第12回 休日日和
しとしとと雨が降り、乾いた大地を潤してゆく。
今日はそんなじめじめした休日。
「もう夏だね〜」
ミントがサラダから貰った召喚魔法の本を閉じ、伸びをしながら言った。
此処はウサギさん寮の談話室。
「…じめじめしてる」
プリンのストレートな水色の髪は、湿気のせいで左右に広がっていた。
「梅雨とか…カタツムリとかナメクジとか…嫌ぁー!!」
ココアが頭を抱えながら言うと
バンッ!!
ウサギさん寮の扉が勢いよく開いた。
そして
「ミ〜ントきゅ〜んっ!」
何処かで聞いたことがある声が聞こえてきた。
「っ!!!!!!!!?」
どさっ
驚きすぎて、思わず本を落としてしまったミント。
いつぞやの医務室で出会った女の子、チロルがウサギさん寮に入ってきた。
「君はおサルさん寮の人だろ?!なんで合言葉知ってるのさ!?」
ミントが突っ込むと
「やぁん!愛しのミントきゅんの為なら、1804229351通りくらい楽勝〜みたいな〜〜〜〜!!」
チロルがクネクネしながら言った。
つまりこの娘は、五文字の合言葉を"あああああ"から"んんんんん"まで片っ端から試したのだ。
「…えーと…誰?」
その隣にいたココアがチロルに尋ねた。
「アタイは"チロル=チョコ"よ!ミントきゅんの彼女の☆」
何処かで聞いたことがあるような名前をしたチロルが自己紹介をした。
「なんだ最後の余計すぎる一言は?!」
ミントがチロルの発言にツッコミを入れた。
「え?…やぁん!ミントきゅんったら!!アタイはもうミントきゅんにとって、彼女以上ってコトかっ☆」
「脳神経外科行ってこい!?」
ミントが再び突っ込むと
「私は"ココア=パウダー"だよー!よろしくねーチロル!」
ココアが自己紹介した。
「僕は"プリン=アラモード"だ」
なんとも美味しそうな名前をしていたプリンくん。
「ええ!よろしくねダーリンのお友達のココアとプリン!!」
「待て待て!?また余計な一言が入ってたぞ?!」
そしてミントが一息入れてから
「…君は何しわざわざウサギさん寮に来たのさ?」
チロルに尋ねた。
「なんか…ミントきゅんにサートゥンリー会いたくなっちゃって☆」
顔を赤くしながらチロルが答えた。
「ははは。じゃあ用が済んだだろ?早く帰れ?」
ミントが微笑みながら言った。
「そんでミントきゅんとラブラブしに来たの〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
チロルが大きな声で言った。
「ちょっ?!声デカ―…」
この時談話室に居合た皆さんが、チロルとミントに目を向けた。
「「…ふっ」」
「っ?!」
ニヤリと笑った後、周りにいたウサギさん寮の皆さんは
「あーそー言えば宿題やらなきゃな〜」
「えー何ー?ワイも手伝うでー?」
わざとらしく退散した。
「ちょっ?!えっ!?みんなっ??!!!」
焦ったミントが
「君はもう少し周りを顧みろ?!」
チロルに突っ込んだ。
「あぁん!今のアタイの瞳には、ミントきゅんオンリーしか映らない〜〜みたいな〜〜〜〜〜〜っ!!!」
チロルはそう言いながら両手を広げてミントに駆け寄った。
「眼科行ってこい?!」
そう突っ込むと、ミントは脱兎の如く逃げ出した。
「あぁん!!待って待ってぇ〜!!アイニージュー!!」
逃げるミントを追い掛けるチロル。
こうして二人は寮の外へと消えていった。
「待て待て待て待って〜っ!!」
「誰が待つかあああ!!」
校内を全力疾走する二人。
「やぁん!ミントきゅん速〜いっ―…きゃっ?!」
チロルの短い悲鳴が聞こえた後、
べちっ
っとコケる音がした。
「?!」
まさかと思い振り向くミント。
「…痛ぁい」
チロルはコケていた。
「…ぐすっ…ひっく…」
「っ?!!!」
チロルが泣き出したので焦るミント。
(気にすんな気にすんな気にすんな!?今なら逃げられるぞ?!)
そう思ったミントだが
「…だ…大丈夫?」
チロルに優しく声をかけてしまった。
(オレの馬鹿野郎ぉぉ!!)
とか思いながら。
「うわぁぁん!痛いよミントきゅううううううん!」
ミントが近寄ると、泣きわめくチロル。
「なななっ泣かないでよチロル?」
ミントがチロルの前にしゃがむと
ザワッ…
「っ!?」
冷たい空気がミントを包んだ。
(この感じは…殺気…?!)
ミントに戦慄が走った。
この殺気は自分の後ろから押し寄せてくる。
(ま、まさか…魔物?!)
ミントがそう思って後ろを振り向いた瞬間
ガッ!!
「何しとんじゃわれぇ?!」
「っええ?!」
ミントは怖い顔をしたお兄さんに胸ぐらを掴まれた。
「っ!?」
怖い顔したお兄さんに持ち上げられて目線が高くなったミントの目に、お兄さんの後ろにいた鉄パイプを持った怖いお兄さん集団が飛込んできた。
「その声は…パセリ?」
チロルが呟いた。
「おぅっ?!チロルちゃん!無事だったか!?」
怖い顔をしたお兄さん、パセリが心配そうに言った。
「…え…ええ」
チロルがうなだれたまま言った。
「…でもどうしてかな?前が霞んで何も見えないや」
チロルが言うと
「「!!」」
怖いお兄さん達の顔が更に怖くなる。
「おい…われ?」
「はっはい?!」
パセリが話しかけてきたので驚くミント。
「自分が何したか分かってんのか…?」
パセリが静かに言った。
「な、何もしてませんよ?!」
ミントがビビりながら返すと
「何もしてませんだと?」
地獄の底から響くような怖い声。
「ひぃっ?!!!」
ミントが短い悲鳴をあげると
「チロルちゃんを泣かしといてよくもそんなコトが言えたもんだな!!!?」
パセリが怒鳴った。
「えええ?!だ、だから何もしてませんってば!!」
「やっちまいな!野郎共!!」
パセリが言うと
「「ういーー!!!!」」
鉄パイプを持って後ろに控えていたお兄さん達がミントに襲いかかってきた。
「何もしないってばあああああああああああ?!!」
ボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカ
「…ぐ」
どさっ
叫びも虚しく、ズタボロにされたミントが倒れた。
「ぺっ…思い知ったか」
パセリはそう吐き捨てるとチロルの元へ向かった。
「チロルちゃん?」
パセリが言った。
「…何?」
チロルが涙を拭いながら返した。
「チロルちゃんの仇は討ったよ」
パセリが誇らしげに言った。
「…は?」
顔をあげるチロル。
「仇?」
そして首を傾げた。
「何とぼけてるの?コイツだよ!」
パセリがズタボロミントをチロルに見せた。
すると
「ミントきゅん!?」
チロルが真っ青になった。
「な…なんてコトしたのよ?!」
チロルが言った。
「だから仇を―…」
「馬鹿ぁ!!!!」
チロルが叫んだ。
「「!!」」
お兄さん達が驚く。
「ミントきゅんは…アタイの彼氏なのよ?!」
いつの間に?
「「っ!!!?」」
チロルの言葉に真っ青になるお兄さん達。
「チ…チロルちゃんの…彼氏?」
パセリが膝をついた。
「そんなコトも知らないなんて…あんた達、アタイのファンクラブ員失格よ!」
チロルが叫ぶと
「「どっどうかそれだけは!!」」
怖いお兄さん達、もとい、チロルファンクラブ員がひざまづいた。
「…これからはミントきゅんが困るようなコトは一切しないコトが約束よ!!」
チロルがファンクラブ員に言った。
「「オッス!!」」
気合いを入れて答えるファンクラブ員。
すると
ぶわんっ
ミントが琥珀色に輝き出した。
「…いにしえより来る琥珀…」
空中に琥珀色の魔法陣が出現する。
「σ(シグマ)!!」
ミントがそう叫ぶと、琥珀色の魔法陣が激しく輝いた。
『初登場なんだな〜』
力の抜ける声がした。
しかし、ファンクラブ員が腰を抜かした。
「「召喚魔法?!」」
『そうなんだな〜』
ミントの前に、黒い鷹の頭と翼をもった巨大な獅子、召喚獣"グリフォン"が出現した。
『命令はなにかな〜?』
σがミントを向いた。
「あのお兄さん達とチロルを死なない程度に痛めつけてやりなさい?」
ミントが微笑みながら言った。
青ざめるファンクラブ員。
「待ってミントきゅん?!なんでアタイまで?!」
チロルが言うと、
「元凶は、だァれだ?」
ミントが微笑みながらそう言うと、σが大きく羽ばたいた。
『覚悟するんだな〜』
そう邪悪に微笑むと、σの姿が消えた。
「「!?」」
辺りを見回す皆さん。
『こっちなんだな〜』
「「!」」
σが頭上にいると気付いたときには後の祭。
「「ぎゃああああああああああああああああ!!」」
今日はチロルファンクラブ員達が初登場し、
「あん!…快感☆」
チロルがなにかに目覚めた日。