プロローグ「選別」
最初に奪われるのは、名前だった。
帝国に集められた子供たちは、
ある日から名で呼ばれなくなる。
番号で十分だと教えられる。
名前は、感情を生むからだ。
感情は、忠誠の邪魔になる。
帝都の地下には、
窓のない教育施設がある。
表向きの記録には、
「英才育成院」と書かれている。
だが実際に行われているのは、教育ではない。
選別だ。
子供は試される。
理解力。
思考速度。
魔力量。
記憶保持率。
そして――
最も重要な項目。
従順性。
質問をした子供は、減点される。
理由を求めた子供は、記録を止められる。
自分の考えを述べた子供は、
二度と部屋から出てこない。
優秀であることは、罪ではない。
だが――
考える優秀さは、即座に処分対象だった。
ある少年は、命令を完璧にこなした。
だが一度だけ、問い返した。
「なぜ、その必要があるのですか」
その瞬間、
少年は「価値あり」から
「不安定要素」へと分類が変わった。
翌日、
少年は別棟へ移送された。
戻ってこなかった。
記録にはこう残る。
教育適性なし
それ以上の説明はない。
別の部屋では、
一人の少女が笑っていた。
感情を抑え、
与えられた言葉だけを口にする。
「帝国は正しい」
「皇帝は間違えない」
それを繰り返すほど、評価は上がった。
彼女は選ばれた。
帝国は、彼女を「成功例」と呼ぶ。
だが――
彼女はもう、自分が何者だったかを思い出せない。
家族の顔も、
生まれた土地の名も。
必要ないと教えられたからだ。
失敗作は、多い。
全体の七割以上が、
「利用に耐えない」と判断される。
処分の方法は、状況によって異なる。
記録を消す。
配置を変える。
役割を与え、使い潰す。
共通しているのは――
戻されないこと。
家族のもとに帰るという選択肢は、
制度のどこにも存在しない。
帝国は、この制度を誇る。
「秩序ある国家」
「才能を無駄にしない仕組み」
だが実際に量産されているのは、
考えない人間だ。
感じない人間だ。
命令に逆らわず、
未来を語らず、
ただ“使われる”存在。
それが、帝国の望む完成形だった。
帝国は今日も静かだ。
剣は抜かれない。
処刑台も使われない。
ただ、
子供が消え、
記録が修正され、
成功例だけが掲げられる。
そして――
まだ名も知られていない誰かが、
今この瞬間も、
「利用価値」を測られる前に生きている。
それが、
この国が保っている平和の正体だった。




