第22回 贈り物日和
月が輝く寒い夜、きらりとヒヨコさん寮の方から怪しい光が発された。
「…ぐふふ」
彼女は黒いフードを深々と被り、望遠鏡でウサギさん寮の方を眺めていた。
「流れるような水色の髪…透き通るように蒼い瞳……わたくしのどツボを突いてくる愛くるしい枕と言動…」
彼女は望遠鏡から顔を離した。
そして両手を天井に向けて広げた。
「あぁっ!愛しのプリンくん…いえ、プリン様〜〜っ!!」
ぞわわっ
「ぴっ?!」
突然の寒気にバッと後ろを振り向くプリン。
「? どしたのプリン?」
隣を歩いていたミントが言った。
「な…なんでもない」
プリンが前を向きながら言った。
「そう?よかった」
そう言いながらミントが部屋の扉を開けた。
「よォ!遅かったなァ!」
部屋のソファーに座っていたポトフが言った。
「…ポトフって夜は部屋に帰るの早いよね?」
ミントが扉を閉めながら言った。
「あっはっはっ!俺は良い子だからな!!」
そう言ったポトフは思い出したように机の上にあった大きめの箱を持った。
「これ、お前宛てだぞ?」
そしてその箱をプリンに投げて渡した。
それをパシッと受け取るプリン。
「む?」
首を傾げながら箱を開けてみる。
「…枕?!」
隣で見ていたミントが突っ込んだ。
その箱には、白い枕が入っていた。
「しかも低反発…!」
プリンが目を輝かせる。
その時、枕からヒラヒラと紙が落ちた。
「?」
紙を拾い上げるプリン。
その紙には
親愛なるプリン様へ
お誕生日、おめでとうございます。 タルトより
と、書いてあった。
「ほえ?!プリンって今日が誕生日だったの?!」
ミントが驚く。
「…うむ。」
プリンも驚いたように返事をした。
「? どうしたの?」
「…何故コイツは僕の誕生日を知ってるんだ?」
プリンが言った。
「あっはっはっ!そりゃストーカーでもいんじゃねェ枕?」
そう言ったポトフの横にはプレゼントの山山山。
「どどどどしたのさそのプレゼント?!」
それに気付いたミントが突っ込む。
「ん?今日は俺の十四回目の誕生日だからなァ!あっはっはっ!」
ポトフが言った。
「ええ?!プリンとポトフって、同じ誕生日だったの?!」
ミントが驚く。
「あんま嬉しかねェがな?」
ポトフが鼻で笑いながら言った。
「ってかそんなにプレゼント来てて…ポトフこそストーカーでもいるの?!」
ミントが言うと
「あっはっはっ!レディ達に誕生日教えたらこの様さァ!!モテる男はツライぜェ〜♪」
ポトフがプレゼントの箱を人指し指の上でくるくる回しながら言った。
(自分で言ったのかコイツ)
引きつった笑みを溢すミント。
「…あっ!でも二人とも今日が誕生日なんだよね?」
ミントが言った。
「おおゥ!そだぜェ?」
ポトフが返すと
「じゃあちょっと待っててね!!」
ミントが慌てて部屋を出ていった。
「?」
首を傾げるプリン。
「…」
そして低反発枕に目を向ける。
「…なんだァ?枕にカノジョがいたのかァ?」
ポトフが尋ねた。
「いない」
プリンが短く返す。
「おろ?そんじゃソイツはなんなんだ?なんでお前の誕生日と欲しい物知ってんだよ?」
ポトフが聞いた。
「知らん。タルトって誰だ?」
プリンが言った。
「…おいおいじゃあ本当にストーキングされてんじゃねェのかお前?」
ポトフが心配そうに言った。
「…貴様に心配してもらう筋合いは無い」
プリンが鼻で笑いながら言った。
「なっ、なんだとっ?!誰がテメェの心配なんかするか!!」
ポトフは顔を赤くしながらプリンに背を向けて、自分のプレゼントの山を開け始めた。
「…」
そんなポトフに微笑みを向けてから、暗い表情を作るプリン。
(…ストーカー?)
先程の寒気を思い出しながらプリンが低反発枕を箱に戻した。
(本当は使いたいけど…)
彼の顔は本当に悔しそうだったが、気持ち悪いので、彼はその枕をベッドの下にしまった。
バンッ
「「!」」
その時、部屋のドアが勢いよく開いた。
「お、お待たせ…!」
ミントが息切れしながらドアを閉めた。
「?どうしたの?」
プリンがミントに言った。
「…へっへ〜♪」
そう笑いながら、ミントは手に持った箱をテーブルの上に置いた。
「なんだなんだァ?食い物かァ?!」
ポトフが目を輝かせる。
「うんっ!誕生日おめでと!二人ともっ!!」
そう言って、ミントが箱の蓋を開けた。
その箱の中身は
「おおゥ?!」
「わー!」
「バースデーケーキだよ!」
驚く二人にミントが言った。
「いやぁ〜もうすぐ店が閉まりそうだったから大変だっ―…」
ミントが言いかけると
がバッ
「うわっ?!」
「ミントっ!ありがとうっ!」
「やっぱり持つべきものは親友だぜェ〜!!」
プリンとポトフに抱きつかれたミント。
「ななな何やってんのさ?!はっ、早く食べるよ!?」
ミントが顔を赤くしながら言った。
「「はーい♪」」
素直にミントから離れる二人。
こうして二人の誕生日会が始まりました。
「まずはこのホールケーキを三等分にしなきゃね!」
ミントが腕捲りをしながら言った。
「おおゥ!それなら丁度俺の誕生日プレゼントに包丁が入ってたぜェ!!」
ポトフが言った。
「「…」」
ポトフを見る二人。
「?」
首を傾げるポトフ。
(誕生日プレゼントに…包丁?)
ミントがコソッとプリンに話しかけた。
(嫌がらせ以上の何物でもないな)
プリンが楽しそうに返す。
(…まあ…丁度良いからいいか)
ミントが溜め息をつきながらポトフから包丁を受け取った。
「いっくよ!ケーキ入刀!!」
そう言ってミントがケーキを見事に三等分にした。
「うっはァ!上手いなミント!!」
ポトフが感動しながら言った。
「まあウチは三人暮らしだったからね〜♪」
ミントが得意気に返す。
「…で、このハッピーバースデーって書いてあるチョコは俺のだよな?」
ポトフが言った。
「…」
露骨に不満そうな顔をするプリン。
「…なんだよ枕?文句でもあんのか?」
ポトフが言った。
「おおありだ」
プリンが言い返す。
「チョコは僕の物だ」
「あァん?!ふざけんなよ俺のだ!!」
「ち、ちょっと?!どんだけショボイ争いしてんの君ら?!」
ミントが突っ込んだ。
「…ここは間を取ってオレが貰う!!」
そしてミントが言った。
「「…」」
ミントを見る二人。
「なっ、何さ?…コレ買ってきたのはオレだよ?!」
ミントが言った。
「今日は僕の誕生日だ」
プリンが返す。
「俺もだ」
ポトフも続く。
「「ぬぬぬ…」」
睨み合う三人。
「…やるか?」
プリンが口を開いた。
「よしきたァ!勝ったヤツがチョコゲットだ!!」
「ばっち来い!!」
ポトフとミントがノってきた。
こうしてチョコを賭けての三人の争いが始まった。
…レベルの低さが窺えますね。
深夜。
「ぐふふ…プリン様はわたくしのプレゼント、喜んでくれたかしら?」
ロウソクの灯りを頼りにわら人形を作りながら黒いフードを被った少女、タルトが呟いた。
「プリン様のコトはなんでも知ってる…プリン様は…わたくしのモノよ…!!ぐふふふふふふふふふふ…」
プリンのストーカー、タルト、ここに登場す。