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魔法使いの捜査官  作者: ハチワレ
学院編
20/20

第20話 初・女子会(後半:ファルムス視点)

テントに入って3人で川の字になる。

お貴族様が多いせいか、テント内は広めで、床もフカフカ仕様だった。

庶民のベッドより寝心地が良いのが、なんだか悲しくなる。

とはいえテント独特の狭さもあるが、村人が知っているテントのサイズと比べるまでもなく広い。

この中にシングルベッド3つ分入るか入らないかくらい。


「疲れた…。

火まで扱っても湯船に入れないなんて、辛いわね。」


「川の水を汲んでくるべきだったね。」


ランタンに照らされる2人の顔に仄かに煤が付いている。

きっと2人と同様、私の顔にも煤がついてるのだろう。


女子3人が寝る前にやる事といえば決まっている。三人寄れば女子会の地へってね。

夜が深まると共に、話題も深いものになっていく。お互いの好きな物、嫌いな物、クラス、家族、ここに来る前の事…


「ファルムスは?

ここに来る前は、どこにいたの?」


「…私は、お嬢様の侍女をしていました。」


「お嬢様って、ヴィドゲンシュタイン伯爵令嬢のことね?」


あぁ、あのゴテゴテドレスおばけ頭の人。


「…あ、あの…グランテさん。

今日は、お嬢様が大変な失礼をして…

も…、申し訳ありませ、ん"でし…」


ファルムスは、嗚咽しながら私に向かって最敬礼をした。


「へっ!、

いや、何もファルムスが謝ることじゃないじゃん!」


「伯爵令嬢の命令なら、貴方は逆らえないじゃない。不可抗力よ。」


慌ててファルムスの肩を支える私に対して、レンはなかなか上がらない顔をじっと見つめて淡々と続けた。

動揺もせず、ただ相手を落ち着かせることを目的としたような声色は、洗礼された白百合(マドンナリリー)の妖精が宿っているのかと思ってしまいそう。


「大丈夫よ。

私もメルもあなたの味方だもの、ゆっくり話しましょう。

いつから、伯爵家に仕えているの?」


「よ、4歳の頃からです。」


「そう、じゃあ9年間も今日のような扱いを受けていたのね。」


「いえ、そんな事はありません。

お嬢様は…最初は優しい方で、いつも一緒に遊んでくださいました。

お嬢様が魔法で作った水の魚を見せていただいたこともありました。

でも…」


ファルムスの懐かしそうに細めた目が途端に曇った。


「“ファルムス“…この名前も関係しているのでしょう?」


ファルムスと初めて出会った日の夜から、レンは私に古代語を教えてくれた。

そのなかにあった。


彼女の名前の意味は———。




=========================================================


この国では、5歳になった国民は例外なく、魔法検査を受けることが義務付けられている。

もちろん、私も例に漏れず、測定を受けた。


「素晴らしい!

こんなに魔力量の多い子はなかなか巡り会えない!

良い子を見つけましたな、ヴィドゲンシュタイン伯爵。」


白い僧服に身を包んだ検査官の歓喜の声と、その言葉に誇らしげに笑う伯爵の姿に、私は純粋にうれしかった。


(お姉様も褒めてくれるわ!)


馬鹿な私は、思いもしなかった。

魔法が、大切な人の居場所を奪う事になることも。

私の存在が、誰かを傷つけることも。





魔力測定を終えた私は、お姉様と共に魔法の勉強をする事になった。

結果を伝えると、お姉様は「まぁ、すごいわね。」と驚きながらも喜んでくれた。


皆、私が魔法を使うと、褒めてくれた。

伯爵様も、先生も、使用人の人たちも。

沢山の魔法を使えるようになれば、沢山の人を笑顔にできるんだって、そんな見当違いのことを思ってた。


魔法を使う事は楽しくて楽しくて、授業以外は子供向けの読本を読む事が多かった。分からない文字はお姉様に聞いた。

お姉様も最初は快く答えてくれた。

でも、だんだん…答えてくれるけど笑顔が消えた。


この時に気づいていれば…こんな関係にはきっとならなかった。


「分からないわ。使用人に聞きなさい。」


だんだん…目を合わせてくれなくなった。





その日はいつも通り、参考書を読んでいた。

私は特に幻想の魔法が好きだった。

幻想の魔法があれば、誰かを驚かせたり、喜ばせたりできる。

それに…極めればもう会えない実の両親にも会えるんじゃないかって思ったから。


幻想の魔法はなかなか難しい。

原理は、光の屈折を考慮しつつ、空気中の水分の粒子の配列と調光に魔法で干渉して操る。

単にコツだとかではなくて、その場の環境に合わせることが当たり前の魔法だ。

参考書を読みながら、指先で試してみるがなかなか成功せず、試行錯誤していると、荒々しい音と共にドアが開いた。


「お、お姉さ「お姉様なんて呼ばないで!!!!!!」


普段は優しいお嬢様が声を荒げ、私の手にあった本を引ったくった。


「何よ、いつも本ばっかり読んで、魔法使って!

わざわざ見せびらかして!

魔力が少ない私への当てつけ!?

性格悪いったらありゃしないっ!」


「ち、違います。

お姉様!」


「何が、何がお姉様よ!

血なんて繋がっていないくせに!

年下で、みなしごで可哀想だったから仕方なくそう呼ばせてあげたのよ!

汚らわしいあなたなんかにお姉様と呼ばれる筋合いはないわ!

あんたなんて、一生貴族になんかなれない!

私の妹になんかなれない!

この家に居たいなら奴隷としていなさいよ!

いっそのこと、名前も“ファルムス”に変えたらいいわ!!

意味わかる!?わからないわよね?卑しい生まれだものね!

古代語で奴隷って意味よ。あなたにピッタリだわ!!」


お姉様…いや、お嬢様が魔法で部屋のものを私に投げてくる。

私は、魔法で防御することも、避けることもできなかった。


本や燭台が体にあたるよりも、お嬢様から向けられた叫びの方が…ずっと痛かった。




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