電車に乗っていると、ハプニングがあった
今日、私と彼は電車に乗っていた。
もちろん、私達だけでなく、同じ制服姿の男女が数人いる。
これからバスケの試合を応援しに行くところだった。
帰宅部と時間のある者は必ず行くのが決まっていた。
「電車の中、涼しいね」
私は前の席に座った彼に話しかける。
彼は席が狭く感じられるほど体格が良く、かっこいいなと私は目をキラキラ輝かせる。
彼は私の言葉にうなずくと、
「バスケの試合するから、授業を休みにするなんて、うちの学校くらいなものじゃないか?」
「そうかもしれないね」
私は同意すると、窓の外を眺める。
通り過ぎる景色は、緑が多く、目に優しかった。
通勤ラッシュは終わっているので、乗る人も降りる人も少なく、のんびりしたものだった。
「でもたまには外に出て、社会勉強をするのもいいかもね」
天気は朝から曇り気味で、青空が出るのを阻むように、灰色の雲が勢力を拡大させている。
「他校に行って、応援するだけだからな。バスケ部の奴らも喜ぶと思うぞ」
「うわあ。じゃあ、いっぱい応援しよう!!」
私ははしゃいだ声を出すと、両手を動かす。
スポーツ観戦は好きなほうだった。
男親の影響か、野球やバレーなど、テレビや直に見に行くこともあった。
彼は私の楽しそうな姿を見、表情を緩め、頭を撫でてくれる。
「えへへ」
子どもみたいに照れ笑いすると、彼が口元を緩めようとしたその時。
「ー子どもだ」
彼の視線を追うと、私は子どもの存在を確認する。
「本当だ」
周りの皆が、口々に同じことを言い、子どもに注目する。
歳は4歳くらいだろうか。
まだしっかりした足取りではなく、ゆらゆらとした感じで、通路を歩いていた。
彼がとっさにこちらを見、私に話しかけてくる。
「子どもがいる。危ないだろう」
「ちょっと行って来ようか」
「待て。俺も行く」
2人で子どもに近づくと、子どもと目線を合わせるために、腰を下ろす。
子どもは雑誌の表紙になりそうなくらい可愛く、ふわふわした雰囲気だった。
目が大きく、まるで天使のような、そんなイメージだった。
「誰?」
子どもがゆっくりと言ってくる。
喋りはまだ得意ではないらしい。
私は子どもを怖がらせないように、
「お父さんか、お母さんは?」
「…知らない人と喋っちゃ駄目だって」
「え…」
しっかりしているようで、こちらが驚く。
私はどうしようと思っていると、彼が代わりに前に出、子どもに言う。
「傷つけないし、何もしないから。ただ親のところへ連れて行ってやるだけだ」
「嫌だ。怖い」
「え…」
彼は子どもの言葉に、固まってしまう。
これでも一生懸命、優しくしているほうなのにと、私は彼が傷ついたのが、すぐに分かった。
「あのね、このお兄ちゃん、良い人なのよ」
横から笑顔でフォローしたのだが、子どもはふいと顔を背けてしまう。
どうしようと考えていると、ちょうど車掌さんが来たので、私と彼は安堵して話しかける。
「あの!! この子、迷子みたいなんですけど…。私達だと喋ってくれないんです」
車掌さんは30代くらいだろうか。
制服を着た姿は憧れでもあり、ついじっと見てしまう。
「迷子? …君、お母さんは?」
車掌さんが聞くと、どうやら私達と区別できるらしく、指さす。
「眠っている。起こすと怒るから」
「しっかりしているな、君」
車掌さんが頭を優しげに撫でると、子どもはきゃきゃと声を上げる。
そんなに嫌かな、私と彼。
ちょっと傷ついたが、平然を装う。
すると
「じゃあ、お母さんのところに行こうか」
車掌さんの言葉に、子どもがうなずいたので、車掌さんが抱っこする。
子どもは嫌がらず、むしろ親しみを覚えているらしく、車掌さんを尊敬の眼差しで見る。
「この子は私が引き受けるから。椅子に座って安心してください」
「はい」
彼がそっと袖を引っ張ってくる。
「ここは車掌さんに任せよう」
「そのほうがいいわね」
私は立ち上がると、少し躊躇した後、子どもの頭を撫でる。
泡みたいに、ふわふわとした髪。
触り心地が良かったのか、子どもが「バイバイ」と言ってくる。
私は驚いたが、手を振り返す。
彼も大きな手を軽く振るのだった。
「じゃあ行きますか」
車掌さんと子どもは別の車両に行ってしまい、事は終わったのだった。
「しっかりした子どもだったね」
「おう。俺は嫌われたけどな」
「そんなことはないと思うけど…。ライオンさんだからな」
私がくすくす笑うと、彼と手を繋ぐ。
「席に戻ろう。そろそろ到着するし」
「そうだな。戻ろう」
2人とも安堵した状態で、席へ戻ったのだった。




