My Beautiful Devil.
『本日未明に男性と思しき身元不明の遺体が広島県甘稲市で発見されました。付近にはぬいぐるみが落ちており、警察は身元の判明と周辺の調査、事件性の有無を……』
ピッとテレビを切りリモコンをポイッと投げ捨て俺は立ち上がる。
「最近は物騒な事ばかりで嫌気が指す。」
冷蔵庫から冷えたビールと枝豆を取り出し、食す。
切ったばかりだがテレビを再度着ける。
先程の身元不明どうこうの話は終わって、明るい番組になっている。
人が死のうがみな自分には関係のない絵空事だと流して悲しまず平和ボケして明るく生きる。
分からないだろう。
死は常に間近にあると。
歩けば人が沢山いる。
そこに人を殺せる狂気を持つやつは当然居る。
車に跳ねられば死ぬ。
死と言う悪魔は常に俺らを誘っている。
何事にも対比は存在し対比は間近にある。
平和の近くにはいつだって危険があるんだ。
だからニュースが嫌いだ。
人の死を絵空事だと受け流し、すぐに明るい番組に移す。
皆その人の痛みを理解しようとしない。
その癖殺人犯だのの犯人に対しては異様に攻撃的になるんだ。
大した興味を持っていなかったくせに自分の中の欲に近い正義をぶつけられる相手を見つけると総叩きにする。
人間とは滑稽で矛盾した生き物だ。
だからいじめをする。
いじめられる。
そんな世界に強くあろうとする人ほど冷笑される。
こんな世界のどこが美しいのか俺には分からない。
酒を飲み体たらくに生きる。
女も居ない。
そんなやつ他人からしてみれば幸せとは程遠い退屈な人生だろう。
だがこれが幸せなんだ。
この日常こそが生きてる価値なんだ。
だから奪われるのが怖いんだ。
何故皆永遠に自分は平和だとそう思うんだ?
俺には理解が到底出来やしない。
理解なんてしたくない。
俺はもう、
奪われたくないんだ。
夜になる。
田舎だから虫のざわめきがうるさい。
棚を漁りいつのか分からないインスタント麺を取り出す。
「まあインスタント麺だし大丈夫だろ…」
袋を開けるとカビの臭いが鼻を突き刺す。
俺は仕方なくインスタント麺を捨てて外へ出る。
当然寝巻きだ。
遅くまで遊んでいたと思しき女子高生達が俺を見て笑う。
人は皆自分より下だと思った人間を嘲笑い自分が上だと実感したくなる。
それは人間が持つ根底にある本能だ。
醜くもそれが人なんだ。
俺も同じだ。きっと。
あの女子高生達に腹を立てる理由などあるものか。
しかし見覚えのある三人だ。
コンビニへ足を踏み入れた途端。
静寂が世界を突如支配した。
なんだ?
ざわめき。
体が何かに拒絶している。
何だ何だ。
地面に血が滴る。
身体から血が吹き出す。
何だよこれ。
体が捻れていく。
何かの声がする。
何かが俺に纒わりつく。
突如世界が移り変わる。
俺の家の天井だ。
シミだらけの黄ばんだ。
起き上がろうにも全身が酷く痛い。
特に首だ。
寝違えたのか俺は?
重い身体を起こすともう外は暗くなっていた。
「あれは夢だったのか…?」
外はまだ明るい。
時間を見たら朝だ。
日付が変わっていない。
一体どこからが夢なんだろうか。
記憶は鮮明にあるが…
本当に不思議だ。
凄く嫌な夢だった。
だが夢にしてはおかしい。
酒が身体に残っている。
昨日は酒を飲んでいないし二日酔いはありえない。
あれは現実なのか夢なのか本当に分からない。
現実と考えればあまりにファンタジーだ。
夢と考えるのが一番現実味はあるが何故酒を飲んだ感覚がある?
冷蔵庫のビールは減っていない。
意味が分からない。
それに何かが抜けているんだ。
頭の中にあった何かが。
同じ時間にテレビを付けてみた。
『本日未明に広島県甘稲市で身元不明の二人の男女と思われる遺体が発見されました。二人は高所から転落したと見られ二人の間で何が起こったのか、警察は調査を進めております。』
事件の発生現場は同じだ。
事件現場も同じ場所だ。
何だか気味が悪い。
今日は外には出ない方が良いかもしれない。
何だか物凄く嫌な予感がするんだ。
ピンポーン
インターフォンが鳴る。
「誰だ…」
凄く嫌な気分だ。
足が重い。
何かが伸し掛っている様だ。
ピンポーン
誰だ…だれだ
モニターを確認する。
サラサラと何かを描く音がした。
モニターには『私よ』と書かれた紙を持った女が立っていた。
姿から察するに…
「四葉…?」
俺は安堵の息を漏らす。
重い足を動かし一歩一歩扉へと近付く。
おかしい。
足が鉛の様に重く身体が何か長い紐で縛られているかのように自由が効かない。
ただ同じ方角に向けて不変的に動かされるおもちゃの列車になった様だ。
近付くなと身体が抵抗する。
だが敷かれたレールに抗うことなど単なるおもちゃが出来るはずない。
扉が見えた。
長い髪の様なものが早く開けろと言わんばかりに隙間から侵入している。
俺が近付くと髪は俺を抱き締めた。
意識が遠のく。
これは何だ。
憎悪か?愛か?
それとも。
「遅いよ、清水!ばか!」
な、
先程までの異様な何かはない。
一体なんだったんだ。
あまりにぶっ飛んだ話で到底受け入れ切れるものじゃないのに自然と現実であったと受け入れてしまっている。
恐怖がない。
ただ何事もない日常の様に受け入れてしまっている違和感もない。
おかしくなっちまったのか俺は。
『なんで…』
「うっ…違う…ちがうんだ……」
あれ俺は何で泣いてるんだ。
何で震えているんだ。
何でこんなに怖いんだ。
「清水、あなたは悪くないよ。そうなんでしょ?」
まともに答えてはダメだ。
本能がそう言っている。
「ちがう」
俺の中に怒りが沸々と湧き上がってくる。
体が怒りで強ばる。
ダメだ。
また一線を…
「ちがぁぁぁぁぁあうぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ
俺は悪くない!俺は悪くない!俺は悪くない!
悪いのは………お前だぁぁあぁぁあ!」
やっちまった…
俺はまた…
「この景色を普通に見れていれば…良かったんだけどな。」
やめて。
苦しい。
もうやめて。
分かったから。
許して。
もう解放………
目に光が入る。
嫌な夢を見た。
ああ、また始まるのか。
この醒めない悪夢が。
『本日未明に………………………お前は逃げられない。お前は逃がさない。貴方は悪くな』
テレビを切って外へ飛び出る。
ひたすら俺は走った。
走るのを辞めたら…追い付かれる。
あの悪夢に。
あの…悪魔に。
これは普通じゃない。
これはどう考えたって夢じゃない。
全ての感覚が覚めてから残ったままなんだ。
酒が残っている、全身が痛い、手が熱いんだ。
あのニュースと夢は………繋がっているんだ。
あれは俺の死を報道しているんだ。
俺は直殺されてしまう。
自分自身が俺を殺すか悪魔が俺を殺すか。
何で俺はこんな訳の分からんことに…何故思い当たらない言葉に恐怖する。
何故………逃げられると勘違いしたのだろうか。
「みーつけた」
蛇の様に体が蟠を巻いた制服を着た女性。
あの夢で見た子にそっくりだ。
名前はなんだっけ………いやまあまた覚めたら分かるかもしれないな…
ああ痛いよ…痛いよ…痛いよ………
もう見飽きた天井だ。
何だこの醒めない悪夢は。
何故身体がこうも痛いんだ。
死にそうなぐらい痛いのに身体は不思議と動く。
『本日未明に広島県甘稲市で清水優咲さん26歳の遺体が発見されました。遺体には大量………………』
テレビが突如真っ暗になる。
「何を言ってんだ俺は生きてる…あれなにをおかしな事を言ってるんだ俺は。そうじゃないか俺は」
ああ迎えが来た。
口が裂けている。
嬉しくてあまりに嬉しすぎて口が裂けるまで微笑んでいるのだろう。
体から抉るように棘が生え始めた。
俺は両腕を広げた。
「愛してるよ、四葉…」
四葉は嬉しそうにきゃきゃと笑う。
「わたしもだよ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ…痛い……いたい…いたいよ……イタイ…よ」
また天井だ。
またこれだ。
また悪夢は明けてくれない。
『本日未明に天谷四葉さん23歳の遺体が発見されました。遺体付近には刃物が落ちており指紋の分析により加害者は清水優咲24歳と警察は口論の末に殺害したと断定。警察は清水優咲の身柄を確保するべく…………逃げて。貴方は悪くないんだから。そうでしょ?』
ああそうだったな。
四葉。
ああそうだったな。
四葉だ。
お前は俺を許してくれないんだな。
「うわぁぁぁぁあ!」
無数の銃声が轟く。
俺を悪魔のように見ないでくれ。
俺は悪魔じゃない。
いや…俺は悪魔…か?
四葉…君は悪魔じゃない…?
天井。
違う天井だ。
真っ白な天井だ。
布団?
「目を覚ましましたか清水さん。また魘されていましたよ。」
そうだ。
四葉は悪魔じゃない。
悪魔は俺だったんだ。
悪魔は人間の部分の俺だったんだ。
俺の美しき悪魔は俺を殺したかったのか。
そうかそうだったな。
「先生…私はこの…この悪夢から…解放されるのでしょうか?」
あれ…先生…?
「痛いよ…いたいよ………」
もうやめてください…
「なんで…四葉…」
お願いします。
悪いのは全部俺だから…
「貴方は悪くない。そうなんでしょう?」
ああ許してはくれないのか。
そうだよ俺は悪くないよ。
悪いのはお前だ。
「清水……私は決めたよ。」
もうどうでも良い好きにしろ。
「結婚はごめんなさい。」
………
「優咲…お前死にてぇのか?俺は四葉と付き合う事を許した覚えはねぇぞあぁゴラッ!…お前は三葉を…」
俺が全部悪かったのかな…?
四葉………教えてくれよ。
いや…君は答えを教えてくれていたな。
ずっと。
ずっと。
ずっと………
君は俺をずっと最期まで…憎んでいた。
憎悪と愛…それが君を苦しみ縛り付けていた美しき悪魔だったんだよな。
君は俺に美しき悪魔を植え付けたんだな…
憎悪と解放を君は選んだんだ。
全てが繋がった。
「いたいよ……まま……くまこ……おねぇちゃん………たすけて……」
「清水…ごめんなさい……私分からないの………自分が………分からない………」
「何を言ってんだ!四葉!やめろ!」
「俺は止めたつもりだったんです。」
そんなわけないだろ。
そう言われた。
「お前は過去に被害者二人の妹さん…娘さんを殺害しているそうだな。」
俺はそれを知った時に不思議と興奮してしまったんだ。
それが俺の悪魔だ。
俺はこれから先悪魔を抱えて………生きて……あれなんだ…
身体中が痛くなってきた。
鳥が俺の体を啄んでいる。
天井はない。
夜空だ。
広いな。
月明かりが眩しく感じる。
「あっ…あくまが…いなくなった………もうおれは……かいほうされたんだ………ふふ…ははは…」
『本日未明に清水優咲さん26歳の遺体が発見されました。遺体には大量の刺し傷があり周辺に落ちていた凶器から犯人を天谷二葉さん16歳と断定、身柄の確保が執り行われました。二葉さんは「私が殺しました。」と容疑を認めているとのことです。』
この作品を最後までお読み下さり誠に感謝申し上げます。
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