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魔法使いの捜査官  作者: ハチワレ
学院編
14/17

第14話 柵ほどの身分


「……。」


アルトはギクリとした動きで固まる。


私たちは今、どこにいるのかわからない。広大な山の中だ。

山で道がわからない時に一番にすることは、位置関係に目処を立てること。

闇雲に歩いたとしても、位置がわからないんじゃ、自ら迷いに行くようなものだ。


私は南を指差して言った。


「こっちに行こう。

微かにだけど、水の流れる音が聞こえる。川があるのかもしれない。」


「確かに。川があれば地図と照らし合わせて位置関係の目処がつくかもしれないわね。」


先生から配布された物がいくつかある。

地図、方位磁石(コンパス)、が班で1つ。

小さな三角錐のオブジェが班で2つ。

空の水筒と緊急信号が1人1つづつ。


コンパスは、父の本で読んだことがあったが、実物を見るのは初めてだった。



水音を頼りにみんなと歩いていく。

アルトを見ると、少し罰が悪そうな顔をしていた。


お返しができた私としては、その顔で満足だ。ふんっ!


「メルが当たりだ。」


ジンの言葉と共に幅のある川が見えてきた。


「山にしては流れがゆっくりね。」


「多分、下流の方だね。」


地図をみんなで囲む。

左上には、“特別保護区域 王立公園 敷地内地図“と書かれていた。


この公園には山が2つ。川が3つ流れていた。

山間の間が扇状地になっていて、そこを大きな川が流れる。

他の2つは小さい川で、大きく表示されていたのは、平地に入ってからだった。

この3つは、扇状地と平地の間で1つの川になり、三角州を経て海に流れていくらしい。


ここは、多少なりとも勾配があるし、川の流れから見ても平地ではない。

そうなると、


「扇状地の下流側って考えるのが適切でしょうね。」


「ここらへん、果樹園って書いてあるぞ。

森の木じゃなかったのか。」


私達を囲んでいた木々は、確かに森の木にしては、細く若い木ばかりだった。

山ごとに生えてる木に違いがあるのかと思っていたら、まさかの果樹園。森ですらなかったのか。


「本当だ。

実がなっていないから分からなかった。」


「ほとんどの収穫時期は秋ですもの。

春の終わり頃に実のなる果物なんて少ないわ。」


「ちぇー!

秋に開催してくれれば食えたのに。残念だなー。ッて!!!」


ぼやくユートの首にレンがチョップを入れる。


「何、貴族らしかぬこと言ってるの。ここは特別保護区域よ。

勝手に()いだり食べたりしたら、貴族じゃなくて賊としての扱いを受けることになるわよ。」


「まぁまぁ、それよりこの後はどこへ向かう?

一番近いチェックポイントはここだね。」


睨み合う2人の仲裁に入るようにジンが地図上にある1つの星マークを指差す。

それは扇状地に面した山間にあって、確かにここから1番行きやすそうな場所だった。



=========================================



コンパスと地図を頼りに、青い果樹園の中を歩いていく。


「これなんだ?」


この場には、あまり似つかわしいとはいえない金属製の柵があった。


「山の動物から果樹園を守る柵じゃないかな?

村の畑でも害獣対策の柵を作ってたよ。

でも、背も低いし、金属製の柵なんて私も初めて見た。」


柵は私の腰くらい高さしかない。

害獣対策なら、低くとも胸の高さくらいは必要なはず。

鹿がいれば飛び越えられないようにするために、人間と同じくらいの高さにするよね?


「柵から向こうの木は、大きさも太さも全く違うわ。

きっとここから山に入るのね。」


腰の高さなら、跨いで越えられる。

柵に手をかけて、右足を振り上げた時だった。


「ちょっ———」


「あら〜!

ファルムス、あなた良いところにいるじゃない。」


アルトの上げかけた声を遮って現れたのは、大きな羽やリボン、花が大量に髪に盛られた女の子だった。山に不釣り合いなパニエの大きいドレス姿に、ローブが肩から羽織られている。


その後ろに似たような姿の5人の女学生がいた。

一見、同じようなドレス姿だが…ドレスの色合いが違っていたり、飾りの大きさ具合が違っていた。


抱いた第一印象は、(頭、重そう…)。

横目で見た顔色が悪そうなファルムスがなんだか気になった。


「お、お嬢様…」


「この柵、越えられなくて困っていたところなの。

あなた、ひざまづいて足場になりなさい。」


頭が重そうな令嬢は、名案とばかりに嬉々とした顔で言う。

私も、レンも、何を言っているのか理解できなかった。


「は、はい。」


「ま、待ってください!」


ファルムスが柵の横に四つん這いになろうとした腕をとっさに掴んだ。


「なに、あなた。どちらの家柄?」


「私は、魔法科1年Aクラスのメル・グランテです。

この柵は、足を上げれば、跨いで通れます。

わざわざ、誰かを足場にしなくても、大丈夫ですよ。」


「グランテ…聞かない名前ね。

大した貴族でもないのでしょう。

私は、プターニャ・ヴィドゲンシュタイン。ヴィドゲンシュタイン家の伯爵令嬢よ。

淑女が足を上げて何かを跨ぐなんてあってはならないのよ。

それに、身分が上のものに、気安く意見するべきではないわ。」


「ドレスがお邪魔なら、お手伝いします。」


「そんなことは、平民がすることよ。

末端でも仮にも貴族でも、そんなことするものではないわ。」


「…私も、ファルムスと同じ平民です。」


「…ふーん。なるほどね。

ネズミ同士の友情ってわけ。

よかったじゃない、ファルムス。良い友人に恵まれて。

雇用主として安心したわ。」


ファルムスの緊張が、少しだけ緩む。


「その友情に免じて、ファルムスを足場にするのはやめるわ。

代わりに、あなたがやりなさい。」


彼女は、人差し指を私に向けてきた。

取り巻きたちが後ろでクスクスと笑う姿に腹が立つ。


「え?」


「私、汚い平民にできるだけ触られたくないの。

あれだけ偉そうな事言ってたのだから、できるわよね。

あ、無理にとは言わないわ。ファルムスにやらせるから。」


挑発だ。みくびるなよ。


「私も、ファルムスも、誰かに足げにされて良い人間ではありません。

貴族同士の世界での常識は、一平民にはわかりかねますが、大変なことが多いのだろうとお察しします。

そうだとしても、貴族界の常識を私達庶民に押し付けないでいただきたい。」


私は、握ったファルムスの腕を引っ張る。


「行こう。ファルムス。」


「そう、やりなさい。

ファルムス。」


下を向いたまま、ファルムスの足が止まる。


「…ご、ごめんなさい……」


「ファルムス!!!」


ファルムスは、私の腕を振り切って、柵の横に四つん這いになった。

ヴィドゲンシュタイン伯爵令嬢は、満足げに足を運ばせた。


「待って!

私がやる。私が足場になる。」


「ちょ、メル!」


私は、ローブを脱いで、静止するレンを振り切り無理やりにローブを預けて柵横に四つん這いになった。


「あははは!

ローブの下は平民丸出しの服装ね。

自分の立場をはっきり示したかったの?いい心意気ね。

こっちの足場を使うわ。

行きましょう。」


ヴィドゲンシュタイン令嬢を先頭に、背中に足を踏み入れていく。


(お、重い…!)


1人、1人、ヒールの先が背中に食い込む。


(痛い、痛い。)

痛みを歯を食いしばって耐える。


6回目の痛みが終わった後、肩に重くて温かいものがおぶさってきた。


「グランテさんッツ!」


「うわっ!」


「ごめんなさい。

私のせいで…ごめんなさいッ!」


顔は真っ青なのに、目もとを赤くしたファルムスが泣きじゃくっていた。


「違うよ。ファルムスのせいじゃない。

私が決めたことだよ。」


メルが肩にローブをかけてくれる。

みんなの顔が暗い。


「ほーら!

私達も早く行こう!」


柵に手をかけ、易々と柵を乗り越えてみせた。


背中を捻った時、背中に痛みを感じた。絶対表情にすものか。


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