18話「誰の心にも届かない」
ローズは捕まった。
彼女に対して怨みを持つ者たちの手で。
「ちょっと、どういうつもりよこれ。このローズを拘束なんてして、どうなるか分かってるの? 天罰が下るわよ」
牢屋へ入れられたローズは自分が置かれている状況を理解しきれていないのかまだ偉そうな態度を取っている。
もはや彼女には地位も何もないというのに。
「貴女にはこれから償っていただきますので」
「はぁ? 償う? ばっかじゃないの。このローズが一体何をしたっていうのよ? 何の罪を償わせるって言うのよ!」
「これまで皆散々迷惑をかけられてきましたからね、貴女を怨む者はたくさんいます」
「怨む者、ですって? 馬鹿ね! そんな輩は他人の成功を羨んでいる可哀想な輩でしかないわ! そんな馬鹿を相手にすると思っているの?」
もはやローズはすべてを失ったも同然。
少し前までとは状況が大きく異なっている。
ただ、本人はまだそのことに気づいていないようで、まだ好き放題言える立場にあると思っている様子だ。
捕まり、牢に送られ、もはや誰にも敬ってもらえる立場ではないというのに。こうなってしまえばもう順調に進む道はなく、未来だって不確か、何なら今は周囲に媚を売らなくてはならない側だというのに。それなのに彼女はまだ自分が媚を売られる側であると勘違いしたまま。
「いずれにせよ、貴女はもう好き放題はできないのですよ」
「何ですって? 自由に生きるわよ! エーリオ様の妻だもの!」
「……残念ですが、殿下もろとも地獄へ堕ちるでしょう」
「そんなことできるわけないわ、アンタたちみたいな下の人間たちに。アンタたちなんてゴミクズみたいなものよ。地位ある者こそがすべてを決める、それが現実よ。地位ある者には誰も逆らえないの」
鎖に繋がれていてもなお彼女は威張っている。
「確かに一人では無理でしょう」
「しつこいわね、まだ何か言うつもり?」
「ですが大勢でなら状況を変えることはできるというものです」
「勝手なことはさせないわよ……!」
「国のためであれば殿下と貴女をどうにかすることなど容易いのですよ」
撃ち落された鳥のようなものだ。
今や彼女を護るものは何もない。
なんだかんだで一応王子であるエーリオに護られていたためにこれまでは周囲に迷惑をかけながらも好き放題できていたローズだが、こうしてエーリオと離されてしまえば庇ってもらえないため自分勝手なことはもう一切できない。
ローズはその後拷問刑に処された。
ある時は地下室で。
ある時は人々の目の届く屋外で。
彼女はこれまでの悪行の償いとして心身を痛めつける行為を受けることとなったのだ。
「な……何よこれ……や、やめなさいよ! いい加減にして! こんなことしてただで済むと思ってるの!? やめて! 今すぐ! やめてちょうだい!!」
そんな風に訴えるローズだったが、そのような訴えは無意味なものだった。
彼女を擁護する人間はいない。
むしろ誰もが彼女が傷つけられてゆく様を楽しんで見ている。
ただ、それはある意味当然の展開でもあった。
皆がローズへの刑を喜んでいるのは、人々が悪の心を持っているからということではない。ローズに迷惑をかけられた人間がそれだけいるということだ。彼女に当たり散らされた者や暴言を吐かれ傷つけられた者は多くいて、だからこそ、誰もがローズが苦しむ様を目にして爽快さを感じているのだ。
「ちょっと! いい加減にしなさい! アンタたち、見てないで助けなさいよ! 偉大なる未来の王妃よ!? なぜ助けないの! 助けようとだけでもしなさいよ!! 無視なんて、ふざけるにもほどがあるわ!!」
ローズの叫びは誰の心にも届かない。