした。
「うわ?!」
「ミント!大丈夫!?」
慌ててミントに駆け寄るココア。
「プリン君、大丈夫?」
「どこか痛いところない?」
ミントを突き飛ばした四人が心配そうにプリンに話しかけた。
「ぐー。」
しかし、プリンはまだ枕を抱えたまま眠っていた。
「「素敵ー!!!!」」
四人がキャイキャイはしゃいだ。
「…ひ…人が気にしてるコトを…!!」
ミントが起き上がりながら言った。
「本当本当っ!暴力はんたーいっ!」
ココアが言った。
「ゴホンッ!!」
「「!」」
大きな咳払いで教室が静まり返った。咳払いの主を振り返るウサギさん寮の皆さん。
「…そろそろ授業を始めても?」
教卓には、黒い髪をしたポリー先生が立っていた。
「「…すみません」」
おとなしく席に着く皆さん。
「…欠席はいませんね?」
ポリー先生が名簿を確認しながら言った。
「では授業を始めます。机の上に置いてある教科書の四ページを開いて下さい」
それぞれ机の上に置いてある、分厚い怪しげな教科書を手に取り四ページ目を開く皆さん。
「この"魔法学"の授業では魔法の基本を皆さんに学んでもらいます」
先生が言った。
「魔法を使うに当たって、必需品になる物は何か分かりますか?」
質問を投げ掛ける先生。
するとスッと手が挙がった。
「…ではレモンさん」
先生が手を挙げたレモンを指した。
「はい。"杖"です」
レモンが言った。
「その通りです。」
おおーっと周りから感心した声があがる。
「凄いね委員長!」
こそっと話しかけるココア。
「当然ですわ」
タカビーに返すレモン。
「…では、皆さんに杖を配ります」
先生が言った。
そして右手の指を格好良くパチンッと鳴らした。
ゴトッ
「「!」」
それぞれの生徒の机の上に、木で出来た三十センチくらいの杖が現れた。
「…魔法には"属性"というものがありま―…」
「ぐー。」
「…」
不機嫌に顔を上げる先生。怒りの矛先は、間違いなくプリンに向けてある。
「…ではプリンさん」
先生が言った。
「さっ…指されてるよプリン!」
ミントがプリンをつついた。
「…うむ?」
漸く目を覚ましたプリン。キョトン顔で教室を見回す。
((可愛い〜っっ!!!!))
キュンキュンするフルーツ四人組。
「…魔法の属性を全て述べて下さい」
先生が言った。
「む?僕か?」
プリンが尋ねた。
「はい。もし分からなかった―…」
「魔法の属性には炎、水、雷、風、木、地、氷、光、闇、無の十個がある」
プリンがさらっと言った。
「………………正解です」
先生が悔しそうに言った。
((素敵ー!!!!))
メロメロ四人組は置いといて、他の生徒から尊敬の眼差しを受けるプリン。
「す、凄いねプリン!」
ミントが小声で言った。
「…照れる」
顔を隠すプリン。
「…ですが、皆さんではまだ属性魔法は危険ですので、まず"無"の魔法を覚えましょう」
先生が言った。
「では、魔法入門の"浮遊魔法"をやってみましょう」
杖を軽く振る先生。すると
ふわんっ
「「!」」
先生の教科書が浮いた。
「…この様に、軽く振るだけです。ではやってみて下さい」
先生が言うと、みんなが杖を降り始めた。
ふわんっ
ふわんっ
複数の教科書が浮き始める。
「わー!凄いねみんなっ!」
ミントが目を輝かせた。
「きゃー!見て見てー!!浮いてるー!!」
ココアがはしゃいだ。
「ふむ…これくらいなら―…」
プリンが杖を持った。そして杖を振ろうとした時
「よぅし…オレも!!」
ミントが言った。
ふんっ
そして杖を軽く振る。
・・・
・・・・・・
しかし何も起こらない。
「…え?あれ?!」
ミントが戸惑った。
「ミ…ミント?」
プリンが言った。
「も…もう一回…!!」
再び杖を振るミント。
ふんっ
しかし杖は空気を切るだけだった。
「う、嘘ぉ?!」
ミントが愕然とした。
「あ、あれれ?出来ないなー」
プリンが言った。
「…無理しなくていいよプリン…」
ミントが言った。
ふわんっ
「あぅえわわっ…」
プリンの教科書が浮いた。急いで魔法を解くプリン。
「き、きっと今日調子悪い…」
ミントを励ますプリン。
「…絶好調だよ」
ミントが言った。
「お、お腹空いてるっ…」
「…さっきコーラ飲んだよ」
ミントが椅子から立ち上がった。
てくてくてくてく
すとんっ
「…オレって…才能無いんだ…」
教室の隅っこで体操座りするミント。
「ミ、ミント…」
慌ててミントのところに行くプリン。
「と、トイレ我慢?」
「…朝行ってきたよ」
「あぅえわわっ…」
焦るプリン。
「オレ…落ちこぼれか…」
「ミ、ミント落ちこぼれ違うっ!」
困った顔をするプリン。ミントは今にも"の"の字を書き出しそうだ。
「き、きっとコーラ不足っ…」
頑張って励ますプリン。
「…プリン」
ミントが呟いた。
「…君って良いヤツだな…」
ミントが顔を上げ、瞳を潤わせながら言った。
「こんな情けないオレを…励ましてくれるのか?」
ミントが尋ねた。
「な、情けないくない!ミントは僕のトモダチだ!」
プリンが言った。
「プリン…!」
ミントが立ち上がった。
「…オレ、そんなボケボケなプリンが大好きだよ!!」
「…照れる」
顔を隠すプリン。
「オレ…頑張るよ…!!」
ミントが涙を拭った。
「うむ。頑張れ!」
プリンが言った。
ふんっ
三度杖を振るミント。
・・・
・・・・・・
特に何も起こらなかった。
「わーん!!」
「あぅえわわっ…」