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遅咲きの梅が散る頃、七種はお母さんの前に正座してい頭を下げた。
「荷物、纏めて今日発送しました。行ってまいります」
頭を深く下げて礼をすると、母は肩に手を寄せて言った。
「頭を上げなさい、これ、持って御行」
涙目のお母さんは、槐のケースを差し出す。七種は顔を上げて手に取り、蓋を開けた。小顔用の眼鏡が入っていた。七種は眼に涙を浮かべながら蓋を閉める。庭からトラックが発車するタイヤの音が聴こえた。とん、肉球が床を踏む音が背後で聞こえる。
「お母さん、大切にします」
七種はトートバックに、奥深く仕舞い込んだ。
「さてと、最後の晩餐になるけど、何にしようかな」
お母さんが、言った。
「夜行バスだから、玉子焼きと薇炒め!」
そうねーと言いながら、お母さんがキッチンに立った。手伝おうと涙を拭う七種を見て、歯に噛み笑う母は水道を捻り、七種に手を洗わせる。ささっと料理して食卓に並べた。七種のお茶碗がお客様用で寂しさが都濃っているとそこに父が帰って来た。父は七種を抱きしめて、言った。
「辛ければ、連絡よこせ。3年もしくは頑張って5年修行してこい」
「はい」
「御飯ですよ」
テレビは、地元ニュースが天気予報を伝えていた。関東はと観ながら、ご飯を食べる。
「お父さん、今日はどうだったの?」
母が心配そうに聞く、父は卵焼きを醤油に着けて食べながら言う。
「先ず先ず、七、寮だろうお前、甘えないでなんかさせてもらいな」
「できる範囲でやる」
薇炒めはゴマ油が香ばしく、母も涙濡れだろうか。油が多かった。
「良い修行になるな」
「寂しいねえ・・・」
母が箸を置いた。あんこの次の代のアミが母の膝の上に乗った。3人揃ってご馳走様でしたと手を合わせ、食器をキッチンに運ぶ、七種は腕時計を見ながら言った。
「やばい時間」
「洗い物、後にして送るか」
父が立ち上がり、母はエプロンを外して出掛ける支度をする。身支度を整えて鞄を持ち、外に出ると七種は家に向かって一礼した。
「行ってきます」
父が、助手席のドアを開けた。