014―赤の女王とにたにた顔
「ふふふふっ」
真っ赤な絨毯が敷き詰められた広間。女の笑う、声がする。
首のない女神像や所々に横たわるオブジェ、赤い水を噴き上げる噴水のある奇怪な広間の最奥には、一脚の椅子があった。
大胆にも肩を大きく出した深紅のドレスを身に纏い、口元に不敵な笑みを浮かべる女性が座っている。
目鼻立ちが整い見た目にも若々しく、亜莉栖とさほど年の差がないように見える容姿。纏め上げた金髪にブルーの瞳がよく映える。
赤の国を治める、現赤の女王。
女王は一頻り笑った後、目の前に浮かび上がっている猫のにたにた顔に向かって問いかけた。
「アリスはちゃんと、トランプ兵を倒せたのかしら?」
その穏やかな声質からは、親が子を思うような温かさが感じられる。
けれど、音から窺える温かさほど、目元は笑っていなかった。
どこか遠くを見つめるように、虚ろに空を彷徨わせている。
「倒しはした、ようだけど。どうやらマティが殺っちゃったみたいだよ」
「あらあら、仕方のない子ね、アリスったら。ふふふっ」
出来の悪い子を窘めるように、小さく肩を震わせる。
「ずいぶん楽しそうだけど、今日はもう暴れなくていいのかい?」
チェシャ猫は、まだ血の乾かない女王の左手に握られた大きな鎌を一瞥し、にやにやしながら広間に横たわるオブジェを見やる。
そこかしこに倒れ伏すオブジェ。それは、首や手足のない、トランプ兵の斬殺体だった。
彼らが着込む硬い白銀の鎧は、まるでナイフで粘土を切り取るかのごとく裂け、兵士の肉は嘘みたいな鋭さで切断されている。
赤の女王は、機嫌の悪い日には特に荒ぶる。
自慢の大鎌で、トランプ兵たちを有無を言わさず、即刻処刑することが趣味なのだ。
つい先ほども、退屈しのぎという名の憂さ晴らしに、トランプ兵たちをランダムに十三体呼び出し、鎌で見るも無惨に切り苛んだ。
「ふふふっ、チェシャから面白い話を聞かせてもらったから、今日はもういいわ」
「……そうかい?」
お腹一杯、とでも言わんばかりに、女王は小さくため息をついた。
毎日のように兵士を殺すことに、いい加減飽きがきている。今まで殺したアリスの首を眺めるのもまた然り。新しい、刺激が欲しい。
「あぁ、早くわたくしの処まで来ないかしら……。アリス……わたくしのアリス。早くその首を、わたくしに……ふふっ」
突然恍惚な表情を浮かべ、妖しげに口端を歪める女王。その瞳は明らかな愛憎を含んでいた。
鎌の先から滴り落ちるトランプ兵の鮮血を、白くか細い指で受け止め、そのまま口へと運んでいく。
「ちゅぴ……ん……、不味いわね。やっぱり、アリスの血でなくちゃ、ね……」
ねっとりと舌で舐めとった血液の味に辟易し、冷酷な瞳が忌々しげに死体を睨む。
その様子を、表情を変えることもなく、チャシャはにたにたした顔で終始眺めていた。これから起こることへの期待と、微かな不安を胸に抱えて……。