第37回 馬鹿日和
「くっそ…なんでよりによって今日…」
頭を抱えながら森の中を歩くポトフ。
「…さっさと終わらせねェとな…」
そう呟くと、ポトフは頭から手を離して顔をあげた。
「!」
すると
「あんな所に骨付き肉が!!」
ポトフは白いお皿の上に乗った骨付き肉を見付けた。
タッ
迷わず骨付き肉の元へ走るポトフ。
「いっただっきまァす♪」
骨付き肉に辿り着いたポトフが胸の前で両手を合わせると
ガションっ
「…れ?」
上から檻が降ってきて、ポトフはその中に捕えられてしまった。
ガササッ
『ギャハハ!馬鹿だ!こいつマジ馬鹿だ!!』
茂みの中からライオンのような魔物が現れた。
「くっ…罠か!!」
悔しそうに口の周りの汚れを拭うポトフ。
『って食うの速っ?!ってか食ったんだ!?』
ポトフが僅か三秒で骨付き肉を食べ終えたので思わず突っ込む魔物。
「おい 出せよテメェ?」
檻の中でポトフが言うと
『ギャハハ!出してくれると思ってんの?!』
憎たらしく笑う魔物。
「思ってる」
ポトフが真顔で言った。
『…』
あいたたたー。って表情になる魔物。
『ごめん。ちょっと黙っててくれる?』
ペタッ
「むごっ!?」
魔物はポトフの口にガムテープを貼り付けた。
その後
『ストップ!!』
と魔物が言うと、ポトフの足下に小さな魔法陣が現れ
「!?」
檻にしがみついた状態で、ポトフは身動きがとれなくなってしまった。
『よぅし!こいつを餌にして寄ってきた奴を―…』
それを見て満足そうに魔物が言うと
ガササッ
と茂みの向こうから誰かがやって来た。
(! 来た来た!!)
ニヤリと笑い、茂みに隠れる魔物。
それと同時に
「ぷわ…ねむねむ」
枕を抱えたプリンが欠伸をしながらやって来た。
「むごっ!」
(枕っ!)
ポトフがプリンを呼ぶと
「…貴様、そんな所に入って何をしている?」
檻の前に来たプリンが、小首を傾げながら尋ねた。
「むごむごむごむごっ!?むごむごむごむごむご!」
(見て分かんねェのか!?捕まっちまったんだよ!)
ガムテープが口に貼ってあるので上手く発音出来ないのだが、必死にプリンに訴えるポトフ。
「…ふっ…馬鹿みたい」
しかし、ポトフはプリンに鼻で笑われてしまった。
(コロス!!)
殺意が渦巻くポトフ。
ガササッ!
『ギャハハ!覚悟しろ女ぁ!!』
すると、先程のライオン的な魔物が茂みの中から飛び出してきた。
(は?いやこいつは男―…)
ポトフが心の中で突っ込むと
「…? 僕はプリンだ」
ってプリンが言った。
(いやいやその名前から性別は判断し難いぞ?!)
再び突っ込むポトフ。
『おでを見ても驚かないとは…気に入ったぞ女ぁ!』
魔物はそう言い終わると、鋭い牙を剥き出しにしてプリンに襲いかかった。
ピュッ
『っ!?』
一瞬にしてその場からプリンが消えたかと思うと
「枕が代わって…」
とっ…
『!?』
自分の背後に現れたプリンに驚く魔物。
「お仕置きよー!!」
ドカアアアアアアアアアン
間発入れずに、プリンは魔物を枕でホームランした。
『がはっ…!!』
飛んでいった勢いで、太い木の幹に激突する魔物。
(いつも思うんだが、その必殺技は許されるのか?)
とか思うポトフ。
「僕はプリンだと言っているだろう」
枕を抱え直しながらプリンが言った。
『か…ハハハ…お前はプリンという名だが…女だよ』
ヨロヨロと起き上がりながら魔物が言った。
(その名前で性別判断出来るのかお前?!ってか男の名前なのかソレ!?)
突っ込むポトフ。
「…何?」
プリンが聞き返す。
『腰まである長い髪…可愛い枕…そして何より!』
(可愛い枕って…)
魔物の発言に突っ込むポトフ。
『…お前さっきなんて言った?』
魔物は鼻で笑いながらプリンに尋ねた。
「…?」
先程の発言を思い出すプリン。
"枕が代わってお仕置きよー"
…ん?
"枕が代わってお仕置きよー"
・・・。
拡大。
"お仕置きよー"
・・・。
更に拡大。
"よー"
・・・。
「っ?!」
ある事に気が付くプリン。
『ギャハハ!そうさ!!お前は今、女言葉を使ったのさ!!』
そんなプリンを見て、楽しそうに笑う魔物。
(いやそれだけで性別は判断し難いだろ!?)
再び突っ込むポトフ。
「なん…だと…?!」
若干震えながら聞き返すプリン。
(ええええええええ!?何動揺しちゃってんの!?)
またまた突っ込むポトフ。
『ギャハハ!こいつはお笑いだな!!その歳で自分の本当の性別も知らなかったなんてなぁ!!』
お腹を抱えて笑う魔物。
(いやそんなワケ―…)
ポトフが思いかけると
「ぼ…僕は…女…?!」
頭を抱えるプリン。
(馬鹿ァァァァァァ!!?)
そんなプリンにツッコミを入れるポトフ。
思わず檻を掴んでいる手に力が入った。
すると
ガコッ
(!)
檻が前方に傾き、足下の魔法陣が消えた。
『隙だらけだぜ!!』
そんななか、頭を抱えているプリンに襲いかかる魔物。
ベリッ
「避けろ枕ァ!!」
口に貼ってあったガムテープを剥がしてポトフが叫んだ。
「…え?」
顔をあげるプリン。
『もう遅い!!』
牙を剥く魔物。
ドッッッッ
「…?」
思わず目を瞑ったプリンに痛みは無かった。
ゆっくりと目を開けるプリン。
ポタポタッ
すると、目の前の地面に赤い血が滴り落ちた。
「…!」
プリンと魔物の間には、ポトフの姿があった。
「…お前…っ!?」
魔物の鋭い牙は、ポトフの右腕に深々と突き刺さっていた。
「…ってェ!!!」
ドカッ!!
魔物が噛みついている右腕を大きく振って、魔物を地面に叩き付けるポトフ。
『きっ…貴様あっ!!どうやって抜け出したぁ!?』
素早く起き上がった魔物が言うと
「いや…普通に持ち上げられたぞ?アレ」
って右腕を押さえながらポトフが言った。
『なっ!?』
バッと檻の方を向く魔物。
『くっ…釘打ち忘れてた』
体操座りする魔物。
「だっ…大丈夫か?!」
プリンが心配そうにポトフの右腕を見ながら尋ねると
「…トリート」
ってポトフが言った。
ぷわっ
「!」
みるみる癒えてゆくポトフの右腕。
"ヒール"より一段上の回復魔法です。
「…ったく…何の為のテレポートだ?」
右腕の治療が終わると、ポトフが言った。
「…だって…」
下を向くプリン。
「?」
ポトフが小首を傾げると
「あいつが僕は女だって…!!」
顔をあげたプリンが真顔で言った。
「…あのなァ?」
溜め息をつくポトフ。
「…?」
プリンが小首を傾げると
「お前は男だァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
キーーーーーーーンッッッ
ポトフは叫びながら思いっ切りプリンを蹴りあげた。
?
…何処を?
…ご想像にお任せします。
ドサッ…
地面に崩れ落ちるプリン。
「…思い知ったか?」
ニヤリと笑いながらポトフが言うと
「…き…さま…っ!!」
震えながら起き上がるプリン。
「下品にも程があるぞ!?」
そしてプリンが言った。
「知るか!テメェが馬鹿すぎんのが悪ィんだろ!?」
言い返すポトフ。
「うっ…煩いっ!!馬鹿が馬鹿って言うな!!」
更に言い返すプリン。
「はァ?少なくともテメェよりは馬鹿じゃねェよ!」
更に更に言い返すポトフ。
「黙れ超越馬鹿!!」
まだまだ言い返すプリン。
『くそぅ…こうなったら貴様ら二人まとめて―…』
体操座りから立ち直った魔物が唸りながら二人に言った。
「…あんだと?」
無視してプリンに言い返すポトフ。
『…ギッタンギッタンに…』
魔物は続けて言うが
「一度で聞き取れ馬鹿!」
再び無視されてしまった。
『あの…』
焦る魔物。
「上等だァ!!」
それも無視。
『おっおでを無視するなあっ!!』
ついに魔物が怒鳴った。
すると
「「…あ?」」
同時に魔物を睨む二人。
ゾワッ
『っ!?』
凄まじい殺気。
「…テメェさっきからウゼェんだよ」
魔物を睨みつけながらポトフが言った。
「貴様のせいで僕が馬鹿に馬鹿呼ばわりされているのが分からないのか馬鹿?」
魔物を睨みつけながらプリンも言った。
『え?いや…その…』
たじろぐ魔物。
これがこの魔物の最後の言葉となった。
「「失せろ馬鹿!!」」
ドカアアアアアアアアアン
プリンのフルスイングと、ポトフのミドルキックがクリーンヒットした魔物は、吹き飛びながら消滅してゆきましたとさ。