19話「復讐の果て」
人々の怨みは積もり過ぎていた。
暴走し始めた復讐心は止まるところを知らず、その対象であるローズを徹底的に痛めつける。
止める者は誰もいない。皆熱狂していた。
だが人の怨みや復讐心というのはそういうものなのかもしれない。その熱は一度高まるとすぐには落ち着かない。耐えて、耐えて、その果ての今だから。復讐心の対象となった者の命の火が消えるまで、きっと、その盛り上がりというのは落ち着かないのだろう。
「「「もっとやーれい! もっとやれい! ヘイ! もーっとやーれい! もっとやれい! ヘイ! もっとやったれやっとれやったれ! はーぁい! へーぇい! やったれやったれやったれよ! ヘイ!」」」
ローズへの罰を重すぎるのではないかと主張する人間は一人もいなかった。
「やったれやったれー!」
「ムカついてんのよ! うちの姉、滅茶苦茶なこと言われてクビにされたし! そいつもクビにしてやればいい!」
「ついにこの時がきたぞーい!」
「ひゃっふぅひゃっほぉひゃはらっほぅ~、ひゃっはらひゃっほいほらほれしょっへ~、ひゃっふぅふぁっほぉふぁらららひゃっほ~」
――そして、一ヶ月ほど続いた拷問刑の果てに、ローズは処刑されたのだった。
好き放題し続けてきた悪女はこの世を去った。
その悪事が人々の記憶から消えることはない。
ただそれでも彼女という存在がいなくなることによる国への良い影響は確かにあるだろう。
少なくとも無駄遣いは減る。
王家の経済的な状態が健全化されることは間違いない。
「ローズが……処刑、された……?」
誰もが歓喜していた中でただ一人そのことにショックを受けていたのは、迫眼の一室に閉じ込められていたエーリオだ。
彼は鎖で拘束されてはいない。食事もきちんと与えられているし危害を加えられているわけでもない。ただ、その部屋から出ることは許されておらず、一日のほとんどの時間を狭く寂しいその場所で過ごしている。
「なぜ!!」
そんなエーリオはローズの死を耳にして取り乱す。
「彼女は国にとって最悪な女性でした」
「間違いだ! 何かの! ローズは悪人なんかじゃない!」
「最低ですよ、あの方は」
「嘘だ! そんなわけがないそんなわけがないそんなわけがない……ふざけるな! ふざけるなよ! おかしな話が出ているなら、それは、誰かが彼女を貶めようとしていただけだ!」
愛する人を失ったエーリオは正気を失った。
「処刑したやつ出てこい! 俺が殺してやる! 今ここで! この手で! 処刑してやるから出てこい! 早く! 逃がさないからな! 絶対に絶対に絶対に絶対に絶対に逃がさない! 一生を使いきってでも仕留めてやる! 絶対に絶対に絶対に俺が仕留める! 俺がその生命を終わらせる!」
彼は猛獣のように暴れ出す。
「ローズを処刑したやつらは全員俺が処刑する! するんだ! 今すぐしてやる! 逃げても無駄だ一生かけて追い詰めて捕まえてこの世で最も残酷な方法で苦しめ泣かせながら処刑してやるんだ! 俺は許さない! ローズを傷つけた人間を! 絶対に! 許すわけがない許すわけがない許すわけがない……許すわけがない許すわけがない許すわけがない許すわけがない……許すわけがないだろう!! そんなやつらを!!」
しかしすぐに鎮静効果のある薬を打たれて。
「おの、れ……彼女になんてことを………! 許すものか……絶対に、ゆるさ、ない……! そのような悪人、ども、は……この命を捧げ、て、でも……! たとえ、刺し違えて、でも……! ぜ、ったい、に……絶対、に……俺がこの手で……手で、必ず……かた、きを……」
やがて彼は眠ってしまった。