10話 破壊王ベイン ⑤
「なんで破壊の色に黒が混じったと思う?」
「色がなにか関係あるとでも」
「俺が質問をしてるんだ。これくらいは答えてくれよ。なぁにどんな解答をしようが怒りはしねぇよ」
貧乏ゆすりでもするかのようなリズムでベインは手で膝を叩いている。怒りはしないと口では言っているがすでに脅迫に近い物言いだ。
「赤、青、黄の絵の具を混ぜると黒色になっていく。様々な感情を混ぜたから黒も混じったとでも言いたいわけ」
「イラストレーターらしい解答だなぁ。面白い、それも正解にいれてやるよ」
色とりどりの感情を混ぜたら黒へと近づいていく、その解答をベインは気に入りはしたが答えは違っているらしい。
真面目に答えた所でこの状況が変わるとは思えないが、少しでも今は時間を稼ぎクリエイトやブレイドが対抗策を考えられるようにするべきか。
「創造の輝きは白に近い。だから真逆である破壊は黒や赤色となった」
「悪くはねぇ答えだが。外れだ」
答えを外したことで身構えはするものの、ベインは敵意をみせることなく話を続けていく。
「破壊は元々は人間の赤い怒りの感情からはじまった。ただ怒りのままに感情をぶつけ、赤く染めようとする。それが積み重なり時を重なればどうなるか。赤い血は固まように黒が混ざっていく、はてしない時の中で怒りは成熟され黒くなった。それが破壊の本質さ」
ベインは変化した赤黒い破壊の願いをみせつけてくる。怒りではなく、どす黒く変化した感情。
「どうしてそれが楽しさにつながった? 怒りのままにベインは行動していなように思えるが」
「俺は長い間、創造神と関わりがあるらしくてな、おそらくそれが原因なんだろうな。
「最初から読者に近い存在だったとでも」
「そのあたりは俺もよく解ってねんだ。創造神にでも聞いてみればいい、出逢えたらの話しだがなぁ」
創造神との関わり、そこはきになる部分だが今は置き去りにしておくしかない。
「怒ってもたいてい虚しさだけが残るだけだ。それなら楽しい方がいいだろ。怒りのままに破壊させるよりも楽しく破壊する方がいい。そうしたらまた破壊したいと思える。てめぇ達は読者や創り手の立場だ、それは理解できるはずだぜ」
作者として楽しいものを創り出す時、破壊的な衝動がなかったわけではない。キャラクターの感情が動くたびの、作者自身の感情も動いていく。
敵キャラであるのならば特にそうだ。破壊的な衝動を楽しむことができなかったら描くことはできない。それが創造というものだ。
「だから破壊するのさ。そうした方が楽しめるからな」
ベインに悪意を向ければ向けるほど、こいつは俺達の闘いを楽しむことができてしまう。
創り出された悪意は消せない、俺達には闘うことしかもう選べない。
「抵抗しろよ、無抵抗じゃあまりにもつまらねぇからなぁ!」
黒い破壊の意思をまとったベインは高速で接近を開始する。
その姿を肉眼で捉えることができず、まばたきを3回しただけですでに目標まで接敵していた。
「おせぇなぁ!」
ベインは突き立てた一本の人差し指でクリエイトを軽く押した。
人間の感覚でいえばほっぺで人差し指を押す程度の感覚、しかしベインがそれをすれば人差し指で押したとは思えないほどのパワーが一点に集約され、赤黒い破壊の意思が放出された。
炸裂音と共に体を押されたクリエイトは宙に浮く。
苦悶の表情を浮かべ手痛いダメージが入ったが、反撃する意思は残されている。
「まだ負けたわけでは!」
再び桜色の閃光となり、クリエイトが今度は逆に攻めていた。
さきほどまで連打しつづけてきた攻撃。それをいともたやすく避けている。
「そのスピードにも慣れてきた。もうやめとけ、効かねぇよ」
最終的には動きを完全に捉え、デコピン一発でクリエイトは吹き飛ばれていた。
それでも攻める意思は失わない。
「創造の弾花、クリエイト・ショット」
クリエイトはベインに向かって創造の弾を発射した。かなりの至近距離で射出されておりベインを確実に捉えていた。
「それは見飽きたぜ」
しかし黒い破壊の意思によって、クリエイトの攻撃はすべてかき消されている。
「穿て、ブレイク・ショット」
拳銃にみたて人指し指の銃口から黒い破壊球を射出、クリエイトを撃ち抜いた。
地上に降り立つ際に着地こそしっかりしたものの、ダメージは計り知れない。たった二撃、それだけでクリエイトをここまで消耗させられたのか。
「蒼の牙、蒼牙撃」
ブレイドは攻めることでクリエイトを守る選択肢をとろうとしており、高速の二連撃がベインに食らわせようとする。
「それも見飽きてんだよなぁ」
目にも止まらぬ速さで繰り出される二連撃、今度は右手の人差し指だけでベインは軽くはじきとばす。さらにベインは蒼輝刀剣をはじかれ姿勢が崩れているブレイドを、指で突こうとしていた。
ブレイドは攻撃を対処される可能性を考えていたのか即座にバク転をして、ベインの手から逃れた。
「たいしたことねぇなレイターってやつは」
指先に息を吹きかけベインは余裕な態度をみせる。クリエイトとブレイドにまったく余裕はない。
どうすればいい、どうすればあいつに勝てる。対抗策がまったくみつからない。絶望が心を蝕み、闘う意思を奪っていく。
「まだです、まだわたし達は諦めません」
そんな意思に逆らおうと、クリエイトは声を張り上げる。そうだ諦めるな。諦めたら、そこですべてが終わる。
「それは頼もしい。ぜひともみせて欲しいもんだなぁ、お前達の本気ってやつをなぁ」
ベインは近づいてこない。待っているんだ、クリエイトの必殺技、俺達が使える最大の攻撃を。
はじめて破魔を倒した時の技も同じものだった。創造力を集め、それを放出する必殺技。
破壊力に抗う絶対の力。
「クリエイト、いくぞ」
「はい」
退くことはできない。ならば俺達の全力をぶつけるのみ。
「根源は紡がれし創造の輝き、今一つとなりて解き放つ」
クリエイトの両手に光輝く創造の輝きが集まっていく。
この世界にある創造の輝き、俺達自身が紡いできた創造の輝き、暖かい力は勇気と闘う意思をくれる。俺達はそれを真っ直ぐぶつければいいだけ。
花びらのように開いた両手に集まった創造力は大きさこそ、その中におさまるサイズだ。
しかし、その強さは以前のものとは違う。創造力の基盤が圧倒的に増えた。見た目は同じでも中身はまったく違う。
「クリエイト・バスター」
集めた創造力を解き放つと、巨大な光線となりベインへと向かい進んでいく。
ベインの表情はなにも変わらない。危険なんて訪れていないと思っていそうだ。
「それ、俺もやってみたかったんだよなぁ」
ベインは両手を前にだし手のひらを広げると、その中心に破壊力を一瞬で集めた。赤黒い破壊球はすでに放出できる状態になっている。
(あれだけの破壊力を一瞬で)
巨大赤黒い破壊球は半身ほどの大きさ、見た目の大きさだけではなく、今まで感じたことのない破壊力が内包されているのは遠目からでも解る。
「破壊しろ、ブレイク・バスター」
ベインの両手から、赤黒い破壊球は巨大な光線となり照射された。
クリエイトが放った創造力と破壊力は衝突、大きなエネルギーのぶつかいによる衝撃波が発生する。
苦しみ、楽しみ、破壊する。純粋な破壊の願いは創造を打ち負かそうとしてくる。
この願いが正義か悪かどうかは関係ない。創造を信じ、創造を守る、その願いを叶えるために対抗しなければならない。
「くぅううううう」
徐々に赤黒い破壊力に押されている。
「俺の力も」
俺の中に流れる創造力、それはドラゴンの形となって重なりあう。
「あたし達の力も使って」
絵麻、ブレイド、ティアも創造力を届け、ベインの破壊力に対抗する力を与えてくれた。
創造の輝きは仲間達の力を受けて再び強く輝き、黒い破壊の意思を押し戻していく。
「ベイン、これが俺達のつながり、俺達の創造の輝きだ!」
仲間達と力を合わせた創造の輝き、この力は通じている。これならベインにだって。
「良い顔つきだ。希望を見いたし、自らの強さを信じてるんだよなぁ」
「負けそうになってるからって、こっちを動揺させるつもり。そうはいかないから」
ベインは赤黒い破壊力を押し戻されているのに、余裕な態度を崩さない。ただのはったりとも考えずらいが、そんなこときにしている余裕はない。
負けないため、勝つために雑念を捨てることに終始する。
想いを強め、限界まで創造力をひきだす。この一撃にすべてを……
「すべてをこめた一撃……それがつうじなくなったら、どうなるんだ!」
ベインからおびただしい量の赤黒い破壊力が溢れ出し、俺達の創造力を上回りはじめていく。
なんだ、なにをしている。本気だったんだろ、さっきまで本気だったはず。なんでまだ余力を残しているんだ。
(なんだあの力、押し返される……)
すでに全力をだしている。それなのに赤黒い破壊力を押し返すことができない、だんだん俺達の創造力が侵食されていく……
「まだやれる、まだだ」
諦めるな、ここで負けたら打つ手がなくなる。まだ残っている力を引き出して……
「もう無駄さ。希望に満ちた白い心が黒く濁りはじめてるぞ」
呼吸がだんだんと荒くなり、ベインの挑発がさらにこちらを焦らせる。。
焦りは心を不安定にさせ、それが迷いにつながった。
。
「終わりだ!」
ベインはさらに赤黒い破壊力を強めると、俺達が創り出した創造の輝きは完全に消滅した。
赤黒い光が進む、進み続ける。もう逃れることはできない。
「創磨!」
「マスター!」
ベインの破壊力が直撃する前、クリエイトとブレイドは自らの身体を盾にした。
それでもすべてを防ぎきれるわけではない。赤黒い創造力につつまれ、全身に激痛がはしる。直撃しているクリエイトとブレイドよりも、いくらか威力は減衰しているのにも関わらず、破壊力に蝕まれ立ち上がれなくなった。
「くそ、動け……」
赤黒い破壊力の輝きが消えた頃には、5人全員がその場に動けなくなる。
敗北したことを痛感するしかなかった。




