第9話 ナイフの矛先
「いやー、待たせてごめんね。
お偉いさんとの話し合いが長引いちゃってさ。」
先生がこちらを振り返り、いつも通りのほんわかした笑顔を見せる。
先生の後ろではフードがはだけた不審者男が真っ赤な顔をして伸びていた。
「ねぇ、いつまで乗ってるの?
重いんだけど?」
あ、忘れてた。
そういえば跨ったままだった。
立ち上がって先生に視線を移す。
すると、踊り場の角がきらりと反射した。
(ん?)
きらりと光る物は小型のナイフだった。
さっき不審者男が投げてきたものだろう。
大丈夫だとは思いつつも不審者男の手にいかないよう、ナイフを拾った。
(なんでここに?)
私たちに向けて投げられたナイフが真反対の、それも不審者男の後ろに飛ばされているなんて…不自然だ。
「それで、君は誰に何を誰の命令でここにきたのかな?」
「うぅ…ぉ、ぉ…」
「あれ?
動けずともギリギリ話せるくらいまでに調節はしたはずなんだけど…。
やっぱり個人差がある分、難しいなぁ。」
「命令したのは…赤毛混じりの、金髪の男です。」
気がついたら、口から言葉が零れ落ちた。
そんな私を立ち上がった男子生徒が驚いた顔で見ている。
「え?」
「あと、月と兎かな?
家紋付きの服を着てます。
ここに来た目的は……」
『————あいつを暗殺してくれ。』
スラスラ出ていた言葉が、止まった。
この手にあるナイフが、私の中で“ただの刃物“ではなく、“人を殺すための道具“に変わった。
…冷や汗が止まらない。ナイフに触れる手から体温が引いて行く。
男子生徒の表情が気になったが、顔も視線も上げられない。
「もう充分です。ありがとう。」
先生が「さ、こちらに。」と、私の手からナイフを回収した。
「2人は私の研究室で待っていてください。
私はこの不届き者を警備隊に届けてきます。
頼みましたよ。アルト君。」




