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11話 託されし使命 ②

 しばらく自然豊かな森に身をあずける時間が続いた。

 なにも話さずとも穏やか木々達はそれを許してくれる。そうして平坦な道を歩き、緩やかな傾斜道をいくつか超えると小川が流れる地帯に足を踏み入れていた。

 そこでは子どもたちが元気に網で虫取りや釣り竿をたらして釣りをしていた。


「子ども達は元気だよな」

「子供の頃、創磨もあんな感じだった?」

「地元にもこういうことができるような場所はあったかな。あんなに元気ってほどでもないけどな」

「あたしは蝶とかはよく追いかけてたっけ、鳥を見るのも好きだったなぁ。カワセミ、ウグイス、エナガ、メジロとかいてね良く見てたよ。今もかな」

「鳥っていいよなぁ、体は小さいけど、どこまで自由に飛んで力強く生きている。人にはできない生き方してる所がさ」

「生き方か~そんな風に考えたことなかったよ」

「絵麻は鳥のどんなが好きなんだ」

「可愛いい所、かっこいい所、優雅な所、羽ばたいてる所、不思議な所、歩いてる所、なんか決めきれないね」

 だんだんと落ちついてきたのか、口数も増えている。野鳥達の声も、おだやかな風景も、癒されるものばかり。とりあえず公園に来たのは正解だったようだ。

 

「あたし鳥はほとんどなんでも好きだと思うけど、特に好きな鳥もいる。キセキレイっていうお腹が黄色いセキレイって鳥がいるんだけど、名前も、見た目も、長い尾がペンみたいにみえるのも好き。推せるんだよねぇ」

「キセキレイ、これのことか」

 スマホで検索、キセキレイの動画をみてみた。

 

 スズメなんかの野鳥と同じくらいには小柄。お腹周りは黄色で頭、羽。尾は黒い。お尻をフリフリとさせ可愛らしい声で鳴いている日本にいる野鳥だそうだ。


「それそれ、子供の頃この長い尾、めちゃペンに似てるなぁて思ってたんだ」

 絵麻の言葉を聞いて動画をみてみると、キセキレイはしきりに尾を動かしいる姿は常になにかを描いてるようにも見えてきた。

「面白いこと考えるもんだな」

「子供の時だからかな、あ、もうここまで来たんだ」

 湿地帯、池、畑等がみえる道を歩きながら話していたら、里山の家がみえてきた。

 

 里山の家は平和公園内の環境保護活動を伝える施設。駅側から来た人が林道に入る際に通る

解りやすい施設でもあり、引っ越し直後は目印として活用させてもらった。

 ここまで来たということは、折り返し地点だということになる。


「あっち側の道から戻るか」

「そうだね」

 林道へ戻るのではなく、自動車が通っている道路沿いを歩いて行く。

 道路といっても自然がないというわけではない。道路沿いにも大きな木々がたくさん植えられており木陰ができてる。畑もあり林道ほどではないが自然を感じることはできる。


「だいぶリラックスできたな」

「うん、創磨がいてくれたからかも」

 絵麻の表情が僅かではあるが緩んだ感じにみえる。ベインと闘うことになってからずっと気を休める時なんていうのはなかった。息を吸うことすらせずに、ただ目の前の状況に押し潰されていくだけ。

 まだその余波は残っているかもしれないが、ようやく息を吸うことはできた。後は呼吸を整える時のようにゆっくりと時間をかけていけばいい。そうしたら現状も変わっていくはずだ。

 

「俺さ、逢夢とはじめてこの世界で出逢った日、この公園を歩いてたんだ。真夜中の寒空の下っていう穏やかな自然に身をまかせる感じではなかったけどな」

「……どうして?」

 この公園に来ると、あの時のことを思い出す日がある。

 逢夢との出逢いばかりではない、その前には苦い経験を話していく。


「その日は小説大賞の結果発表があって、俺は落選した。拾いあげの連絡がある前、逢夢と出逢う前まで落選したのをどう受け止めればいいのか解らなかった。現実を直視なんてしたくない、俺は暗闇の中に身をとうじてなにも考えたくなくなっていた」

 結果的に良い方向に流れたけど、苦い記憶であることにはかわりない。現実から逃げて逃げて、心の迷路の中をずっと歩いてた。


「自分が一番大切にしてきたものを認めてもらえなかった。大切なものが消えていくような感じがしてすごく嫌だった」

 今の絵麻はあの時の俺と似ているのだろう。自分が創り出した創造はかけがえのないもので、それが失くなるっていうのは大事な人を失ったのと同じ。

 違いがあるとすれば、それが人であるか創造であるかということ。大切にしたい気持ちはなにも変わらない。

 

「正直さ、俺もブレイドのことをまだ受け止められないでいるよ。どうすれば本当は良かったんだってな」

「……あたしもまだ解らない。ブレイドがいなくなったっていうのまだ実感できてなくらいだし。また何事もなかったように現れてくれないかなって……」

 俺達はまだ現実を受け止めきれずに暗闇の中にいる。

 

 暗闇は怖くて、悲しくて、苦しくて、辛くて、それでもその中から光をみつけなければ立ち上がることはできない。

 ゆっくりでいい。今にでも泣き出しそうな絵麻の手を引いて、前へ前へと歩いていくと春には桜の花が満開になる桜の園の中にいた。

 

 今は夏を迎える前で青々とした緑の葉がたくさんついており、これが桜だとは誰も思わないだろう。俺が逢夢と出逢った時も花びらが一つもついていなかった。


「俺はここで逢夢と出逢った。破壊力がもたらす都合の良い未来じゃない。自分の創造を信じたから出逢うことができた」

 あの時俺は信じることで、逢夢と出逢うことができた。

 この場所はそんな俺にとって忘れらない場所。


「ブレイドがこの世界にいないっていうのは間違いない。けど絵麻の中にはまだ残っているはずだ。苦しいことを承知で言う、創造を信じることを諦めないで欲しい」

「…………ごめん。まだそんな気持ちになれそうにないよ」

「それでもいい。今はまだ前に進む必要はないと思う。けどいつかはそうして欲しいと思っている、それだけは伝えておきたかったんだ」

 信じることを諦めさえしなければ、再び絵麻も前を向いて歩いていけるはず。

 そのためには誰かが側にいないといけない。逢夢が俺にしてくれたように、絵麻を守りたい。ブレイドの願いを果たすためにも。


「少しだけ寄り道したいとこがある」

 絵麻の家とは別方向へと歩いていくと、虹の塔がある場所へとたどり着く。

 

「この虹の塔、隠れスポット的な立ち位置で、メインではこないけど、たまに寄りたくなるんだよな」

 虹の塔は二十メートル程度の高さがあるが直径は5、6人入れるか程度の幅しかない。

 そんな小さな塔の中に入り、俺たちは頭上をみあげた。

 塔の中は太陽光に照らされたステンドガラスによって、虹色の層ができている。



「虹を見ていると、気持ちが清々しくなるよな」

 雨あがりの空ではなくても、明るい笑顔になれる虹をみることができる場所。輝く虹色はこころにたくさんの色を与えてくれる。


「どんな色もあるのが好き」

「綺麗なのもいいよな~」

 美しい虹色みていると、その色に吸い込まれそうになる。悲しいことも虹色の中に溶けていくような感じさえする。

 

「雨あがりの虹、俺達もそうなれるといいな」

 悲しい雨に降られても、いつかは美しい虹色が心を照らす。そうあって欲しい、そうありたい。少しでもその気持ちが絵麻に伝わればいい。

 

「なれたらいいね」

 まだ悲しみの色は消えない。でもいつかは虹色みたいに、そう思ってくれさえすればいい。

 

「ありがとう。だいぶ楽になったよ」

「そうか」

 絵麻の表情が再び穏やかになった感じがする。まだまだブレイドのことを受け止めきれていないことはあるのだろうけど、それは少しずつでいい。


「帰るか」

「うん」

 なにかが急激に変わったわけではないけれど、変わるための心の準備は少しできた。。

 そんな前向きな想いをいだきながら、守りたい人の手を離すことなく絵麻の家へと戻った。


「お二人でおでかけしていたんですね。絵麻、お体のほうは大丈夫ですか」

 絵麻の家に戻ると、逢夢とティアがいた。絵麻の様子を心配して来てくれたようだ。

 

「大丈夫だと思う」

「それは良かったです」

「しばらくは安静にしておれ。一番ダメージを受けたのは貴様なのだからな」

「うん」

 いつもの絵麻ならティアのことをおちょくりそうなものだけど、今はティアの言う事をただ素直に受け止めている。

 そのことについてティアは言及はしない。ブレイドがいなくなった、その出来事が絵麻を変えてしまったことが伝わったからだろう。

 

「ずっとそうしておるのか」

 ティアは俺達が手をつないでいるのがきになったらしく、質問されてしまう。

「だめかな?」

「別に構わぬが、いつまでもそうしておるわけにはいかぬであろう」

「それは解ってるんだけどね……」

 ティアとしては絵麻が俺によりかかりすぎていることをきにしているらしい。とはいえ絵麻が望んでいる間は手を離さないほうがいいきがする。


「ティアはブレイドがいなくなったことをどう受け止めてるのだろうか。まだ俺達はそれができていなくてな」

 手を繋いでいることには触れず、別の話題をティアにふってみる。


 ティアは悩むようなそぶりはみせない。ブレイドについては自分なりの考えを話していく。

「ブレイドのことは残念に思っておる、大切な仲間であった……だからこそ未来を託された我らはうつむいてばかりはいられない。前を向いていくべきだと思っておる」

「ティアは悲しくないの?」

 絵麻はもっと自分みたいに悲しんで欲しいと思っているらしい。ティアのことを攻めはしないが同意はまったくしていなかった。

 

「無意味な犠牲になったなどと思いたくないからだ。我らを守るために勇敢に闘ってくれた、そうでなければ我らは今こうしてはおれぬ。ベインにすべてを奪われていただろう」

「その、あの……」

 なにか絵麻は言いたそうにしているが、否定されるのが怖いのかうつむいてなにも言えなくなってしまう。

 

「感謝している気持ちは伝わるけど、英雄みたいな称え方はして欲しくないってことか?」

「…………うん」

 絵麻がなにを言いかけていたのかを考え、それを伝えると絵麻は小さくうなずいてくれた。


「ブレイドはまだ消えていないかもしれない。そこに希望はもてないのだろうか」

 さらにその先のことも聞いておく。ティアならば調査しているはず。

 

「調査はしてみた。しかし生存している痕跡はみつかっておらん。希望をもつなとまでは言わぬが現実はみておけ。我らは無力さを嘆いておるばかりではおれん。ブレイドの分まで気高く強くあらねば、この世界の創造は守れれぬ」

 ティアは理想論ではなく現実中でどう生きるかを伝え、絵麻の心を奮い起こさせよとしていた。その考えは間違いではないだろうけど、今の絵麻に響きはしないだろう。

 絵麻の握りしめる力が強くなっている。これは強くあろうとしているからじゃない、悲しみをこらえているからだ。

 

「創造力の痕跡を再構成、ブレイドの最後を記憶を保存したこの装置に触れるとみれるようにしておいた。どのタイミングでみるかは絵麻自身が判断すればよい」

 絵麻の様子をみて、ティアは態度を軟化させる。ここで強制的にブレイドの最後に関する記憶をみせることはせず、絵麻に記憶を保持した装置を渡すだけにしてくれた。


「我のことを非難しても構わぬ。絵麻からしたら腹だたしいことも言っておろう。それでも我は絵麻が元気になって欲しいと思っておる。ブレイドが託してくれた想い、それを我は守っていきたいのだ」

 ティアは立ち上がり、俺と絵麻がつないだ手のうえに手をかさねた、我らの想いは同じ、そう伝えてくれた。

 

「ごめんなさい……あたしのせいで」

「きにするでない。絵麻は絵麻なりのやり方で歩むがよい」

「うん」

 ティアの想いは絵麻に伝わり、強く握りしめていた手の力が緩んだ。

 

「なにかみんなでしませんか。遊ぶのもありかなって」

「それいいかもな。ゲームでもするか。絵麻、遊べそうなものあれば……」

「パーティーゲームとかなら」

「じゃあ、それで」

 リビングのテレビ、そこでゲームをプレイする。

 

「は~い、ティアだめ」

「くそ、さっきから邪魔ばかりしおって」

「妨害上手いです、創磨」

「ほんとだね」

 辛いことを忘れるように、楽しさで埋めていく。

 

「そろそろ夕食作りますね。食材は追加で買ってきてあるので」

 逢夢がキッチンで料理をつくっている間、アニメを見ながら再び絵麻と手をつないで過ごす。


「お料理できましたよ」

 逢夢が料理を作り終えると、夕食を食べていくことに。

 

 メニューは親子丼をメインに鳥のつくねなど名古屋コーチンをふんだんに使った鳥料理が多く並んでいる。


「いただいきます」

 みなで手をあわせ夕食を食べはじめた。


「絵麻、俺達は戻るつもりでいるけど一人で大丈夫そうか。心配なら側にいるけど」

 夕食を食べ終わり、絵麻のことはきがかりだったが帰宅することにした。

 

「大丈夫……だと思う。なんかあったら連絡はしたい」

「解った。いつでも連絡してくれ」

 どれだけ心配でもいつまでも手を繋いでいることもできない。

 それならばいっそ決意を新たにさせたほうがいい。まだまだ心配な一面はあったとしても絵麻が自立していくことを俺も望んだ。

 

「またな」

「うん」

 この場にブレイドはいない。それでも俺達は前を向いて歩きはじめようとしていた。

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