3 新郎の友達 その後
ひと月後のデートは結構楽しかった。13時から17時までの4時間のデート。
デートまでに、Aはこまめにメールをしてくるし、電話もかけてきた。
親が家にいるので、電話はよく無視した。こんなに塩対応なのに、よく我慢してくれたものだ。
会える時間は短い上に暑い時期だったのでドライブを楽しもうという話になり、向こうは車を持っていないということで、私が車を出すことにした。
私が指定された駅まで迎えに行くと、Aは目を見張っていた。
「随分と大きな車に乗っているんだね。もっとかわいい車に乗っているのかと思ったよ。」
「後ろにチャイルドシートを二つつけないといけないし、さらにベビーカーも二つ後ろにつめないといけないから、そこそこでかい車じゃないとねー。」
「こんなでかい車でもバックできるの?」
「え?余裕、余裕。車の運転好きなんだよねー。」
なんて話しながら都内をぐるぐるする。
電話で何度か話していたのですごく話が弾む。
が、一点だけ気になったのは、Aはとてもまっとうに生きてきたボンボンだろうなということ。
前の旦那もまっとうな家で生きてきたボンボンだったけど、苦労の多くひねくれて生きてきた私とでは価値観がかなり合わなかった。そこが引っかかりながらも、おしゃべりはとても楽しかった。
私と新婦とのつながりや、新郎とAの関係など、話はころころ変わりつつ、会話が途切れることもなく4時間があっという間に過ぎた。
駅にAをおろすとき
「またデートしたい。」
と言われた。
快諾して次のデートの約束をして別れた。
新妻になった友達と会ったのは、2回目のデートを翌週に控えたときだった。
「ねえ、ひょっとしてAと会ってる?」
「ああ、結婚式の翌月に一度デートして、来週またデートするよ。」
そう答えると、友人は険しい顔になった。
「Aさ、2年前から付き合ってる彼女いるよ。しかもあいつ、今彼女と同棲してる。」
おおっと、そうきたか。どうりで待ち合わせが駅なわけだ。
「ドライブしたけど、○〇駅前で待ち合わせして、同じところで別れたわ。」
というと、友人は怖い顔で、同棲している隣の駅だと教えてくれた。
その後ずっと怒っていた友達は、自分の旦那に縁を切らせると宣言して帰っていった。
後日、Aから電話がかかってきた。
友人旦那から電話がかかってきて、ことの顛末を聞いたらしい。
「言い訳になるけど、聞いてほしい。確かに2年前から付き合っている彼女がいて、半年前から同棲もしている。でも、加奈ちゃんと付き合えるなら別れようと思っていたんだ。本当だよ僕1は加奈ちゃんの子供のパパになってもいいと思ってるんだ!」
慌てふためきながら、必死に話してくる。
ほんとかウソかなんてどうでもいい。付き合っている人がいながら、ほかの女にちょっかいをかけるクソだということさえわかれば十分だ。
「付き合えるなら別れるじゃなくて、別れてから次に行くが正解だろうが。それから父親になってもいいってなんだ?別になってくれなんて思ってないわ、ボケがっ!!」
それだけ言って電話を切り、電話番号を着信拒否。ついでにメールも着信拒否。離婚後、初めてデートした男とはこれで終わった。
そのあと友達の旦那からは、
「あいつは本気で彼女と別れる気だったみたい。加奈ちゃんと連絡がつかなくなってとても落ち込んでいる。もう一度会ってやってもらえないだろか。」
と言われたが、断固拒否。
結局Aはその彼女とは別れずしれっと同棲を続け、最後は全然違う女性と結婚したらしい。
友達の旦那は、今でもAと交流があり、会うたびに妻から白い目で見られている。まあ、男の友情って私らには理解できないし、恋愛のごたごたとは別物として多めに見たらいいんじゃないかというが、友達はAの事をいまだに嫌っている。そしてわたしはそんな友達のことを、心から信頼している。
次を作ってから別れようなんて狡いことを考える男がいい男のわけがない。彼女さんには悪いことをしたが、彼女さんもうすうすAの本性がわかっていたんじゃないかとも思う。
シングルになると変な男が寄ってくるもんだと、よい教訓になったAのお話は、これにておしまい。