21の初恋を振り返って
それでも好きだった。自分から別れを切り出したとはいえ、嘘の気持ちを、気の迷いで差し出したつもりは一度もなかった。俺が最初から線を引いていればこんなことにはならなかったかもね、なんて。まるであなたが私を惑わせた、みたいな。それ自体が間違いだった、みたいな。付き合ってみて合わないってわかっただけなのに、始めたことさえ否定されたような気持ち。好きっていう気持ちと、合わないっていう事実は全く別のことじゃないの。好きだけでは一緒にいられないって当たり前のことじゃないの。別れようって言ったからって好きじゃないとか思わないで。好きだったよ。まだ、好きだよ。できることなら一緒にいたかった、一緒にいたい。でも、辛かった。日常の忙しさに削られた、元々大きくもないキャパシティでは、あなたとのズレを埋め続けるだけのリソースを割き続けることはできなくて、代わりに私の精神をどんどん削っていった。その辛さを引き受ける覚悟がないなら好きじゃないって言われるのなら仕方のないことなのかもしれないけれど、大人になりきれない私の心は、でも好きだったもん、と叫んでいる。もうちょっと、私の言葉を真剣に受け止めて欲しかった。もうちょっと、歩み寄って欲しかった。小さな不満めいたワガママが心の底で泡のように湧き出ては弾けて消える。
それでも時は進んでいて、あなたも少しずつ前に進んでいて。自分で終わらせたくせに取り残されている私は、あなたと「友達」として向き合って、一緒に過ごした日々を振り返りながら、ふとした瞬間に喉をついて出そうになる「好き」を必死に飲み下して。別れを告げた側の義務として、あなたがこぼす未練に縋りたくなる気持ちを律しながら。さも、気持ちがないかのように。あなたを迷わせないように。幸せになってほしいの。ほんとは私がしたかったけど。私が差し出すせめてもの誠実さに、あなたは気づいてくれていますか、なんて。まだ甘えた気持ちをまだ抱えながら。
本当はずっと傷ついていた。あなたが自分のことを断れない人間と形容するたびに、告白した私はあなたに無理やり付き合わせているのかもしれないと罪悪感を感じていた。あなたにそんなつもりはなかっただろうし、文脈も全く関係ないものではあったけれど、私への関心が見えないあなたと向き合う中では、大きく私の心を抉るものであった。あなたが自分から私を誘うことなんてないのに、幼馴染ちゃんは自分で誘って遊びにいくんだ、ふーん。あいつは男友達みたいなもんだから?もうその子と付き合えば?誘って欲しそうな空気は出すくせに、いざ誘ってみても、そっちがそうしたいなら、みたいな反応しか返ってこないし。やっぱり私の独りよがりだったのかなって。好きだったってあなたは言うけれど、その言葉もほとんどくれないのに、私は何を以てあなたの「好き」を信じれば良かったの。私と付き合ってて楽しいの、という問いに対する、好きじゃなかったら付き合ってる訳ない、だけに縋って生きていけって言うの。付き合ってすぐの遠距離恋愛で、大した根拠もなしにあなたの好意を信じられるほど、私の自己肯定感は高くないの。もしかするとこれも自己正当化に過ぎないのかしら、と悩んで、正解を見失い続けている。私はどうすれば良かったの。誰か、教えて。誰か、助けて。
2度、私はあなたに泣きながら限界を訴えたことがあったと思う。たまにはあなたから誘って、好意が見えなくて苦しい、と。それに対するあなたの返事は、俺は人誘うのとか無理だから、だった。あなたにとって、私の辛さは、自分の性格の前で考慮するに値しないものだと断じられたような気がした。もしかすると本当にそうだったのかもね、と思ったりもする。あなたは否定するだろうけれど。
あなたは本当に私のことを好きでいてくれたのかしら。そうだったらいいな。私は確かに楽しかったから、楽しかった時間が嘘じゃなかったのだとしたら嬉しいな。でも、そうじゃない方が救いがあるような気もする。一人相撲だったのは悲しいし恥ずかしいけれど、お互いに好きだったのに、こんな理由で終わりになったなら悲しすぎるから。