第12話 庭園で始まる出会い(後編)
学校の救護室に着くと、整えられたベットへ案内されて校医の先生の診療が始まった。
「打撲だね。
鳩尾だけど、内臓に損傷はないのが幸いだ。」
そう診断した後、校医の先生は、彼女の鳩尾に手を置いて、魔法をかけた。
彼女の苦しそうな顔がどんどん和らいでいく。
「あ、ありがとうございます。」
「クラスと名前は?」
「魔法科1年Aクラスのファルムスです。
ファミリーネームはありません。」
わぉ、同じクラスだったのか。
「どうしてこんな怪我を?」
ファルムスは、2、3回瞬きをした後、目を伏せがちに答えた。
「転んだ時に、大きな石があって。」
そんな彼女に校医は目を見ながら言った。
「そう。
私には、誰かに殴られたように見えたが?」
「私たち、庭園にいたのよ。
あなたに手を挙げたのは、声を荒げた人物ね。」
一緒に見守っていたレンが心配そうに確認する。
レンの声でファルムスはやっと私たちに気がついたようだった。
「あなたたちは?」
「私は同じクラスのレン・モンテールよ。
彼女はメル・グランテ。」
私は、体を右にそらして、彼女の視線と合わせる。
「よろしく。」
「この2人がファルムスをここまで運んでくれたんだ。」
「…そうだったんですか。ありがとうございました。」
「そろそろ、授業が始まる。2人は教室に向かいな。遅刻になるよ。
ファルムスはまだここにいな。何があったか話せるようになるまで、このベッドで休むんだ。」
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授業が進んでも、ファルムスが教室にくることはなく、昼休みを迎えた。
「レン、ファルムスのこと、どう思う?」
「おかしいことばかりよ。
身だしなみからしても、彼女はおそらく平民。
ただ、ファミリーネームがないこと、なにより“ファルムス”という名前…」
確かに、ファミリーネームがないのはおかしい。
この国には、平民もファミリーネームを使う。
無いとすれば、隣国から移住した例とかだろうけど…そういう場合は、出身の村や町の名前を使うと村の商人から聞いたことがある。
でも、“ファルムス”の名前が引っかかるの?
「ん?名前が何かおかしいの?
確かに、珍しい響きだとは思うけど…。」
「…メル、あなた、古代語を勉強したことある?」
レンが考え込んでいた表情から一気に目を見開き、私を見る…
「いや、ないけど…。」
「今日の夜から勉強付き合うわ。
古代語の授業は基礎知識ないと厳しいわよ。レベル高いんだから。」
うっっ…
「あ、ありがとう…
ランチにファルムス誘ってみようか。」
「良いわよ。セキ校医もランチなら許可出してくれるでしょう。」
ってことで、救護室の扉を開ける。
「こんにちはー!」「ご機嫌よう。」
「お前たち、どうした?」
「ファルムスをランチへ誘いにきました。」
「え…いえ、私は…」
「いいじゃないか、行ってきなさい。」
許可が出た私たちは、困惑気味のファルムスを食堂に引っ張って行くことにした。
左右の二の腕をそれぞれ脇へホールドし、半ば引きずるように歩いて行った。
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やはり、空腹は最高のスパイスである。
ハンバーグの香ばしい香りと滴る肉汁が涎を呼ぶ。
私はハンバーグ、レンはミートスパゲッティー、ファルムスはグラタンを食べている。
「ねぇ、あなた今日、何があったの?」
「ちょっと、レン…」
レンの言葉に、かろうじて動いていたスプーンが止まった。
「おおかた予想はつくわ。
自分より身分が高い方の逆鱗に触れて、鳩尾を殴られた。
そんなところでしょう。」
「………………。」
ファルムスはとうとうスプーンを離し、代わりに膝のローブを握りしめる。
「話したくないのなら、話さなくていいよ。
私、平民なの。ファルムスも?」
彼は、少しビクッとして、ゆっくりと頷いた。
「…うん。」
「私たち、オリエンテーリングの班集めててさ、よかったら一緒の班にならない?
それとも、もう決まってる?」
「まだです。…良いんですか?
私なんかで……。」
「あら、何か問題があるの?
良いじゃない。爪弾き者の平民同士、徒党でも組みましょう。
私も平民よ。」
「“なんか“じゃないよ。
他にも平民出がいたなんて心強いよ。
よろしく、ファルムス!」
6人班まで、後1人!!!




