第11話 庭園で始まる出会い(前編)
「ちょっと、メル。」
「ん?」
「あなた、本当に大丈夫なの?
昨日帰ってきてから顔色が悪いわよ。」
学校へと並んで歩くレンが私の顔を覗き込む。
心配そうに覗き込むその顔は、芸術作品のように綺麗だった。
「んー、昨日は採血だったから、少し血が足りないのかも。
大丈夫だよ。朝ごはんも食べたし。」
レンは同室の仲間だが、昨日襲われたことは言わないようにした。
無理に心配させたくないし、もしかしたら巻き込む可能性もある。
表情に出ないように気をつけなければ。
「研究対象って、大変ね。
あまり無理しちゃダメよ。」
「うん。ありがとう。」
しかし、どうも血の赤を思い出してしまう。
もしかしたら…有りえた未来と昨日の採血の景色を重ねてしまうのだ。
馬鹿馬鹿しいとは思いつつもフラッシュバックしてしまう。
「ねぇ、レン。たまには庭園を通りながら行かない?」
何か、綺麗な記憶に上書きしよう。そうすればきっと気分も晴れるはずだ。
「私は構わないけど、どうして?」
「今日はせっかく雲ひとつない青空だから、朝のバラが綺麗だろうなーって思って。」
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庭園の花々は、本当に綺麗だった。
チューリップにブロッサム…ムスカリ、フリージア、勿忘草…名前がわからないものも多くある。
バラはまだ咲きかけや蕾が多かったが、朝露の滴る姿は満開の元は違った雅さがあった。
朝露に冷やされた空気に、甘い香りが際立つ。
「うわぁ、朝の庭園って良いわね。
他に人もいないし、花も生き生きしているように見える。」
「ほんと。
遠回りにはなるけど、これから朝は庭園を通って行こうか。」
「いいわね。私、この空間が好きになったわ。
でも、学院に向かうと思うと、気が重いわね。」
「オリエンテーションの班、どうしよっか?あと2人。」
「うーん…もうほとんど決まってるだろうし。
そもそもほとんどが貴族のこの学校で庶民と組む物好き、そう何人もいないわよ。」
「うっッ!!!」
「自分の立場をわきまえなさい!!!!」
いきなり、垣根の向こうから女性の大声がした。
「何!?」
「行ってみましょう。」
2人で声の出所へ向かって走ると、ローブ姿の小柄な女の子が1人倒れていた。
「どうしたの?
大丈夫?」
「う、うぅぅう…」
うめき声しか出せないのか、鳩尾を両手で押さえ悶えている。
閉じた目には涙が溢れていた。
腹痛だろうか。
いや、違う。ここにはもう1人いた。
さっきの叫び声からも考えると、多分…
「救護室に運びましょう!
少しでも軽くなるよう魔法をかけるわ。メル、足を持って!」
「待って、私がおんぶする。
レンは先に救護室へ行って先生を呼んできて。」
腹部を抑えて悶えているのに、腹側を伸ばさない方が良いだろう。
それに、登校時間で学生も大勢いる。彼女の名誉のためにも顔や姿が判別しにくい体勢の方が良い。
「わかったわ。
軽くしてあるとはいえ、気をつけてね。」
「うん、ありがとう。」
「今から、救護室行きますよー。
私におぶされるかな?」
女子学生は、少しずつ体を動かして私の肩へ手をかける。
「よっこいしょ。」この言葉がいらないくらい、軽かった。言ったけど。
(人が背中にいると思えない。魔法ってすごい。)




