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魔法使いの捜査官  作者: ハチワレ
学院編
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第1話 メル・グランテ

草木生い茂る森の中、膝まで伸びた草をかき分けながら私、メル・グランテは全速力で走っている。


と、いうのも岩をも砕きそうな猪が、怒りを剥き出しにして迫ってくるからだ。

背中に突き刺さるような殺気は——まるで鋭い槍を向けられているみたいだった。


事前に設置した罠や地形を利用して、なんとか距離をとりながらとにかく走る。


(あそこの岩場を越えれば…)


岩場を抜けて湖に差しかかった瞬間、『ドンッ』と鈍い猟銃の音がした。


同時にさっきまでの怒りが驚きと恐怖、息ができないほどの痛みに変わったこと…


後ろから伝わる感情と湧き出る罪悪感を振り払うように私は湖を走り抜けた。



森から出た後は教会でお祈りをする。


これは私が決めているマイルールだ。


今日も例外なく、神様の前で手を組み、祈る。

(本日も、森で命をいただきました。死後の彼のことをどうかお救いください。)


教会とは、不思議な空間である。

汚れひとつない真っ白な壁、窓から差し込む天使の眼差しのような光、どこか遠くから聞こえる自然の音。


見ないふりをした私を許してくれている。

そう思うと、少しだけ心が軽くなる。


ギイイ…

「こんにちは。」


振り返ると、見たことのない男性がドアから入ってきた。

肩まである明るい茶髪と少し大きめの丸眼鏡が印象的だ。


「フィリポ司祭さまはどちらにいらっしゃいますか?」


「こんにちは。神父さまならこの時間は裏の畑でご奉仕をしてていらっしゃると思います。

もうすぐ、戻ってくると思いますが…お急ぎなら呼んできましょうか?」


「いえ、聖職者に奉仕を中断させるのは忍びない。便りも出さずきたのはこちらですから。」


「こちらで待たせていただきます。」そう言うと、彼は私の隣に腰を下ろした。


「お祈りの邪魔をしてしまったかな?」


「いえ、ちょうど終わっていたので大丈夫でした。

どちらからお越しになったんですか?村の人じゃないですよね?」


「王都からだよ。私はある研究をしていてね。フェリペ司祭ともその関係で手紙のやり取りをしていたんだ。

手紙の内容に気になったことがあったから実際に話を聞きたくて、飛び出してきてしまった。」


頭をかきながら男性は「ワハハ」と笑いながら言った。

なんだかほんわかしている人だなあ。


「私は、王立魔法学院で教員兼研究員をしているソルべールだ。君の名前は?」


「メル・グランテです。」


「グランテくん、君はこの村で不思議な能力を使う人がいるって話を聞いたことはあるかい?」


「不思議な能力?例えば…?」


「空が飛べたり、人の考えていることがわかったり、普通ではあり得ないことさ。」


「ないですね。こんな小さな村にそんな人がいたら知ってると思いますよ。」


「そうかあ…」


「あ、でも」


「でも⁉︎」


「花屋のおばちゃんはすごく不思議な人です。」


「どんな感じ?」


「この村に住む人の情報が全部頭の中に入ってます。特に若い村人同士の恋愛話が大好きです。

実際に仲人としてカップル成立させてしまうくらいに。」


「ふむ…世話好きおばさんの可能性もあるが…調べてみるか?

いや、でも司祭と聞いていた話とは違うな…。

君、こんな話は聞いた事あ——」(ギイイ


ソルベーナさんが話そうとした途端、教会の扉が開く音と共に神父さまが入ってきた。


「おや、ソルベール先生、いらしていたのですか。」


「フィリポ司祭、突然の来訪すみません。あなたからの手紙を読んだらいても立ってもいられなくて。

直接お話を聞きに参ってしましました。」


「それは。それは。簡素なものしか出せませぬが、別室でお話しましょう。

メルさん、今日もお祈りですか?」


「はい。でも、終わったので、失礼致します。」


「想いやる心を持つあなたはきっと神のお恵みがありますよ。」



===================================



このあとは、母の店の手伝いが日課である。

私の母は村唯一の薬屋をやっている。薬草をとって乾燥させて調合に包薬に販売に…と、やることは事欠かない。


「おーい!メルー!」


「ラルク!」


薬屋から手を振っていたのは幼馴染のラルクだ。

私も手を振り返して家路を急ぐ。


「メル、教会行ってたの?今日は遅かったな。」


「うん。猪は?」


「親父が解体してる。多分、今頃は燻製にかけてる頃じゃないか?

終わったら必要な部位持ってくるから、聞いてこようと思って。」


「ありがとう。お母さんに確認とってメモ渡すから、少し待ってて。」


「あいよ。」


店の奥で調合していたお母さんに確認をとり、薬に必要な分の部位をメモする。

ただでさえ薬草でもやることが多いのに、薬には動物の肝なども必要になってくる。


ラルクの家は代々猟師である。

狩りから保存処置までしてくれるので大変お世話になっている。


「いつも、ありがとう。

ラルクのお父さんにはいつも助かってる。」


「食用にはならない部位も引き取ってくれるし、助かってるのはこっちだよ。

それに、狩りをしてると、メルが走ってくるんだもの。

そしてその後ろにはいっつも動物がいる。それも大型の。

最初の頃は親父も俺も肝が冷えたけど、もう慣れっこさ。

メルのおかげで早く森から帰ってこられる。

でも、毎回思うんだけど、なんでメルは俺たちの居場所がいつもわかるの?」


「いやー。なんとなく?勘?」


「こえーよ。

…俺、もうすぐ狩りの許可が出るんだ。

もう罠かけや親父の荷物持ちじゃなくなる。

そしたら、メルにうまい肉食わせるから。」


まっすぐ私の目を見て、ラルクはそう言った。


(か、かわいい)


「うん、うん。楽しみにしてるね。ラルクがとったお肉。」


「ちょ、頭撫でんな!ニヤニヤすんな!子供扱いすんな!」


ラルクは私の1つ下だから、昔からずっと面倒を見てきた。

あんなに小さかった子が…なんておばさんじみたことを思ってしまうのは許してほしい。


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