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Alice of Black Blood  作者: 黒猫時計
第一章 黒の王国
17/19

016―人に創られしトゥイードル兄弟

 ガシャガシャガシャン!

 バコンガコン、キンキンッ!

 カチャリカチャリ、カチッ……。


「あれ、部品が足りないな」


 薄暗い倉庫の中、帽子の少女マティは二つの人型の修理を進めていた。

 が、どうやら部品が足りなかったらしい。

 足を地面に投げ出しながら、床に広げられた人型のパーツらしき物体を再度一つ一つ確認していく。


「やっぱり足りない」

「なんだ、また運用できないのか」

「いや、今回の修理分はさっきのトランプだけで賄えるはずだったんだけどな。レベルが低すぎたのかな?」


 小さくため息をつくグリムを後目に、マティは一人、何度も部品の数と種類を確かめる。

 けれどやはり部品は足らないようで……。


「ねぇ、いったいなにが足らないの?」


 扉の外でその様子を眺めていた亜莉栖がマティに訊ねた。


「うん。さっきのトランプ兵を殺した時に出た肉片Bと、骨の欠片Fだな」

「うわっ、そんなの集めてたの。肉片に骨の欠片て……」

「こいつらは生身の人間じゃないからな。かといって全部機械で出来てるわけでもない。言ってみれば人造人間だから、そりゃあそれなりの部品は必要なんだよ」


 亜莉栖に振り返ることもなく、マティは視線をパーツに注ぐ。

 けれど何度確認しても部品は足らなかった。

 はぁ、とため息をつき肩を落とすマティ。

 そんな様子を背後から見守っていた亜莉栖は、ふとあることを思い出す。


「あっ――」


 それはここへ来る前、長い廊下を歩いている途中のこと。

 グリムの照らすオレンジ色のランプの明かり。マティ、亜莉栖と続きグリムの後ろをついて歩いた。

 足元だけではなく、狭い通路を満遍なく照らし出す暖色の灯った空間の隅。

 微かに影になっている通路の角っこに、なにやら――――亜莉栖にとっては――――ゴミのようなものが落ちていたこと……。


「あのさ、違ったらごめんけど。たしか廊下になにか落ちてたような気がするよ? 角だったからよく見なかったんだけどさ」

「本当か!?」

「うん、たぶん、肉片とかだと思う」

「よし、じゃあちょっと見てくるから、誰もこいつらに触るなよ。特にハンプティ!」


 気持ちよく酒を煽っていたハンプティは、急に名指しされて驚いた顔をした。

 相当酔っているのか、鼻の頭まで真っ赤にしながら一つしゃっくりをすると、帽子の少女に返事する。


「あ~わかっとるわかっとる。俺は少し寝るから安心して行ってこい」


 手を閃かせながら横になり、仰向けになった瞬間――ぐがぁおぉ――と盛大ないびきをかきだす。

 相変わらずの寝つきの良さに呆れ顔をしながらも、マティは皆に背を向けて部屋を後にした。

 それから数分後。

 マティは左手のグローブに肉片Bと骨の欠片Fらしき物体を乗せてアジトに帰ってきた。


「マティ、見つかった?」

「ああ、あったよ。ほら、この通り」


 言いながらマティは右手で肉片を摘み上げる。

 だいたい大きさは五センチほど。ぷらぷらと振り子のように揺れ動く肉片には筋繊維が見て取れた。

 血なまぐさく、妙にリアルだ。


「いや、言葉だけで十分だから、それ早くしまってね」

「なんだ、戦利品だぞこれは。修理に使うんだからそんなに邪険にしなくてもいいだろ」


 これだからアリスは、と小言を言いつつマティは二体の人型の前で再び腰を下ろす。


「そう言えばその二人? って誰なの」

「ああ、そう言えばまだ紹介してなかったな。でももう少し待ってろ、いまにも修理を終えて自己紹介させてやる」


 カチャカチャ音がしたと思ったら、次にはメキョメキョとあまり聞き慣れない音が響く。

 まるで人体の解体ショーでも聞かされているのかと、亜莉栖はとても居た堪れない気持ちになった。

 それから十分後。


「よし、完了だ!」


 勢いよく立ち上がったマティは晴れ晴れとした顔をして倉庫から出てくる。

 達成感に満ち溢れた、実にいい笑顔だった。

 続くように倉庫の中から聞こえたのは、衣擦れの音と、靴が擦れて床がキュッと鳴る立ち上がるような音。


「お前たち、ちょっとアリスに挨拶してみろ。ちゃんと直ったかのチェックだ」

「分かったよマスター」

「了解です」


 主人の命に従い返事をし、暗がりの倉庫から姿を現したのは先ほどの二体の人型だった。


「初めましてアリス、俺はトゥイードル=ディー。こいつの兄だ」


 まるでトランプ兵のようなフルフェイスの兜で頭を覆い、バイザーを上げて常に顔出ししているのはトゥイードル=ディー。隣にいる“こいつ”を指差しながら笑顔を見せている。


「こいつ、ではないです兄さん。初めましてアリス。僕は今しがたこいつ呼ばわりしたこいつの弟、トゥイードル=ダムです。以後お見知りおきを」


 こちらもまた同じような兜をかぶっている。けれどバイザーは下ろされたままで表情は覗えない。

 こいつを否定しておきながら兄をこいつ呼ばわりするのはトゥイードル=ダム。

 二人とも背格好と声はまるで同じ。口調がそれぞれで異なっている。

 亜莉栖より少し背が低いくらいの身長で、少し横幅が広く、例えるなら少々メタボったトランプ兵。

 と言いたいところだが、トランプと一緒なのは頭の装備だけのようで。

 服装は至って普通の、庭師のような軽装だった。白いシャツに黒いパンツ。パンツが下がらないようにサスペンダーをしていて、金具の部分にはスペードが模られている。

 上に黒のジャケットを着てはいるが、裾の辺りが少しボロボロに解れ、ところどころに褐色の何かが付着し乾いた跡が見て取れる。

 二人ともそっくりな出で立ちをしてはいるが、もちろん見分ける方法もある。


「一見瓜二つのこいつらだが、アリスに見分け方を教えておこう」

「お願いします」

「シャツの襟元についているバッチを見ろ」

「うん、見た」

「なんて書いてある?」


 マティに問われ、亜莉栖は二人の襟元を交互に見やる。そして答えた。


「DとDって書いてあるわ」

「……あ、一緒だったのか。失敗した」

「えっ」


 頬をぽりぽりと掻きながら、マティは明後日の方向を向いた。

 気まずそうに口笛を吹いてはやり過ごそうとしている。


「ね、ねえ、それで見分ける方法は?」

「ん? さあてな」


 するとそんな様子を見かねたのか、トゥイードル兄弟の弟であるダムが進言した。


「アリス、見分ける方法は簡単です。兄は常にバイザーオープンですが、僕は顔を隠しています」

「へえ、そうなんだ。だってさ、聞いた? マティちゃん」

「だれが“ちゃん”だ! ミンチにするぞ!?」

「まあ、いいから。これで見分けられるね。にしてもどうしてダムは顔を隠してるの?」

「聞きたいですか?」

「うん、まあ、気にはなるわね」


 亜莉栖の疑問に、ダムは逡巡ののち胸に手を当て頷きながら言った。


「僕は、兄と違って恥じらいがある。つまり端的に言うと恥ずかしがり屋なんです。ですからバイザーを上げるようなことはしない」

「へぇ、つまりディーは恥知らず――」

「誰が恥知らずだってアリス? いい加減なこといってると二人まとめてグリフォンの撒餌にしちまうぞ!?」

「なんだと!? 馬鹿ディー、貴様ウチのアリスを手にかけるつもりか? そんなことしたらどうなるか、解ってるんだろうなぁ」


 凄みながらドスを利かせるマティの迫力に気圧されたのか、ディーは身震いしながらバイザーを押し下げた。そしてくるくるくると、ダムとの立ち位置を交換する。

 なるほど、恐怖するとバイザーを下ろす仕組みになっているらしい。と亜莉栖は心の中でメモをとった。


「あれ、ウチはどっちに怒ってたんだろうか?」


 唯一の違いであったバイザーを下ろされ戸惑うマティ。不思議そうな顔をしてディーとダムを交互に見やる。

 なるほど、マティの怒りの回避方法は弟と同じ姿になることなのか。と亜莉栖は再びメモをした。

 主人のくせに情けないなぁと思いつつも、亜莉栖は今しがたバイザーを下ろしたディーの後ろへこっそり歩み寄ると――


「あ、馬鹿、やめろ」


 そのバイザーを何食わぬ顔をして再び押し上げた。


「あ、ようやく姿を現したな!」

「マスター、冗談って言葉知ってるか?」

「馬鹿にするのもいい加減にしろッ! ……ん、なんだ冗談なのか」

「そうそう、俺たちもアリスは好きなんだ。殺すだなんてそんな、ましてやグリフォンの餌なんかに出来るわけないだろう?」

「まあ、それもそうか」


 納得したように頷くと、会話の合間を覗っていたかのようにグリムが言葉を発した。


「もういいのか。ならマティ、アリスにトゥイードル兄弟の運用方法を説明した方がいいだろう」

「うーん、まあそうなんだけどな。疲れたからグリムが説明してくれ」


 マティは部屋の隅に腰を下ろすと、帽子を押し下げる。

 どうやら寝に入ろうとしているようだ。

 やれやれと肩を竦めると、グリムは気を取り直して亜莉栖に振り向く。


「さて、形式的にはオレたちのリーダーはハンプティということになっているが……」

「あれ、公爵じゃなくて?」

「あれこそ形だけだ。存在してることに意味がある。それ以上でも以下でもない」

「さり気に酷いこと言ってるわね」

「話を戻すが、実質オレたちのリーダーはアリス、お前だ」

「えっ!? わたし? わたしクラス委員にもなったことないんだけど……」

「そんなことは知らない。だがこの世界の解放にはお前の力が必要だ。それなりの覚悟と自覚を持ってもらわなければ困る」


 一息つくと、腕組しながらグリムは続けた。


「そこでだ、お前にトゥイードル兄弟の運用を任せたい」

「え、ディーとダムの?」

「そうだ」


 グリムは手招きをし、トゥイードル兄弟を自分の元へと招集した。


「メンテナンスは基本マティがやってくれる。というかマティ以外こいつらは直せないからな。だから安心して存分に使い倒してやれ」

「グリムさんはひどいことを言いますね、兄さん」

「ん? まあいいんじゃないか? ハンプティのジジイに任せると碌でもないからな。前なんて敵地に放り出された挙句、トランプ兵に囲まれて壊され、そのまま放置だったしな」

「え、それでどうやって二人は戻ってきたの?」


 敵地にて置き去りにされた壊れた人形。

 それがどうして今ここにあるのか疑問に思い、亜莉栖は二人に訊ねた。


「それは、チェシャ猫が運んでくれたんですよ、ね? 兄さん」

「ああ、たぶんな。確かに獣くさかった」

「チェシャが?」


 亜莉栖は驚いた。

 こちらにとって大事な戦力である二人。向こうにとっては、回収しにくることを踏まえ、罠を仕掛ける絶好のチャンスだというのにもかかわらず送り届けた。

 なぜ敵であるチェシャ猫が、そんな敵方に塩を送るような真似をするのか、理解できないでいたのだ。

 それと同時に感心もした。それが事実ならフェアな心の持ち主だと。

 そしてまだ話が通じる相手かもしれないと、微かな希望も生まれたのだった。


「なにを納得してるのか知らないが、話を続けていいか?」

「え、あ、うん。ごめん」

「トゥイードル兄弟はさっきも聞いたと思うが人造人間だ。内部はよく分からん機械的な何かと有機物で構成されている。基本的にオレたちよりも頑丈だから、多少の無茶は聞くだろう」

「あんまり派手なミッションはやめて欲しいですけどね、兄さん」

「なに言ってんだ、それでもトゥイードルの片割れか? 情けない。俺はドンと来いだと言っておく」

「巻き込まれる僕の身にもなってくださいよ」


 それで前回死んでるんですから、なんて愚痴をこぼすダムの隣で、ディーは腕組しながら仁王立ち。

 双子の兄弟でこれほどまでに性格が違うものか、と亜莉栖。


「前回はあのハゲ頭のせいだろう? まともに頭が働かないアホのくせしていっちょ前に俺たちを独断で配置した結果があれだ。だが今回は違うだろ? アリスが俺たちを指揮するんだ。ハンプティよりはまだまともだろうさ」

「ですかね。僕は不安しか感じませんが、兄さんがそう言うならそうなのかもしれませんね」


 と亜莉栖を見ながらダムは言う。

 指揮? 亜莉栖は再び疑問に思う。さっきから運用だの指揮だのと、まるで自分が隊長のようなものの言われ方だ。


「で、だ。二人の運用はお前に任せると言ったが、使い方を覚えてもらう」

「使い方?」

「なに、簡単なことだ。二人は常に二人一組で行動させなければならない。それと活動範囲に多少の制限がある。まず水辺にはいけないこと。そして高所には上れない、つまり地上専用ということだな。あとは殺せるトランプ兵はナンバー6まで。とりあえずこのくらいか?」


 グリムは確認を取るようにマティへ振り向いた。

 帽子の少女は小さな寝息をたてながらも、こくりこくりと頷いた。


「だそうだ」

「え、あれ聞こえてんの?」

「ああ、マティは寝ながらでも反応を返すことくらいなら出来る。無駄な能力だな」


 へぇー、と感心した風に感嘆の息をもらす亜莉栖。

 すると小さな部屋の四分の一を占領する大男の体がゆっくりと起き上がった。

 そう言えばと、いつの間にやらいびきが聞こえなくなっていたことに、亜莉栖はいま気が付いた。


「ふぁああああ、よく少し寝た。ん? なんだ話は終わったのか?」

「ハンプティ、酒臭いぞ。アリスが酔ったらどうする」

「ガハハッ、安心せい。女子は酔わん酒だからな」

「そんな酒があるか!」


 傍から突っ込むトゥイードル=ディー。


「ははは、直ったのかお前たち。よかったなー、マティに感謝するんだぞ」

「あなたには言われたくありませんよ、ね? 兄さん」

「ああ。お前のせいで俺たちは以前死んだ。アホはアホなりに頭使わず、ただ援護射撃してればいいんだ! というかお前援護はどうしたんだよ! いつの間にやら居なくなってただろうが」

「ガハハ、なあに腹が減っては戦がどうとか言うやつだ」

「飯食いに戻ってたのか!?」

「ああ、そうだな」

「そうだな、じゃねぇ! 死んで詫びろこのハゲ」


 怒声を発し、どこから取り出したのか、ディーは手斧を手に取るとハンプティー目掛けて突進していく。

 血走った眼をするディーに対し、まるで子供をあやすような温和な顔つきでハンプティは手を前方へと出した。そしてディーの頭を押しのける。


「くぉ?」

「ガハハ、わしのところまで届かんだろう。にしてもディーはマティによく似て口が悪いな。作った主人の悪い所だけを引き継いだようだな」

「うっせいジジイ! 一発殴らせろ」

「飯の用意があるからな、その後なら相手してやってもいい」


 傍目に見ていたグリムは、もう呆れて言葉を発するのも面倒くさそうだ。

 部屋の隅に背もたれ、目を閉じて小さく息を吐いた。


「してアリスや、ちょいと料理の手伝いをしてみんか?」

「わたしが?」

「そうそう、わしがとっておきの男の猟師料理をご馳走してやろう」

「ふん、悔しいが俺も腹が減ってる。続きは飯を食ってからだな」

「ハンプティの料理の味は僕が保証しますよ、味だけですが」


 なんせ大雑把で……と続けるダムは渋面を浮かべている。


「まあ、いいけど。わたしあんまり料理したことないんだけど」

「なに、わしが手取り足取り教えてやろう」

「足は使わないと思うんだけど……」

「ガハハッ、言葉の綾だ気にするな。ならさっそく始めるか――」


 そう言ってハンプティは立ち上がると、倉庫の隣にある扉を開けて中に入る。

 そこはどうやら食料庫になっているようで、中から出てくると、その肩に大きなイノシシのような牙を持つ動物を抱えていた。


「今夜はハングリーボアの鍋にしようと思うぞ。今朝狩ってきたばかりでまだ身もやわらかく、臭みもなくて美味い。さあアリス、一緒に調理をしよう」


 にっこり笑ってハンプティは隣の調理室へと入っていく。

 亜莉栖はそれに続き調理室の中へ。

 そこで亜莉栖は思い知ることになる。ダムが先ほど、大雑把と言っていた意味を。

 手際よく皮を剥ぎ、イノシシが部位ごとに解体されたと思ったら、それらを特大のぶつ切りにして鍋に放り込む。

 勘なのだろうか。とにかく適当すぎる分量でドボドボと鍋に投入される調味料の数々。

 だが不思議なことに、味見だと言われて差し出された小皿に入ったスープは、不思議なほど美味に感じたのだ。

 亜莉栖の反応に気を良くしたのか、これぞ男の料理だと言わんばかりに豪快に笑うハンプティ。

 やがて鍋料理が出来上がると、狭いアジトの一室で、みんな賑やかな晩餐会が幕を開けるのだった……。



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