第1回 登校日和
ポッポ〜
白い蒸気を噴き上げながら真っ黒な蒸気機関車がやって来た。
その機関車に乗っている帽子を前と後ろを逆に被った一人の少年は、車窓から外の景色を眺めていた。
「ハイハイ〜お弁当にお菓子、ジュースに紅茶は要らんかね〜?」
少年が居る個室の前を、車内販売のカートを押した中年女性が通りかかった。
女性に気付いた少年が窓から離れ、個室のドアを開けた。
「コーラ十本下さい」
少年が言った。
「あいよ〜千円ね」
女性がコーラを十本取り出しながら言った。
「はい」
「まいどー」
ガララッ
個室のドアを閉め、再び椅子に座る少年。
きゅぽん
蓋を開けると、シュワシュワという炭酸飲料特有の美味しそうな音がする。
ぐびーっ
「…コーラは偉大だ」
少年がコーラを一気に飲み干しながら言った。
少年はもう一本コーラの蓋を開けてくわえると、残りの八本を鞄に入れた。
ガララッ
「?」
突然少年が居る個室に、背が高くて格好良い少年が眠そうな顔をして現れた。
少年は淡い水色の長い髪をしており、荷物が入った鞄と白い枕を持っていた。
「なんですか?」
今まさに飲もうとしたコーラのビンを膝の上に起きながら少年が言った。
「相席願う。他がいっぱいなん…ふぁ」
枕を持った少年が欠伸をしながら、抑揚の無い声で言った。
「良いですよ?どーぞ」
そう言うと、少年は自分の向かい側の席を指差した。
「あざーす」
ガララッ
枕を持った少年はドアを閉めると、少年が薦めた向かい側に座った。
「…」
(何故…枕?)
コーラのビンを持ちながら、枕を不思議そうに見つめる少年。
「僕は"プリン"だ」
「はい?」
突然枕を持った少年、プリンが自己紹介したので驚く少年。
「いや"少年"が二人も出てきて、今にも読者がイライラ光線を放ちそうな予感がしたので言ってみた」
「そ…そう…美味しそうな名前だね?」
「ふふふ、お茶目だろう?」
「そ…うだね?」
「君は何て言うんだ?」
プリンが少年の名前を聞いた。
「オレは"ミント"。よろしくプリン」
コーラを持った少年、ミントが言った。
「ふむ、ミントか。君の髪の毛はどうなっているんだ?」
プリンが尋ねた。
「右が緑で左が赤って、凄い髪色だな」
「あ…やっぱ目立つ?」
ミントが帽子を深く被り直しながら言った。
「うむ。輝いてるな」
「え…えう?」
褒められているのか馬鹿にされているのか微妙なプリンの発言に、微妙なリアクションで返すミント。
「ふむ、成程。両親の片方が緑で片方が赤の髪色なのか」
「うん。そうなんだ…ってよく分かったね!?」
「ふふふ、インスピレーショ―…」
プリンが途中で言葉を止めた。
「? どしたの?」
ミントが聞くと
「眠い。おやすぐー。」
"おやすみ"の途中でプリンが枕に突っ伏した。
「ぐー。」
「この為に枕を持参してたのか…」
世の中には色々な人が居ることを学んだミント。
「…」
「ぐー。」
ミントはプリンが完全に寝たことを確認すると
「…頂きま〜す♪」
ぐびーっ
再び一気にコーラを飲み干すミント。
「…ぷはーっ!やっぱコーラは最高だ!!」
ミントが凄く幸せそうな顔をする。なんかお花まで飛んでいる。
ガララッ
そこへ再び個室のドアが開かれた。
「ごめーん!相席いい?他の部屋いっぱいなのー!」
ドアを開けて現れたのは鞄を持った少女。
肩の上まである桜色の髪の毛は癖っ毛で、激しくうねっていた。
「いいけ―…」
「ありがとー!!」
ピシャン
すとっ
ミントが言い終わる前に少女はドアを閉め、ミントの隣に座った。
「キミも今年から"魔法学校"に行くの?!」
そして少女が尋ねてきた。
「うん。そだよ」
ミントが答える。
「うっはー!私と同じじゃん!!」
少女がはしゃいだ。
「私、"ココア"!!キミは?!」
少女、ココアが聞いた。
「ミント―…」
「ミント…ミントね!!よろしく!!」
「う、うん…よろしく」
ココアのテンションにいまいちついていけていないミント。
「で、コイツは?」
ココアがプリンを指差す。
「彼はプリンだよ」
ミントが言った。
「プリン?!お茶目ね!」
「…そだね」
「ぐー。」
賑やかになった個室で平然と眠り続けるプリン。
「楽しみだよねー魔法学校!!」
ココアが言った。
「そう?なんか面倒臭そ―…」
むぎゅっ
「ぬが?!」
ココアに鼻を摘まれたミント。
「痛たたっ!?な、なにふん―…」
「人生、何事も楽しまなきゃ駄目だよー?」
「は、はひっ!そふでふねっ!」
「よろしい」
ぱっ
ココアがミントの鼻を放した。
『間も無く〜魔法学校前〜魔法学校で〜ございます』
車内放送が流れた。
「わ!もう着くの?!ローブ着なきゃ!!」
ココアが言った。
「そだね」
ミントも言うと、二人はそれぞれの鞄から真っ黒なローブを引っ張り出した。
「ん?プリンまだ起きないの?」
ココアが言った。
「あ、本当だ。プリン?」
ミントがプリンを揺すった。
「プリン〜?」
再度呼び掛けると
「ぐー?」
「うおう?!」
プリンが鼾で答えた。
「もう学校に着いちゃったよー?」
ココアが言った。
「ぐー?」
「うん。マジ。」
「ぐー。」
ぱちっ
プリンが目を覚ました。
(今、会話してたのか…?)
世の中には色々な人が居ることを学んだミント。
「ではローブを着るか」
プリンは何事もなかった様に鞄から真っ黒なローブを引っ張り出した。
「組分け楽しみー!同じクラスになれるといいねー♪」
ココアが二人を見ながら言った。
「組分け?」
ミントが聞くと
「あれれ?知らないのミント?」
ココアが驚いた。
「魔法学校は四つの組に分かれて、学期末まで寮で生活するんだよー?」
ココアが説明した。
(なにか何処かで聞いたことある話だな…はて?)
ミントが記憶を巡らす。
「って寮生活?!着替とかどうすんのさ?!」
ミントが焦った。
「? 御両親が学校に荷物送ってるハズだよー?」
ココアが言った。
(…奴らがそれを把握してるかどうか…)
肩を落とすミント。
『魔法学校〜魔法学校で〜ございます。お忘れ物のない様〜お気を付け〜下さい』
車内放送が学校に着いた事を皆に知らせた。
「うむ。楽しみだな」
プリンがそう言うと、三人が機関車を降りた。
『はいはぁい!一年生のみんなぁ?此処に集合してね〜!』
拡声器から声がした。
振り向くと、紫の髪をした先生らしき人が手招きをしていた。周りの流れに合わせて、三人もそちらに集まった。
『…これで全員かな?…じゃあ今からみんな学校に向かってもらうけど、』
先生が微笑んだ。
『死なないでね?』
・・・
・・・・・・
「「え?」」
そこに集まった一年生から疑問符が出る。
『此処から学校までの森は、わたしが造った魔物が大量に襲ってくるから気を付けてね!!』
「「ええ?!」」
『あと、命の保証は出来ないから自信がない子は速やかに帰宅してね!!』
「「えええ?!」」
『ちなみに学校に着いたときの状況や時間で組分けするから頑張ってね!!』
「「ええええ?!!!」」
『それじゃいくよ!よーい…』
疑問符なんてお構い無し。先生はホイッスルをくわえると、
ピーーーーーーーーーー!
勢いよくホイッスルが鳴り響いた。
それに伴い、一年生達が駆け出した。
一部は家へと続く天国の機関車へ、一部は学校へと続く地獄の森へ。
「「…」」
その中で微動だにしない陰が三つ。
「ふむ、大胆且つ斬新な入学試験だな」
枕を大切そうに抱えたプリンが言った。
「大変な事になっちゃったねー」
ココアが他人事の様に言った。
「大変ってか…オレ帰っ―…」
「待て待て。折角連載がスタートしたのに初回で終わらす気か?」
方向転換したミントの襟首を、プリンが枕を持っていない方の手で掴んだ。
「いいじゃん!?"そしてミントは家へと帰って行きました。ちゃんちゃん"的な終わり方でさぁ!!」
「連載とは程遠い気がするが?」
「じゃあ短編に切り換えてさぁ!!」
「どんだけおもんないのソレ?!」
ココアが突っ込んだ。
「だって!ま、魔物って…オレら武器も何も持ってないんだよ!!?」
顔を青くしながらミントが言うと
「大丈夫。僕が君を守ってあげる」
プリンが言った。
「っ…えっ?」
ミントが驚いた。
「うん!私も協力するよー!!」
ココアも言った。
「ど、どうしてさ?」
ミントが二人に向き直った。
「オレと二人は今日相席しただけの間柄だろ?!」
ミントがそう言うと
「そのお礼」
プリンが言った。
「…それに私達、もう友達でしょー?」
「!」
ココアが微笑みながら言った。
「ふむ、そうなのか。では僕もトモダチだ」
プリンが言った。
「ふ、二人とも…!」
ミントが顔を二人に向け、そして微笑んだ。
「…オレっ…帰る!!」
がしっ
「「レッツらゴー」」
「わーん!!」
プリンとココアにしっかり両足を掴まれたミントは、引きずられながら魔物がいる地獄の森へと入ってゆくのでした。