第31回 過去夢日和
まだ五歳の幼いプリンは、部屋で絵本を読んでいた。
ガチャッ
「プリン?プリンは枕が欲しいって言ってたよな?」
そこへ青い髪をした長身の紳士が入ってきて言った。
「んーん」
首を横に振るプリン。
「僕、枕よりわんわんがほしい!」
プリンが言った。
「…え?!」
プリンの言葉に激しく焦り出す紳士。
そしてチラリと隠し持っていたプレゼントを見た。
「…!」
そして閃いた。
「しっ知ってるかプリン?枕を片時も放さずずっと持っていると、お願い事が叶うんだぞ?」
紳士が言った。
「ほんとうお父さん!?」
プリンが目を輝かせながら言った。
「ああ!誕生日おめでとうプリン!」
そう言ってプリンにプレゼントを差し出す紳士改めプリンの父。
「わー!ありがとう!」
プレゼントの中身は、今も彼が大切に持っている少し大きめの枕であった。
本日の幼稚園は午前中だけだったので、プリンは下校がてら森にお散歩する事にした。
「今日お弁当いらないのにもってきちゃった」
鞄の中に入ったお弁当箱を見ながらプリンが呟いた。
テクテクテクテク
しばらく森の中を歩いていると
「むぅ…」
枕を抱えているせいか、プリンはだんだんと眠くなってきた。
「…ねむねむ」
眠気に耐えきれなくなったプリンは大きな木の下に座り、枕を抱えたままウトウトと眠りについた。
ホー。ホー。
「…む?」
ようやく目を覚ましたプリン。
「! 真っ暗!」
気が付けば辺りは暗くなっていて、紺色の空には真ん丸い金色の月が美しく輝いていた。
「うう…こわい」
枕をギュッっと抱き締めながら不気味な夜の森をトボトボ歩き出すプリン。
すると
ガササッ
「!」
プリンの前方の茂みから、何かが動く音がした。
『グルルルル…』
次いで聞こえる危険な唸り声。
「やっ…ヤー!!」
プリンが叫ぶと
ガササッ
『クーン!!』
「!!」
茂みの中から黒い狼が遠吠えしながら現れた。
「あ!わんわん!」
その狼を見て、プリンが言った。
『グルルルル…』
狼はプリンを睨み、鋭い牙と牙の隙間から涎を滴らせながら唸っている。
「お腹がすいているの?」
その様子を見てプリンが言った。
『グルルルル…』
油断なくプリンの隙を窺っている狼をしり目に
ガサゴソ
「いっしょに食べよう?」
プリンは鞄の中からお弁当箱を引っ張り出した。
『!』
武器を出したと思ったのか、ビクッと反応する狼。
そんな狼に
「ふふ♪お父さんのお弁当は美味しいんだよ?」
プリンが微笑みながら言った。
そしてカパッと蓋を開けるプリン。
美味しそうな匂いが辺りに漂う。
『ワフッ?』
敏感に匂いをキャッチした狼。
「こっちおいで?」
プリンが再び微笑みながら言った。
『…』
プリンを警戒しながらも徐々にプリンに近付いてゆく狼。
そしてついに狼は、プリンの元へと辿り着いた。
「ふふふ 可愛い」
自分の元へやってきた狼の頭を撫でるプリン。
『!』
その行動に再びビクッと反応する狼。
「ふふふ」
『…キューン』
しかししばらくすると、狼は完全にプリンへの警戒を解いた。
『フカフカ』
そしてお弁当箱の右端で鼻をヒクヒク動かす狼。
「ポトフ…食べたいの?」
その行動を見て、プリンが狼に尋ねた。
『ワオーン!』
吠えて答える狼。
「ふふっいいよ」
プリンは狼が食べやすいようにお弁当箱を地面に置きながら言った。
すると狼はガツガツとポトフを食べ始めた。
「わんわんはトモダチいないの?」
しゃがんでその様子を観察しながらプリンが尋ねた。
『…』
特に何も反応せずにポトフを食べ続ける狼。
「ふふふ…僕と同じだ」
それを同意したと判断したプリンが言った。
「僕の幼稚園にいるトモダチはね?お母さんやお父さんに"仲良くしときなさい"って言われてるんだって」
狼の頭を撫でながらプリンが言った。
『…』
無言でポトフを食べ続ける狼。
「…そんなの…トモダチじゃないよね?」
そしてプリンが震える声で呟いた。
『クーン…』
「む?」
すると狼がプリンの足に顔を擦り付けてきた。
『クンクーン』
気持ち良さそうにその行動を繰り返す狼。
「ふふ…僕とトモダチになりたいのか?」
そんな可愛らしい行動を見てプリンが微笑みながら尋ねた。
『ワオーン!!』
吠える狼。
「うむ!じゃあ僕とわんわんは今日からトモダチ!」
『ワオーン!!』
嬉しそうにプリンが言うと狼も嬉しそうに吠えた。
その時
「あ!でももう帰らなきゃ!」
プリンが思い出したように言った。
『クーン?』
それを聞き、悲しそうに首を傾げる狼。
「ふふ…いっしょに帰ろう?」
そんな狼にプリンが微笑みながら言った。
『ワオーン!!』
すると狼は元気に吠えて、プリンとを背中に乗せて走り出した。
「わー!速い速い!」
『クーン!!』
森を抜けてしばらくすると大きな家が見えてきた。
「あれが僕のおうち!」
狼の背中に乗ったプリンが言った。
『クーン!』
その家めがけて一直線に走る狼。
すると
ドカッッッ
『キュインっっ!!』
鈍い音と共に、狼の体は宙を舞った。
「わ!?」
振り落とされるプリン。
「大丈夫かプリン!?」
慌てて走ってきたプリンの父は、狼と共に宙を舞ったプリンをキャッチした。
「…む?」
プリンは父の腕の中で
「!!」
顔に刺さったナイフから大量の血を滴らせている自分乗せていた狼を見た。
「わっわんわんに何したのお父さん!?」
慌てて父の腕から降りるプリン。
「何言ってるんだい!?プリンを助けたに決まってるじゃないか!」
プリンの父はそう言った後
「狼は肉食なんだぞ?!」
と付け加えた。
つまり狼にナイフを投げたのはプリンの父。
「! わんわんは僕を食べたりしないもん!!」
そう言ってプリンは狼の元へと走り出した。
『!』
タタッ
すると狼はプリンの動きに合わせてバックステップをふみ、プリンとの距離をとった。
「…え?」
その行動にプリンが驚いていると
『グルルルル…』
傷付いた狼は再びプリンに牙を向けて唸り出した。
「わ…わんわん?」
あまりにも脆い信頼関係にプリンが絶句していると
『ワオーン!!』
「!?」
恐ろしい形相で狼はプリンに襲いかかってきた。
「!! プリン!目を瞑って自分の部屋をイメージしろ!!」
プリンの父が叫んだ。
「っテレポート!!」
彼の言う通りに目を瞑ったプリンはとっさにそう叫んだ。
ピュッ
『!?』
するとプリンの姿が消えた。
「流石…私の息子だ!」
それを見たプリンの父が言った。
ガチンッ
「!」
『グルルルル…』
顔からナイフを振り落とした狼は、今度はプリンの父に牙を向ける。
「ふっ…大出血してるくせに強がるなよ…!!」
するとプリンの父は懐から
『!』
「ふふふ…美味しそうだろう?」
分厚い生肉を取り出した。
「そーら!」
それを思いっ切り遠くに投げるプリンの父。
『ワオーン!!』
ただちに生肉を追い始める狼。
「あっはっは!もう戻ってくるなよ〜?」
こうしてプリンの父は、無事に狼を追い払うことが出来ました。
ぱちっ
「…む?」
プリンが目を開けると、そこは真っ暗なウサギさん寮の部屋。
「僕が初めてテレポートしたときの夢…」
そう呟きながら起き上がるプリン。
彼のベッドの隣には
「…」
静かに眠るミントと
「すかーっ」
ミントの隣のベッドでいびきを掻いているポトフがいた。
「…」
ててて
ベッドから降りてポトフの所に移動するプリン。
「すかーっ」
ポトフは眼帯をしたまま爆睡していた。
それを見てプリンは微笑み
「…僕の夢に出てくるな。不快だ」
ばちっ
とポトフの鼻を洗濯バサミで挟んだ。
「す…ごっ?」
途端にいびきのリズムが崩れ始めるポトフ。
「ふふふ」
そんなポトフを見て、プリンは満足そうに自分のベッドに戻ってゆきました。
「ごっ…ごァ?」
「ぷわ…ねむねむ」