第25回 回復日和
年明けの初授業です。
「今年の初授業は回復魔法をやります。百五十八ページを開いて下さい」
黒髪のポリー先生が言うと生徒達がパラパラページを捲った。
「回復魔法とは自分の精神力、つまりMPを削って相手を回復させる魔法のことです」
先生が教科書を読みあげた。
「なので、度が過ぎると自分を滅ぼすことになりますので気を付けて下さいね。」
先生が続ける。
「初級回復魔法は"ヒール"と"キュア"がありますが、ヒールは傷を癒し、キュアは病を癒すものですので、間違えないようにして下さいね」
ここまで言い終わると
「ミントさん」
と言った。
「は、はい?」
突然指されたので驚くミント。
「浮遊魔法で隣にいるプリンさんを浮かせてみて下さい」
先生が言った。
「「!?」」
驚くクラスの皆さん。
「ちょ…ちょっと待って下さい?!オレ、ロストリング先生に返して―…」
「やって下さい」
ミントの言葉を遮るように先生が言った。
「うっ…」
困ったようにプリンの方を向くミント。
「ぐー。」
プリンは眠っていた。
(だから指されたのかー!)
そう突っ込むミントだが顔は青くなったままだった。
何故なら
((プリンくんを爆発させた暁には、どうなるか分かってるよな?))
って殺気の籠った視線を、クラスの女子達からバンバン向けられているから。
「さぁどうぞ?」
先生がミントを促した。
「…プリン…ごめん!!」
ドカアアアアアアアアアン
「ぴわ?!」
「「ミントぉぉぉ!!」」
プリンが爆発した。
同時に女子達のミントへの殺意も爆発した。
突然自分が爆発したことに当然驚いて目を覚ますプリン。
「あっはっはっ!よくやったァミントォ!!」
クラスの皆さんが驚いているなかで、例外が一人。
「本当ごめんプリン!!」
ミントが焦げたプリン…つまり、焼きプリンに駆け寄ると
「はいよく出来ました」
先生が言った。
「「?」」
疑問符を向けるクラスの皆さんと
「…痛い」
痛がる焼きプリンと
「あっはっはっ!」
ウケてるポトフ。
「では、回復魔法を実行してみますね?」
先生が焼きプリンの前に立つと
「…ヒール」
白く温かい光が焼きプリンを包んだ。
すると、プリンの傷は見る見る回復していった。
「「!!」」
驚くクラスの皆さんと
「む?…む?」
状況が把握出来ていないプリンと
「…チッ」
舌打ちをするポトフ。
「では皆さんには萎れかけた花を配ります」
そう言うと、先生が指をパチンと鳴らして各生徒に萎れかけた一輪の花が配付した。
「さあ言ってみて下さい。"ヒール"」
先生が教卓に戻りながら言った。
((最初からこうしてよ…))
とか思うクラスの皆さん。
「ごめんごめんごめんごめん本当ごめんねプリン?!」
久しぶりのミントの謝り攻撃を受けるプリン。
「だ、大丈夫だミントっ」
プリンが慌てて言うと
「ヒール」
シャキーン
「「?!」」
萎れかけた花を見事に鮮度溢れる花に変えた、つまり回復魔法を成功させた人物が現れた。
「きゃー!凄い凄い凄い凄い凄ーい!!」
成功させたのは興奮しているココア…ではなく
「あっはっはっ!俺って天才ィ?」
ココアの隣に座っていたポトフ。
「凄い凄い凄い凄ーい!」
ココアが目を輝かせながら言うと
「…コツ、教えてあげようかココアちゃん?」
ポトフお得意の流し目プラス肩に手をまわす攻撃。
「「きゃー?!」」
羨ましがる女子達。
「…はぁ」
ぽわんっ
ココアが杖を振ると
「おあっ?!」
肩に手をまわそうとしていたポトフが飛び上がった。
「えへへー♪」
ポトフはあと少しで、突然現れたプリンに、手をまわすトコだった。
「む?僕がいる」
「「?!」」
これまたビックリ。
ポトフの後ろには、プリンがもう一人立っていた。
「ど、どういうコト?!」
ミントが言うと
「私はココアだよー!」
と、ココアの席にいるプリンが言った。
「「?!」」
混乱するクラスの皆さん。
「…ココアさん?他人に変身するのは極力避けて下さいね?」
先生が言った。
「はーい♪」
そう言われたプリンが微笑むと
ぽわんっ
「「!!」」
とプリンが消えてココアが現れた。
「えへへー♪凄いでしょー?」
ココアが言った。
((…凄いって言うか怖い))
周りを疑い始めるクラスの皆さん。
「しかしよく出来た変身魔法でしたね?姿形から雰囲気、声まで見事でした」
先生が感心しながら言った。
「えへへー♪」
照れるココア。
「ですが、変身魔法は"見た目"を変えるだけで"中身"は変わらないので、気を付けて下さいね?」
先生が言った。
「はーい!」
一日の授業が終わり、いつものように談話室でゆっくりした時間を過ごす四人。
「そっかープリンやミントに変身出来ても、テレポートや召喚魔法使えないんだー」
ココアがポトフを食べながら言った。
「…」
ココアに食べてられているポトフ(料理)を見て複雑な表情をつくるポトフ(人)。
「ってかココア凄いね〜!」
ミントが言うと
「えっへへー♪でしょ?」
ココアが微笑んで、ポトフに変身した。
「…」
目の前にポトフが二人もいるので、なんかイライラするプリン。
「凄い凄い!!」
ミントがはしゃぐと
「ありがとー♪」
ぽわんっ
と言って、ココアが変身を解いた。
「でもコレ、他人に化ける時って色々とコツが要るんだよねー」
ココアが言うと
「…そう言えば、テレポートにもコツあるのー?」
ってプリンに聞いた。
「む?対象物に手を向けて"テレポート"って言うだけだ」
プリンが返す。
「いやそうじゃなくて…なんか何をどうやるとかさー?」
ココアが言った。
「…自分の現在のMPの量を正確に割り出した後、そのMPの量で移動できる範囲内での瞬間移動先の縦横高さの三次元の座標を正確に計算する必要があるな」
ってプリンが言った。
「…何気凄いコトしてたんだねプリン?」
ミントが言った。
「ただ移動先の情報を明白に知ってる人をテレポートする場合は計算の必要がなくなる」
プリンが付け加えた。
「てか…どしてプリンはそんな上級魔法が使えるのさ?」
ミントが尋ねた。
「いつ狼が襲ってきても逃げられるようにだ」
「…え?」
プリンがそう答えると、ポトフが驚いたように聞き返した。
「いや狼なんか滅多に出てこないからね?ポトフもいちいちリアクションしてると疲れるよ?」
ミントが溜め息をつきながら言った。
「うむ。そうだな」
「お、おゥ…」
「ねー?計算ミスして途中でMP足りなくなったらどうなるのー?」
プリンとポトフが頷くと、ココアが尋ねた。
「瞬間移動中に消滅する」
・・・
・・・・・・
((聞かなきゃよかった…))
とか思う三人。
知らぬが仏ってヤツです。
「意外と簡単。呼び出し魔法に似てる」
プリンがポトフに右手を向けて
「危険度は格が違うがな?…テレポート」
って不敵に笑いながら言った。
ピュッ
「「!」」
ポトフが消えると、今まで無かった戦慄にかられるミントとココア。
シュパンっ
「あっつゥ?!」
次の瞬間、煌々と燃える暖炉の中にポトフが現れた。
((ほ…))
安堵するミントとココア。
「っテメ!!ふざけんな枕ァ?!」
ポトフが暖炉から飛び出しながら言った。
「ふふふ」
((さっきの短時間でなんかよく分からん難しそうな計算とかしたのか…))
プリンを見て思うミントとココア。
「…ヒール」
ぷわっ
ポトフが回復した。
「ポトフ普通に使えるんだ?!」
ミントが目を輝かせながら言った。
「だろォ?俺って天才?」
ポトフが返す。
彼は今、優越感に頭まで浸っております。
「うん!凄いよポトフ!」
「あっはっはっ!」
((なんか凄いイライラする…))
ポトフを誉め称えるミントと鼻を高くするポトフを見て思うプリンとココア。
「いや〜本当に凄いなポトフ〜」
「あっはっはっ!照れるぜミントォ〜♪」
「ははは。なんかオレもやってみたくなっちゃった♪」
「あっはっは…はァ?!」
顔を青くするポトフ。
「あれぇ?顔色悪いよポトフ?具合悪いの?」
ミントが言った。
「き、きき気のせいだぜ?!俺は今、超元気だ!!」
ポトフが慌てて返す。
「遠慮しないで〜!今オレが治してあげる♪」
そしてミントが微笑んで言った。
「具合が悪い場合は確か…キュア♪」
ちゅどおおおおおおん!!
「「?!」」
これまでに無い破壊力を出すミントの魔法。
ミントの回復?魔法は部屋の三分の一を吹き飛ばしてしまった。
「うっはー!本当に回復?魔法だねー♪」
「うむ。まさに回復?魔法だな」
「はははっオレの回復?魔法スゲぁ〜」
破壊された部屋を見て、放心状態になるココアとプリンとミント。
「わー!もうこんな時間!部屋に戻らなきゃー!」
「わはー!本当だー」
「ぷわ…ねむねむ」
「「おやすみー」」
三人は就寝の挨拶をして自分の部屋へと戻っていった。
「…ねェちょっと俺は?」
黒焦げのボロボロになったのポトフのか細い声は、やがて微風に掻き消されていった。