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恐ろしかった。審判の沈黙が長く、不安に駆られては想いを伝えた。扉が開き、お祖父ちゃんが立っていた。
「来なさい」
滑り台を、お祖父ちゃんと降りる。カーブが在って先にお祖父ちゃんが叫んだ。
「飛べ!」
お祖父ちゃんが、ひらりと飛んだ。あたしは精一杯の力を振り絞って飛んだ。崖の先の縁に、手をかける。下を見ると暗闇が続き、唸る音が聞こえた。お祖父ちゃんがあたしの手を握って上に引っ張り上げてくれた。
「危なかった、落ちたら助けるけど、自力で頑張ったな。これから辛いぞ、修練に励め」
崖の上から草道を歩くと、急に開けた眩い光に視界が真っ白になる。滝が流れた緑の濃い麓に来ると、あたしのお祖父ちゃんが言った。
「これから挨拶と顔合わせがある。来なさい」
ゆらりと背景が変わり、木造の1軒屋の前に出る。お祖父ちゃんが尻尾で合図しながら、あたしに言った。
「あんぐりこ、ここが我が家だ、すぐ支度するから着替えなさい」
と言って、木作の門扉を開けた。
「祖母さん、只今戻ったよ、あんぐりこに支度を」
家の中から「あなた、お帰りなさい」と声が聞こえ、玄関をカラリと開けた。淡い紫の洋服を着たお祖母ちゃんが駆け寄ってきて、抱きしめてくれた。
「あんぐりこ、お帰りなさい、よく頑張ったね」
「お世話になります」
「他人行儀な事言わないの。自分の家だからゆっくり着替えてね」
と、白い厚めの修行服を渡してくれた。お祖母ちゃんの手伝いのかいがあって、なんとか着こなそうと腕で服を叩くと、鏡の前に映し出された自分を見る。そこには生前のあたしがそのまま観えた。お祖父ちゃんの前の茶托に近づくと、お祖母ちゃんがスープを持ってきてくれた。それを飲むと不思議と疲れが取れ、やる気に満ちた心持になった。お祖父ちゃんが言った。
「落ち着いたかい?それでは支度も済んだし、連絡もしてあるから、行こう。但しこれだけは言っておく。くれぐれも楚々の無いようにな」
「はい、お願いします」
あたしは、頭を下げてお祖父ちゃんに感謝の意を表すと、早速扉を開けた。
「迷わない様に言っておくが、ここの住所は3番街1丁目1番地。慣れてくれば、ひょいっと迷わなくても帰ってこれるようになるからな」
「はい」
あたしは、数字を頭に叩き込んで、門扉を開けたお祖父ちゃんの後に続く。
「ここから先は迷うから、これを持ちなさい。絶対離すんじゃないよ」
一本の、赤い紐の端を渡された。あたしは、強く握ってお祖父ちゃんの後に続く。ふわりと舞い上がり、暗闇の中赤い光を目指してお祖父ちゃんはゆっくり、又、素早く進んでいく。あたしは紐を離さない様に振り回されながら、後に続いていく。途中真っ暗になり不安と恐怖に駆られながら、先を目指した。そして赤い屋根のある大きい扉の前に出た。見た目は静観な建物だった。