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10話 破壊王ベイン ⑦

(苦しい、痛いよ)

 マスターの想いが聞こえる。苦痛に叫ぶその声が。

 立て、立て、立て、マスターを守らないと。

 

(守って、誰か守ってよ……)

 なぜだ、それなのになんで、破壊力に押しつぶされたままでいる。

 マスターを守れる力が欲しい、それがたとえどんな方法であったとしても。


――蒼き輝きよ、わたくしの声が聞こえますか

 

 強い願いに呼応して見知らぬ声が頭の中で響く……知らないはずだ。

 けれど懐かしい感じすらする。この感覚はきっと……


(聞こえていますよ……創造神様なのですよね?)

 レイターにはじめて変身した時と感覚が似ている。

 知らないはずなのに、すでに頭ではそれがなんなのかを理解していた。


――そう、わたくしは創造神。あなた方を守り導く者。


 わたくしは本当の意味で神様のことを信じてはいなかった。

 不安な心が創り出した偶像、都合の良い存在、わたしゃ達に近しい創造物。

 しかしこの声の主は神たる力を有しているのだと、はっきりと伝わってくる。


(創造神様、どんなことをしてでもマスターを守りたい。だから……)


――すべてをささげ、滅びなければならない。それでもあなたは守りたいと願うのですね。


(はい、それでマスタ-を守れるなら)

 すべてをささげることでマスターを守れるのなら本望。

 

 わたしゃという存在は、守り導くためにある。

 それが創造、それが存在理由、それが創造されし者のすべて。

 

――蒼き輝きの願いに応え、なんじに創造神たる力を与えます。


 身体の内側が創造神の創造の輝きに満たされていく。これが創造の根源、これが創造神の力。わたくしはこの力を知っている、この力を覚えている。この力は紡がれし創造の力。


――闘う意思が運命を切り開く。あの方の想い、あの方の言葉、それはわたしの願いでもある。どうか守ってあげてください。

 

 創造神様によって、紡がれし創造の力を与えられたことで、創造は変質した。

 力がみなぎっている。だけど時間はそう長くはない。

 これは自らの命の灯火を使って創り出しもの。願いを叶えるために早急に動きださねば。


          *         *         * 


 創造神様との対話を経て、意識が現実へと戻される。

「3、2、1、さぁ楽しいショーのはじまりだぁあああ!」

「やめろぉおおおおお」

 ベインのカウントが終わり、創磨の絶叫が聞こえた。


 蒼輝刀剣を抜刀、赤黒い破壊の意思を振り払い、音すらも超えてマスターを苦しめているベインに斬りかかった。

 

「マスターは、わたしゃが守る!」

「いいねぇ、楽しくなってきたぁ!」

 マスターの手をつかんでいた右腕に蒼輝刀剣をぶつけることで、ベインはマスターを手放した。左手に黒い破壊の意思をあつめ即座に反撃するのはみえている。

 ベインの力は強大だ。だけど僕は逃げない。立ち向かえ、牙を突き立てろ。

 

「蒼の牙、蒼牙撃」

 ベインが左手で反撃するよりも前に、蒼輝刀剣はベインを食らった。

 超高速の二連撃は狼が獲物を捉える時と同じ、その牙が二つ刺さることでこさらに強い輝きとなる。蒼く輝く二つの斬撃は重なりあうことでベインの黒い破壊の意思を剥がして、直接その身を斬り裂いた。

 

 ベインはまとっていた赤黒い破壊の意思で衝撃を和らげていたものも、すべては防げていない。

 ボロボロの黒い服に斬撃の後が残り、後方に吹き飛ばされていた。

 

「マスター……ごめんね、こんな目にあわせてしまって」

 もう一人で立ち上がることすらできないマスターを抱きかかえた。ベインが与えた苦痛と恐怖心からか意識がもうろうとしている。呼びかけにも反応を示せないほど、弱りきっている。

 

 こうなってしまったのは、すべてわたしゃが弱いままだから。

 そして今もなお、誰かの力に頼らなければ強くはなれない。

 

 蒼輝刀剣を一振りすると、刀から蒼い狼の幻影があらわれた。

 蒼い狼は創磨、クリエイト、ティアのもとへ向かい、赤黒い破壊の意思を喰らった。

 

 赤黒い破壊力による圧力は消え、クリエイトとティアが創磨のもとへ集まり、わたしゃもそこへ向かって飛んだ。

 

「ありがとうございます、ブレイド」

「その力はなんなのだ、なにがあった」

「わたしゃも完全に理解してない、創造神様が願いを叶え、力を与えてくれた。借り物の力、なんだけどね。だから、あまりこの状態で闘い続けることはできない」

 与えられた力を使うために、自ら持っている創造の根源は消えていっている。

 わたしゃがわたしゃでいられる時間はそう長くはない。


「マスター、わたしゃの想いは残しておくよ」

 マスターの首にかけられていた、蒼い月と蒼い薔薇のペンダントに想いを封じ込める。

 別れの言葉を告げることはできないなら、せめてでもわたしゃの想いは残しておきたい。

 

 これは最後にできるわがまま。マスターと共に歩みたいという最後の願い。


「ブレイド、あなたはこれから一人で闘おうというのですか」

「うん」

「嫌です、あなた一人を闘わせるなんてことしたくはありません」

「今のクリエイトがいても足手まといになるだけ。解って欲しい」

「そんな、だからって」

 首をなんどもふってクリエイトはわたしゃを一人で闘わせまいと、必死に訴えかけてくる。

 少しでも助力できることがあればしたい、そう思ってくれていた。

 

「クリエイト、創磨、ティア、マスターのことを頼んだよ。マスターを幸せにしてあげて」

「それはあなたがすべきです」

「そうだ。ブレイドじゃなきゃ、ブレイドじゃ……」

 クリエイトと創磨はやさしい。けれどそのやさしではすべてを救うことはできない。


「ここで全員が消えれば、すべてが終わる。ブレイドの意思を尊重してやれ。非力な我らが、我らのせいなのだ。それを重く受け止めよ」

 ティアは非力さを認め、わたしゃの意思を尊重してくれる。

 厳しい決断もできる。こういう時は本当に頼りになるな~


「ブレイド、戻ってくるって信じてるから」

 わたしゃは創磨の言葉に返答することはできない。

 覚悟を決めるためにすべてを捧げなければ。たとえ後悔するようなことでさえも。


「わたしゃの使命は大切な仲間達と、マスターを守ること。マスターを悲しませないためにも、できうるかぎり遠くへ行って!」

 大切な仲間達に託したい願いをおしつけ、

「行ってくる」

 ベインの元へと飛びたった。


「ブレイドォオオオオオオオ」

 今まで聞いたことのないような創磨とクリエイトの必死な声。

 それが最後の別れの言葉だった。

 

 創磨達の声はもうわたしゃには届かない。逃げてくれていることを祈るだけ。

 

 狙いはベイン、あいつを止めない限りこの悪夢は終わらない。

 離れゆく仲間達を置き去りにベインの元へとたどりつき、楽しそうにやりとりをみていたベインを睨みつけた。

 

「お別れの時間をつくってくれるだなんて、ずいぶんと余裕だね」

「これも楽しみの一つだからなぁ。綺麗になったもんをぶち壊す、そっちの方が楽しめるだろ」

 ベインが待っていたのは楽しむことを優先したから、それだけにすぎない。

 こいつの驚異はなんら変わることなく、わたくし達に迫ろうとしている。

 

「そいつは創造神がくれた力だな」

「さてどうでしょう。わたしゃもよく解ってないんだ~」

「ずいぶんと都合がいいよな。けどそれが創造でもある。キラキラ輝く願いがそうさせてくれる。それを俺はぶち壊すのさ。ああ~こんなにも望んだ通りになってくれるなんて、最高だ、最高に楽しめそうだ!」

 都合の良い世界の中でわたしゃは生まれ、そしてそれを楽しむやつがいる。

 結局の所、わたしゃ達というのはそのためだけに存在しているんだろうね。

 でもそれでいい、わたしゃの願いを叶えるためならば。

 

「それじゃあぶちかましてくれよ、その力ってやつをなぁ!」

 ベインは両手の指をつきたてると、破壊の円盤が空間にいくつもあらわれる。さっきまで本気ではなかった、それを改めてしらしめてくる。

 

 ベインが両手の指を振り下ろすと、無数に現れた破壊の円盤があらゆる方向から襲いかかってきた。数は多い。しかし恐れるほどではない。


「数で圧倒できるとでも、舐められたもんだね」

 避けられるものは避けながら、襲いかかる破壊の円盤はすべてはじき飛ばしていく。

 吹き飛ばせるものならどれだけの数をだそうと関係はない。破壊の円盤なんて最初からなかったかのように、やすやすとベインのもとへたどり着く。


「楽しませてくれるじゃねぇか」

 拳と剣が交わる距離での闘いになると、これまで以上の激しくなっていく。

 たった一本の指でもものすごい威力を誇っていたベインの強打、それはこれまで受けたことのない破壊力を創り出す。

 

 蒼輝刀剣で受け止めれば、確実に吹き飛ばされてしまう。それは創造神の加護を受けた後でも変わることはない。

 

「どうした、どうした」

 剛腕だけではない、旋風脚といった足技を使用しベインはわたしゃを追い詰めようとする。

 赤黒い破壊の意思だけがこいつの強さじゃない。戦闘経験の高さ、それはいかんなく発揮してきている。攻撃を読まれていることも少なくはない。

 だが、ここで負ければすべてが終わる。たとえ敵がどれだけ強くても、わたしゃの想いは揺るがない。


「狼よ、あいつをとらえろ」

 狼は一人で狩りをするのではなく、群れで狩りをしたほうが真価をはっきする。

 蒼輝刀剣から創り出した狼達がベインに向かって一斉にとびかかった。

 

「うぜぇよ」

 ベインは床を激しく踏みつけると、黒い破壊の針が床から飛び出した。蒼き狼達は串刺しにされ、蒼い輝きとなって消えていく。

 わたくしはけしてその輝きを無駄にしない。

 

「くらえ、わたしゃの蒼の輝き!」

 蒼き狼が囮になってくれている間に、蒼輝刀剣の刀身に創造の輝きを集めた。


「蒼破天狼撃!」

 蒼輝刀剣を振るうと、ベインがまとった赤黒い破壊力を破り、腹に蒼輝刀剣を食いこまされる。狼が獲物の喉元から離さないように、ベインを逃しはしない。

 

「残念だったなぁ。もうそれ以上刃は進ませない。あっけない終わり方だったな」

 ベインはこれは絶好の機会とでも思っているのかもしれない。なぜなら蒼輝刀剣は抜くことができないように破壊力で抑えつけているからだ。

 

 だがそれは大きな過ちだということを教えてやる。


「まだだよ」

 体内に溜まっていたわたくし自身の創造の輝きを一気に放出し、蒼輝刀剣へと集めていく。

「まさかお前」

「たとえ消えることになろうとも、お前は絶対に倒す」

「おもしれぇ、おもしれぇじゃねぇか!」

 ベインは抵抗するどころか、わたしゃの最後の攻撃を歓迎していた。

 

 楽しもうとするこいつに何も言うことはない。わたしゃは願いを果たすのみ。

「創磨、逢夢、ティア、わたしゃを支えてくれてありがとう。マスター、わたしゃを創ってくれてありがとう……わたしゃはすべてを捧げ守るよ」

 届けることのできない別れの言葉を決意に変えて、わたしゃはすべてを捧げ神の力を解放する。

 

大神おおかみの輝きを、今のここに!」

 創造神の輝きが天から降りそそがれ、蒼き薔薇の花園と蒼い月をアウター・ワールドに創り出した。

 世界は蒼でつつまれ、大いなる神の化身、狼の姿をした巨大な蒼き大神となる。

 

 蒼き大神になれる時間はわずかしかない。すべてはその間に終わらせる。

「アォオオオオオオオン」

 すべての創造の輝きをつかい、神の鉄槌をベインにくだした。

 大いなる創造のエネルギーは、星が爆発したときのような衝撃と共に巨大な光の柱を創り出す。

 肉体はとうに消え、意識も消えかけている。

 後悔はない。わたしゃはマスターを守るために創られた。


(みんなとマスターの未来、守れたよ……)

 意識が消える最後の時までマスター達のことを想う。

 肉体はとうに消え、意識どころかこの世界から消える運命にある。


(もっとみんなと……マスターといたかったな……)

 叶うことのない願いは虚空へ消え、この世界から蒼き大神は消滅した。

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