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最後の恋を見つけよう  作者: ほたるいか
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5 車から男をおろした話

 ある日、離婚した元旦那から、「僕、再婚する。今住んでいるその家、子供連れて出て行け。」と言われた。実際にはカタコトではないが、要約するとこんな幼稚なことを言っていた。


「娘二人は僕の宝物。離婚しても離れても、それは変わらない。」

 そうのたまった元夫よ、一年もたたないうちにこんなあほなことを言い出すとは、てめえの頭は湧いてんな!

 そもそも離婚するまで相当時間がかかったのは、てめえが別れないとごねたからだろうが。一年もたたないうちに再婚って、どの口が言ってるんじゃ、ボケええ!


 しかも、離婚したら田舎に帰るって言った私に、

「僕が出ていくから、子供とこのままこの家に住んで!もう一度関係を作りなおして、またいつか家族に戻ろうと。」

ってこっちにいるようにすがったのって、お前やなかったっけ?


 やっぱり離婚するとき、すっぱり財産分与しとけばよかった・・・。後悔先に立たず。そして、役に立たず。


 ということで、弁護士会主催の無料相談所へレッツゴー。

 要望は2つ!

 ①家はわたしのものだ!

 ②養育費と学費を払え!

 この2点を要求することは可能かと相、相談をしに行った。

 

 相談に乗ってくれた弁護士さんは、このまま自分と契約しないかと営業を持ち掛けた。これ100パーセント勝てるからと。

 確かにこの人なら何とかしてくれそうだと感じ、そのまま無料相談会の会場から、その方の所属する大手事務所に移動し、その日のうちに契約した。

 調停の準備を着々と進め、何回かの話し合いの後、結審。


 結論から言うと、私の勝ち!

 そもそも頭金の500万は全部私が出しているし、支払いは二人の共同通帳からでている。名義を夫にしたとはいえ、なんで私が追い出されないといけないんだか。共同名義にしなかったことを激しく後悔したので、娘たちが家を買うときにその失敗を挽回しよう。

 養育費は一人3万円に落ち着いた。私の年収の高さがあだとなり、すごく少なくなってしまった。微々たるものだけど、全くもらえないよりはましだと自分に言い聞かせた。

 ちなみに元旦那は、その後の娘たちの学費を一切出さないようなクソ野郎だったけど、それはまた別の回で。


 家の名義を自分に変え、今後はローンを払いながら、娘たちと楽しく住み続けることになった。

 そしてこの時の弁護士は、のちの私の彼氏になりましたとさ。チャンチャン!


 これで終われは幸せな人生の幕開けなのだけど、そうは問屋が卸さない。そうそう私の人生、甘くない。

 

 結論から言うと、この彼になった男、既婚者だったんだわ。


 結婚指輪はしてないし、夜や休日にも会えてたんで全く気付かなかった。

 まあ、子供が小さかったのでデートは月に1回だけだったし、仕事しながら子育てもしてたのでメールもあまりできなかった。

 休日の昼や平日の夜、月に一回だけ旦那がちょっといなくなるってくらいなら、奥さんも気づかんよなあ、そりゃ。

 そういうわけで、だまされているとは知らず、私たちは2年間それなりに楽しくやっていた。 


 なんでわかったかっていうと、年賀状がキッカケ。


 彼はもともと大きな事務所に在籍していたが、私の弁護をしている間に独立し、個人事務所を設立した。

「事務員が一人だけの小さな事務所だが、一国一城の主になれた」

 そういって張り切っていた。


 彼が開いた新しい個人事務所は、私が勝ち取ったマンションから車で15分のところだった。

 彼が元々住んでいたところも、彼が勤めていた大きな事務所も、この街とはかなり離れていた。だから私は、彼はゆくゆく私と一緒になるつもりでここに事務所を構えたのだろうと考えてしまった。


 「君がこの街に住んでいるから、ここに事務所を開いたんじゃないんだ。もとから希望に合う物件を探していて、見つかったのがたまたまここだったんだよ。」

 そう彼は言っていたが、私は彼が照れてそう言っているのだと思っていた。そして、彼に何かあったら私が支えなければ!と、心に誓っていたさえいたのである。


 それなのに、なんということでしょう!彼は本気で、たまたまうちの近くにいい物件があったからやって来たのだ。アホやん?


 彼と別れてからできた飲み友達は、これまた弁護士だった。この飲み友達曰く、独立してやっていけなくなる弁護士事務所は、実は結構多いらしい。当時の私はそのことを知らなかった。

 離婚時に揉めた夫婦は、その後も子供の進学等でもめて、再調停になることがとても多いらしい。つまり、リピーターになることが多いらしいのだ。

 事実彼も、「次にまた再調停をすることになったら、俺を頼ってよ。」とよく言ってた。


 営業をかけることは大事なんだろう。彼の妻は、一国一城の主となった夫を支えるため、事務所の顧客名簿を見て、事務的に年賀状を出していたに違いない。彼の妻もまた、彼を献身的に支えたいと思う心優しき女性であったのだ。


 年賀状の束の中に、彼の事務所名が入った年賀状を見つけたとき、私の胸は躍った。急いで裏を見ると、「昨年度は大変お世話になりました。本年もどうぞお引き立てのほどよろしくお願いいたします。」という仰仰しい文章があり、わたしはくすっと笑った。彼女に年賀状を送るなんてかわいいところがあるんだわ。ところが左下にある小さな文字を見たとき、私は膝から崩れ落ちた。

 彼の名前のすぐ横に、彼と同じ苗字の女性の名前が・・・。

 このかわいい名前の主が誰なのか、よっぽどの馬鹿でなければ誰でもわかるわな・・・。




「これ、どういうこと?」

 デートのおわり、横浜の海のそばの駐車場。

 平日のここは、人も車もほとんど通らない。修羅場を演じるにはちょうどいい場所だ。

 彼はキスを期待していたのだろうか。車を止めるとすぐ私の手を握ってきた。


 その手を振りほどいて、

「渡したいものがあるの。」

 と、バックから年賀状を差し出し、満面の笑みでにっこり笑ってみた。

 彼は年賀状のことを知らなったのだろう。受け取った年賀状を読みながら、彼の顔は、みるみる青くなっていった。


「奥様のお名前、とても和風で素敵なお名前ね。」

 私はさらににっこりと笑い、彼は青い顔で私を見つめた。


「否定しないのね。」

 

 自分の中でぷつんと何かがきれた。車をおりて駐車料金を精算し、そのまま助手席に近づいて外から勢いよくドアを開けた。


「おりろ。」

 彼を見下ろした私の口から、自分でもびっくりするくらい低い声が出た。


 彼は私を見上げて、急にへらへらし始めた。

「せめて、駅の近くでおろしてよ~。」

 青い顔で懇願をする。


 なんのために、駅から離れたところに停めたと?

 駅まで送ったら、ここに停めた意味がないじゃない。


「おりろ。」

 静かにもう一度言う。


 彼は観念して車から降りた。

 言い訳をしようとしたのか、小さな声で何かごにょごにょ言っていた。


 助手席のドアをさっさと閉めて、運転席に戻り、車を急発進させた。バックミラーの彼はぐんぐん小さくなる。

 大通りに出るまで一方通行の道を迂回しなければならない。誰もいない道、声をあげて泣いた。


 好きだった。2年間ずっと大好きだった。

 せめて年賀状が来るのがあと一年早かったら。。。深い関係になる前だったら。。。この時ばかりは運命を呪った。


 迂回が終わり、大通りへ出る道の手前、とぼとぼと歩く影が見えた。

 「もうここの通りまで出てきたんだ。」

 二度と見たくなかった奴の姿を見かけ、思わず舌打ちをした。


 追い抜く瞬間、長く一音、クラクションを鳴らした。奴はびくっとしていた、ざまあみろだ。


 メールも電話も来たが、彼の言い訳は一切聞かなかった。



 彼を再び見たのは、それから3年後の夏。

 信号で止まっていた私の車の前を、スーツ姿の彼が横切った。見慣れた車だろうに、彼はこちらには全く気付かなかった。

 ちびでデブでハゲだった彼は、ちびでほっそりしたハゲになっていた。横断歩道を、汗を拭き拭き歩く彼は、なんだかとてもみすぼらしかった。髪が汗でぺったりと頭皮に張り付いてハゲ度が増していたからだろう。


「あの人のこと、なんで好きだったんだろう?」

 完全に恋が終わった瞬間だった。


 同じ街に住んではいるけれど意外と会うことはなかったなと思うと同時に、こうやって偶然会うかもしれない街に妻と越してきた彼は私のことを相当なめていたんだろうなとぼんやり考えながら、ハゲ頭を見送った。





 追記しておくが、一度会うと縁はつながるらしく、駅のホームでばったり会ったり、駅ビルのエレベーターに乗り合わせてしまったり、何度もお会いするようになってしまった。食事に誘われたが行くわけがない。

 こいつも頭が湧いている。

 

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