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4話「再会してからの日々」

 不運にも感じられたあの日、ベリッツォに再会した私は、向こうからの頼みもありこれからも彼と時々会うということになった。


 過去親しかった人にこんな形で再会することになるなんて。

 しかも昔と同じように仲良くできるなんて。


 幸せ以外の何物でもない。


 心ない言葉をかけられ、婚約破棄され、それらは災難であったけれど。でもそのおかげでベリッツォにまた会えたのだから、そういう意味では、この身に降りかかった傷つくような出来事も無駄ではなかったのだろう。少なくとも今はそう思える。辛い記憶さえ、今は前向きに捉えることができている。


 ただ、それは、ベリッツォが私の前に現れてくれたから。


 あの時彼が話に入ってきてくれなかったらこのような展開にはならなかっただろう。


 ……きっとあのまま悪役を押し付けられていた。


 もしあそこで助けの手が差し出されなかったとしたら、私は今も『実妹を虐めていた心の汚い女』という役の席に強制的に座らされていたに違いない。


 そのような場合を想像するとぞっとする……。


 だがそれは回避できた。

 取り敢えず最悪な展開からは逃れることができた。


 だから大丈夫。

 私は前を向いて歩き出せる。




「ダリア、最近どう?」


 婚約破棄された私は城にはいられないこととなってしまった。

 しかしいきなり実家へ戻ることもできなかった。妹のこともあるからなおさら。私から婚約者を奪い取った妹に遭遇する可能性がある場所へ戻るというのはどうしても気が進まないもので。


 けれど、なら私はどこへ行けば良いのか?


 そんな風に思い困っていた時、知り合いの人が声をかけてくれて、その人が紹介してくれた屋敷に今は住んでいる。


 屋敷と言ってもそこまで大規模なものではない。実家よりかは広くて大きいけれど。お屋敷、と聞いて大抵の人が想像するような、巨大な建物ではない。が、生活するためのスペースは十分にあるので、住んでみて困っていることは特にはない。今のところここでの暮らしは順調そのものだ。


「健康体よ」

「なら良かった」


 そしてベリッツォはたびたびそこへ来てくれている。


 とても美しい海のような色をした瞳を目にするたび、心の奥に温かなものが宿るのを感じる。


「それで、今日は何をする予定?」

「お茶でも。どうだろ」

「いいわね! ……あ、けれど、良いお菓子は持っていないの」


 少し申し訳なさを感じていると、彼は急におつきの人に何か指示を出し、それから改めて視線をこちらへ向けて「実は、持ってきたんだ」と笑みを浮かべた。

 想定外のことに「持ってきたの!?」と思わず大きな声を出してしまって、室内に何とも言えない空気が広がる。室内には使用人もいるため気まずさを感じどうしようもなくなってしまっていたら、彼は「驚かせてごめん!」と明るく言葉を発してくれて。そのノリが爽やかかつ軽やかなものであったために、室内の空気も一気に柔らかさを取り戻した。


 ああ、もう、本当に彼には助けられてばかり……。


「はいこれ」

「……素敵な色!」


 彼が出してきた箱に詰められていたのは様々な色の宝石をちりばめたかのようなお菓子であった。

 表面は砂糖が乾いたような雰囲気でやや白っぽくなっているが、それを通してであってもそこそこ鮮やかな色が見える。なので、たとえば一つのお菓子をつまんで齧ったとしたら、きっと中にはもっと華やかな色があるに違いない。


「簡単に言えばゼリーみたいな感じのお菓子なんだ」

「美味しそうね!」

「良かった、喜んでもらえたみたいで嬉しい」

「とても素敵! 気に入ったわ、ありがとう。そっちの国のお菓子なの?」

「んー、まぁ、そんな感じ?」

「そう……! あまり見たことがないけれど、とても綺麗だし、眺めて楽しい食べて楽しいって感じね!」


 宝石の欠片を集めたようなお菓子をお茶と共にいただく時間。

 それはとても幸福なものであった。


 お菓子はほどよい甘みと酸味で予想していた以上に食べやすく美味しかった。

 同時に口にする紅茶は最近私がよく飲んでいるランク的には大したことはないけれど個人的にはとても好きなものを選んだけれど、お菓子によく合う味わいだった。

 高級品ではないけれどベリッツォも美味しいと喜んでくれていたし、素敵なお茶会を演出することができて満足だ。

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