第34回 美術日和
昼食の時間となりました。
「…嘘ぉ?」
オムライスを食べていたミントの手が止まった。
「ホントだよー!」
ココアをスプーンで掻き混ぜながらココアが言った。
「む?どうした?」
枕から顔をあげたプリンが尋ねると
「この前王都行ったとき、"ゲヘヘ"って笑う人に会ったのー」
って答えるココア。
「ふむ 特殊だな」
プリンをお皿にプッチンしながらプリンが言った。
((いや人の事言えないと思うが?))
プリンの膝の上に乗っている枕を見ながらそんな事を思うミントとココア。
「…それでねー?」
まあいいかと話を続けるココア。
「なんとその人、ぶくぶくーって溶けちゃったのー!!」
ガッチャーン
ココアがそう言った瞬間、ミントはくわえていたスプーンを床に落としてしまった。
「? スプーン落ちたよミントー?」
そのスプーンを拾ってミントに差し出すココア。
「…」
しかしミントは反応せず、ただただ、小刻に震えていた。
「む? ミント震えてる」
プリンが小首を傾げながら言うと
「ミ〜ントっ!!」
ガバッ
ミントは後ろからポトフに抱きつかれた。
「次は美術だろ?早く移動しようぜェ?」
ミントに抱きついたポトフが言うと
「そそそそそうだねっ!!早く移動しなきゃねっ!!美術室は此処から一番遠いもんねぇポトフ!!!?」
妙に裏返った声でミントが言った。
「…どしたんだァ?」
ポトフが尋ねると
「なっなんっなんでもないよポトフ!!さあ行こう!美術室へさあ行こう!!」
ミントが言った。
「いやそうじゃなくて…コレ、もう食わねェのか?」
ポトフが食べかけの…と言ってもほとんど手付かずのミントのオムライスを指さした。
「あっあははっ!食べるポトフ!?」
不自然に笑いながらミントが言うと
「食う!!」
嬉しそうにオムライスを食べ始めるポトフ。
「…あ」
そんなポトフを見て、プリンが思わず声を出した。
「?」
その声に気付き、スプーンを口に入れた状態で停止するポトフ。
「…それ、さっき床に落ちたヤツだよー?」
ポトフがくわえているスプーンを指さしながらココアが言った。
ガッチャーン
再び床に落ちるスプーン。
「…ミント…もう行こうぜ?」
残りのオムライスをひょいっと口の中に入れると、ポトフは席から立ち上がりながら言った。
「そうだね!!あはっあはははははっ!!」
不自然に歩き出すミント。
「「…」」
空になったオムライスの皿を無言で見つめるココアとプリン。
「…まあ…食べ残しはよくないよね?」
ココアが言うと
「…物は言いようだな」
ってプリンが言った。
「では、今日は今までに習ってきたスケッチの仕方、配色、明暗などを駆使して隣の席のお友達を描いて下さい」
黄緑色の髪をしたケア先生が言った。
ガタガタと行動を開始するウサギさん寮の皆さん。
「…ってコトは、オレはサラダを描けばいいのか」
ミントが画材道具を取り出しながら言うと
「よっよろしくお願いします…」
ミントの隣の席に座っている猫耳少年のサラダが言った。
数十分後。
「でっ…出来ましたっ」
サラダが言うと
「オレもっ♪」
紙から絵筆を離しながらミントも言った。
「ね!見せて見せて!」
ミントがサラダに言うと
「に…似てなくてすみませんっ!」
って言いながら、サラダは自分が描いた絵をミントに見せた。
「凄っ!!!!!!!?」
思わず目を見開くミント。
サラダの絵は、鏡なんじゃないかって思うくらいミントにそっくりだった。
「凄い凄い凄い凄い凄いサラダ!!その四本指の猫の手でよくこんな上手に描けるね!?」
ミントがはしゃぎながら言うと
「こ…これで生活してますから…」
猫の手を振りながらサラダが言った。
「あ!み…ミントくんのも見せて下さいっ!」
自分が描いた絵を机に起きながらサラダが言うと
「はい!」
ミントは、ミントの描いた絵をサラダに見せた。
「…っえ?」
石化するサラダ。
「どう?!」
サラダに感想を求めるミント。
「え…い…いや…どう…って言われましても…」
サラダがリアクションに困るのも無理は無かった。
だってミントが描いた絵はどう見たって
(棒人間んんんん!!!?)
なのですから。
「わ!もうすぐ終りの時間じゃん!!…ギリギリ間に合ってよかったぁ〜」
時計を見ながらミントが言った。
(一体これの何処に時間がかかったのでしょう?)
とか思うサラダ。
「いやぁ〜配色って難しいね〜」
画材道具を片付けながらミントが言った。
(白黒じゃないですか)
とか思うサラダ。
「でもなんか足りない気がするんだよなぁ〜」
自分が描いた絵を見ながらミントが言った。
(足りないものだらけじゃないですか)
とか思うサラダ。
すると
「あははっ!何それミントー!」
そこにココアがやってきた。
「えぇ?どう見たってサラダじゃん」
ほっぺを膨らますミント。
(ミントくんはぼくが棒人間に見えるんですか?)
とか思うサラダ。
「全然違うよー!それじゃサラダが可哀想だよー?」
ココアが言った。
(本当ですよ)
とか思うサラダ。
すると
キュポンっ
(?)
ココアが太い茶色のマジックペンの蓋を開けた。
そして
(!?)
キュッキュッキュッ
「…こうしなきゃー!」
ココアはミントが描いた棒人間に妙に上手い猫耳と猫髭と尻尾を付け加えた。
「あー!!それが足りなかったのかー!!ってか絵上手いねココア!!」
ミントが言うと
「えへへー♪でしょー?」
微笑むココア。
(…完全にミスマッチです)
被害者サラダくんでした。
「あ!プリンは描けた?」
そう言いながら、くるりと後ろを向くミント。
「ぐー。」
しかしプリンはいつも通り爆睡していた。
「本当よく寝るよねー?」
プリンの頭をつつきながらココアが言った。
「まったく…折角隣の席の人が描いて―…」
くれてるのに、とミントが言う前に
「すこーっ」
っていびきがプリンの隣から聞こえてきた。
「「ポトフ?!」」
思わぬ隣人に目を見開くミントとココア。
「…寝てるけど…」
「…隣同士で座るなんて珍しい…」
ミントとココアが言った。
とは言っても、プリンとポトフは長テーブルの右端と左端に座っているのだが。
「ぐー。」
「すかーっ」
「…」
気持ちよくいびきを掻きながら爆睡している二人を見て
「よいしょ」
ズズズズズズズズズズズズ
ミントは二人の椅子を引きずって、離れていた二人をくっつけてみた。
「…む…」
「んぐ…」
グラッ
するとバランスが崩れて
「ぐー。」
「すかーっ」
プリンとポトフは寄り添うように眠り始めた。
((きゃああああああ!?))
((グッジョブミント!!))
滅多にお目にかかれない光景にとっても興奮する女子の皆さん。
その時
キーンコーンカーンコーン
終業の鐘が鳴り始めた。
「では今日はここまでです」
先生の言葉を合図に、生徒達はガタガタと椅子から立ち上がった。
キーンコーンカーンコーン
「「…ん…」」
ぱちっ
丁度目を覚ますプリンとポトフ。
「「…?」」
自分が何かに寄りかかっているコトに気付いてゆっくりと体勢を直す二人。
すると
「「!!!!!!!?」」
目の前に現れた顔にこの上なく驚く二人。
「やんっもう起きちゃった〜」
「「寝起きもカッコイイ〜☆」」
「ねぇちょっと図書室よってかない?」
「「いいよ〜」」
するとプリンとポトフを見ていた女子の皆さんが退室し始めた。
((…))
みんなに紛れてそそくさと退室するミントとココア。
目を見開いているプリンとポトフ以外誰もいなくなる教室。
「「…」」
思考開始。
・・・チッ
・・・チッ
・・・チッ
・・・・・・・・・チン♪
「「ミントおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
思考終了。
怒鳴りながら、二人は教室を飛び出していった。
「あらら バレちゃったみたいだよミントー?」
ココアがミントの服を引っ張りながら後ろを向いた。
「へ?」
ミントが振り向くと
ドドドドドドドドドドドド
「?!」
目を怪しく光らせながらこちらに向かって疾走するプリンとポトフが見えた。
「ぎゃあああああああ!?なんで!?今完全にみんなに紛れてたじゃん!!?」
死ぬ気で走り出すミント。
「「クリスマスカラーに帽子被ってるのはお前だけだああああああああ!!」」
「遺伝子の馬鹿野郎おおおおおおおおおおおお!!」
ドカ―――――――――ン
「…元気だねー?」
そんな様子を見て、ひとり微笑むココアでした。




