第17話 閑話(レン視点)
「よかったの?
ジンを探しに行かなくて。」
「いいから。そこに足をかけろよ。」
クマ対策に木へ登る途中、私はユートに話しかけた。ユートの片目がピクッと動く。嘘をついている時に出る癖だという事を知っているくらいには幼なじみを続けてきた。
「よっ!」
髪が乱れることも厭わず、私は軽々と上の方の枝に登り、呆気にとられた幼なじみの顔を見下ろした。
「どう?
ブランクがあるにしては、上手でしょ?」
小さい頃はまだ家が今ほど裕福ではなかった。もちろん、習い事なんてものもない。
ずっとユートとジンの3人で遊んでた。
2人は男爵の子息だったけど、家が近かったし、親同士も仲が良かった。
何より、男爵家の当主達が、平民に対して偏見も差別意識を持っていないことが大きかったと、今なら分かる。
父が成り上がってからは、「成り上がりの娘」と父を馬鹿にされないように…私は寝る間も惜しんで勉強してきた。
それでも…あの頃の時間が羨ましかった。
はしたない、淑女がするべきでないとわかっていたのに。
幼なじみの面食らった様子に満足しながら、下の枝まで降りてファムルスに手を差し出す。
「ほら、手を貸して。
手伝うわ。」
「あ、ありがとう。」
「ほら、そこの騎士様。
ぼんやりしてないで、淑女を支えたら?」
上から私がファムルスを引き上げ、ユートが下から持ち上げる。
上まで来るのに、時間はかからなかった。
横ならびになったファムルスは、ドキドキしているのか、顔が少し高揚して、緊張が隠し切れていなかった。
「あの騎士モドキに変なところ触られなかった?」
「な、ないです!ないです!」
「あのなぁ…
俺がそんな事する奴に思うか?
あと、守って貰える相手に対する態度かぁ?」
「あら、守るつもりはあるのね。
これでエスコートが完璧なら、本物の騎士みたいなのに。」
ムカついてた表情が、今度はショックを受けたように揺れた。
青くなるような、赤くなるような顔をして視線を外し、震えた声で呟いた。
「…そーゆーのが好きなのかよ……。」
あれ、ちょっと涙目になってない?
言い過ぎたかしら。
「ユートの青年姿が楽しみってことよ。
ユートは、ユートのままが1番だけど、この世界では、私も貴方もずっとそのままでは居られないでしょ?
教養や知識を吸収して、身につけたら、ユートは誰よりも素敵な紳士になると思ったのよ。
私が知っている人達の中で、貴方より情熱が勝る人はいないもの。」
すぐに明後日の方向を見て、不機嫌そうに黙った。
ユートは照れると顔を隠す。
でも、耳だけは隠せない。耳が真っ赤なことをきっとユート自身もファルムスも気づいてはいないのだろう。
私は少しの優越感とからかい心から「クスッ」と笑った。
私の隣に座るガチガチのこの子の緊張をどうほぐそうか。
一瞬浮かんだ悩みに頭を降ってかき消す。悩んだが、きっとユートと私が一緒なら、ファルムスの顔もきっと笑顔にできる。
家が成金になった。
お転婆から、淑女にならざるを得なかった。
もし、貴方が紳士に変わったら、
その目に映る姿を見る度に、
変わらないモノがあるのだと、
変化の嵐に飛び込んだ私を、
きっと、安心させてくれるの。
こんなの、我がままかなーーー?




