第10回 実験日和
様々な薬品の香りが入り混じり、ホルマリン漬けの標本がずらりと並んで、人体模型がこんにちは。
怪しいこの部屋は科学室。
「…の為に、皆さんにオリジナルの魔薬を作ってもらおうと思いまーす!」
紫髪のクー先生が言った。ちなみに断じて"麻薬"ではありません。
「原料はこの教室にある物なら何でも構いませんよ!」
先生が言うと、レモンが手を挙げた。
「はいレモンさん?」
「魔薬とはどのように作るのですか?」
レモンが質問した。
「混ぜるだけです」
即答。
「え?」
レモンが聞き返すと
「兎に角混ぜちゃいましょ!大切なのはインスピレーションです!」
クー先生が楽しそうに言うと、危険すぎる理科の実験が始まりました。
クラスの皆が立ち上がり、棚という棚をあさり始めた。
「…どんな授業だ」
ミントが軽くツッコミながらフラスコを持ち上げた。
「わくわく」
この日のプリンは珍しく目が冴えきっていた。
「…珍しいねプリン?どんなの作りたいの?」
ミントが聞くと
「?…ゾンビ薬?」
「?!」
「さあ作ろう」
そう言うと、プリンが棚の方へ移動した。
(今…何て言ったプリン?!)
ミントがプリンにちょっとした恐怖を覚えながら、自分も棚へと移動した。
「お?なんだろコレ?」
ミントが丸い小さな緑色の瓶を手に取り、ラベルを読んだ。
"風邪薬"
「ん?普通の薬か―…」
効能の欄を見ると、ミントの声が途切れた。
"水無し一条で風邪が引けます"
(…駄目じゃん)
呆れながら風邪薬を棚に戻すミント。
「?こっちは?」
今度は桃色の瓶を手に取るミント。そしてラベルを読む。
"目玉"
(怖っっ?!)
慌てて瓶を棚に戻すミント。
「…はあ…」
溜め息をつきながら、今度は平たい箱を手に取った。
"ベビーリーフ"
(?何故此処に食べ物が?)
そう思って蓋を開けると
『ハァイ!ボクベビーだ―…』
かぽん
人間の赤ん坊のような葉っぱが、野太い声で挨拶してきたのでミントは蓋を閉めた。
(…ろくなもんないな…)
そう思いながら、透明な瓶を手に取った。
"ぽ"
「?…ぽ?」
首を傾げながら、とりあえず"ぽ"を自分の机に持っていくミント。
「もう一個ぐらい入れなきゃな…」
そう言って再び棚に向かうミント。すると
(?!サラダ!?)
サラダが先程ミントが棚に戻した"目玉"の瓶を手に取って、怪しく笑みを溢していた。
(…今はサラダと関わらない方がいいな…)
賢明な判断をしたミントは反対側の棚へと移動した。
(…これは?)
"くるぶし"
(怖っっ?!)
ミントは慌てて肌色の物体を棚へと戻した。
(何?!何なのこの教室は?!何でもアリなのか!?)
するとミントの視界に人体模型がチラリ。
(…)
微妙に好奇心をそそられ、人体模型の前に移動するミント。
(わー気持悪〜)
おでこに"タケシ"と書かれたその人体模型は、筋肉と内臓が剥き出しになったよくある一般的な構造をしていた。
(わー…この内臓…リアルだな…)
ミントが内臓を手に取ってみると
ぐにゃり
「ぇ」
・・・
・・・・・・
(…ぐにゃり?!)
自分の手に乗っているものを確認する為に、指で軽くつついてみるミント。
ぽよんぽよんっ
実に柔らかい触感。
(はっはっはっ!こりゃあ本物だべな〜)
すると気が狂れてしまったのか、ミントはタケシに入っている五臓六腑を全てテイクアウトした。
(タケシ…君は何も悪くない…でも…君は気味が悪すぎる…)
そんなことを心の中で呟きながら、ミントは自分の席に戻った。
「ふふふ」
ミントの隣の席であるプリンは既に席に戻っていて、なんかドロドロした緑色の液体を試験管に移していた。
「よぅし…オレも混ぜるぞ…!!」
ミントがフラスコの中に無理矢理タケシの臓器を捩込んだ。
フラスコ内が赤黒くなり、とってもグロテスク。
フラスコに喜々として次々と臓器を捩込むミントも、とってもグロテスク。
「…で…これを入れて…」
ミントが小瓶の蓋を開け、グロテスクなフラスコの中に、謎の液体"ぽ"を数滴入れた。
すると
ゴボゴボゴボッ
っと怪しい音が鳴り、フラスコが黒い煙を噴き出した。
「わはー!凄い凄い!」
ミントが何かを諦めたように笑いながら言った。
「プリンは何か出来た?」
隣を向くミント。
「ふふふ…キューティクル」
プリンがワケの分からないことを口にしながら笑っていたので、自分のフラスコに目を戻すミント。
ゴボゴボゴボっ
「…加熱してみようかな」
そう言ってミントがガスバーナーに火を着けた。
ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ
怪しい反応が速くなる。
ぼんっ
「「!」」
そして激しい爆発が起こった。皆の視線がミントのフラスコに集まる。
『ま゛…ま゛』
煙の中から身の毛がよだつような声がした。
…声がした?
「「…」」
煙を見つめるウサギさん寮の皆さん。
『ど…ご?ぼぐの゛…ま゛…ま゛?』
「「っ?!」」
煙が晴れると、この教室に居合た全員が絶句した。
そこには骨と肉と臓器が所々に顔を出している、不完全な人間が立っていた。
ミントは、人○錬成をやってのけたのだった。
「…凄いわミントくん!!」
先生が言うと
『み゛ん゛ど…み゛ん゛ど…?』
不完全な人間がミントを向いた。
『ま゛…ま゛?』
そして筋肉が剥き出しになった顔で微笑んだ。
「っ!!」
ミントはこの時、有り得ないほどの寒気がした。
『ま゛…ま゛…ぼぐの゛…ぼぐの゛ま゛ま゛!!』
不完全な人間がミントに近付いてきた。
「き…」
ミントが震えながら口を開いた。
「君は…タケシ…なのか?」
ミントが尋ねると
『…ぞう゛だよ゛』
そしてタケシが襲いかかってきた。
「!!」
「危ないミントくん!!アースマジック!!」
先生が叫ぶと
ドカアアアアアアアアアン
と激しい爆発音が教室に響きわたった。
『ぐ…ぞ…』
タケシはそう言うと、ドロドロと溶けて蒸発した。
「…っ」
真っ青になるミント。
「お…オレはなんてコト…」
頭を抱えながらミントが呟くと
「凄い凄い!ミントくん合格〜!!」
先生が明るく言った。
「へ?」
ミントが顔をあげると
「今のみたいな完全なゾンビ作るのって、凄い難しいんだよー?」
先生が言った。
「ミント凄い!」
プリンも続く。
「へ?え?」
ミントが混乱しながら辺りを見回すと、周囲から拍手が巻き起こる。
「え?は?」
すると、困惑したミントの目に黒板の文字が映った。
"魔薬を作ろう!"
・・・
・・・・・・
「どんな授業だよ?!!」
ミントが突っ込むと
ぼんぼんっぼんっぼんっ
「!?」
次々と爆発が起こった。
『『あ゛あ゛…』』
爆発音の数だけゾンビが産まれる。
「ふざけんなよ?!」
ミントが叫んだ。
「すっげぇ!お前のゾンビカッケェー!!」
「お前こそ!」
キャイキャイはしゃぐ皆さん。
「い…命をなんだと思ってるのみんな!!!?」
そんなウサギさん寮の皆さんにミントが問掛けた。
すると
「「なんだろねー?」」
軽く流された。
「コラ?!」
こうして、好成績を納めたミントでした。
先生の話は、ちゃんと聞きましょうね。