序章
キラキラと輝く微笑みの貴女。あたしが大好きな人。
「お疲れさまでした」
天使の様なその笑顔で仕事の仲間に挨拶をして、暗くなった空を見上げた貴女。
愛してます。
今日の仕事は終わり。後は帰るだけ。重い足取りで歩く貴女の背中を見詰めながら、あたしもついていく。通りを渡って右へ行くとお家の方向。あれ、左ですか。今日は珍しく寄り道ですね。煌びやかなネオンが光る本屋さんの自動ドアを、躊躇いもせず、潜って行く貴女。眩しい照明に照らされた本達の前に立つと、眉間に皺を寄せて新作のチェックですか。あ、一つ取った。あたしも背中から覗き込む。大好きな作家さんの新作ですね。顔がニコニコしてますよ。足早にレジに向かって、早速お買い上げ。鞄に本を嬉しそうに突っ込んで、自動ドアを潜って行く貴女の脚取りが軽くなりました。あたしも楽しい気持ちになってきました。
交差点の信号が、点滅してる。急いで渡れば間に合うのに、こういう時は必ず次を待つ貴女。そんな貴女が大好きです。信号待ちの人が増えてきましたね。あ、信号が青になりました。急ぎ足の貴女、先陣切って歩き出す。待って、嫌な予感。
「危ない!」
大きな声で叫んでしまった、気付く訳もないのに。なのに、貴女が立ち止まって、振り返ったの。もしかして聞こえちゃった?目が合ったように思えて涙が溢れました。貴方は周りを見回して首を傾げ、何事も無かった様に歩き出したの。3歩、4歩。するとブレーキの音が近づいてきて、貴女は咄嗟に立ち止まる。貴女の前を、黒塗りの車が擦れ擦れで通り過ぎて行きました。轢かれる所だった、すごい奇跡。助かった!
貴女はふうと一息ついて歩き出す。交差点を渡り切って振り返ると、何事も無かった様に家路を歩いてく貴女。ちょっと戸惑い気味のあたし。あたしも、ふうと一息ついてみたわ。貴女がまた、空を見上げた。つられてあたしも空を見上げる。一番星が輝いています。おっと見失っちゃう。
街頭の明かりに照らされながら、鞄の中ををちらりと覗き込んで微笑む貴女、そんな貴女の背中を見詰めながら、ついていきます。お家はもう直ぐ其処星空の元、貴女と一匹で。