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10話 破壊王ベイン ②

「皆の者、準備はできておるな」

 ティアの呼びかけに対し、みながうなずく。ゲームで例えるならボス戦前、ベインとの闘いに向けて休息をとり心と体も闘う準備は整っている。

 

「これから闘うのは破壊王ベイン、すべての元凶でありどれほどの力を保有しているのかも未知数だ。圧倒的な力の差を感じるやもしれん。だがそれでも我らの闘いに敗北は許されない。ここまで紡いできた創造は消させない、そう強く心に思うがよい」

 総指揮官の演説かのように、ティアは強い言葉と共に拳をふりあげた。

 戦意を向上させるその姿は魔王らしく様になっていて、勇気をもらえるな。


「ティアちゃんが勇気づけてくれるだけで勇気百倍だよ! まじ推せる! ティアちゃんしか勝たん!」

「ティアちゃんしか勝たん~!」

 絵麻とブレイドもいつも通り、リラックスしてくれている。


「我は別に貴様達のために勇気づけたわけではない。貴様達の闘いが、我を利用したベインに報いることにつながる。ただそれだけのこと、それだけのことなのだ」

 褒められるとツンデレスイッチがはいるのはいつもどおり。ティアのぷにぷにの頬が赤く染まっていくのは様式美にも思えてくるな。

 

 ティアのツンデレムーブのおかげで少しだけ和やかなムードになったけど、すぐにみんなの顔が引き締まる。穏やかな感じなのはここまでか。


「ベインの所へいこう。守るぞ、俺達の創造を」

 俺なりに決意を伝えると、逢夢がアウターワールドへ転移をしてくれた。

 

 

 アウターワールドに転移してあたりを見回す。光輝く分厚いブリリアントシールド、スケッチブックのように白い床が広がる。

 白い床には赤い瓦礫がいくつも転がっており、天上には淡い赤色の雲海が広がっている。

 

 はじめて来た時は見慣れない非現実的な世界、それが今では身近で現実的な世界に変わっている。あの頃から俺達は苦難をのり超えて強くなれた、それをベインに証明するだけ。


「来やがったか、レイター共。楽しみにしてたぜ、お前達と戦える時をなぁ」

 赤い瓦礫の上に座っていた、ベインが俺達に近づいてきている。

 なにか闘う準備をしてきたわけでもなく、うすら笑いをうかべてる感じもいつもどおり不気味だな。闘うことに対する緊張とは無縁のようだ。

 

「あたし達は楽しくなんてないし」

「なら俺が楽しませてやるよ、存分になぁ」

 絵麻は露骨に嫌悪感をだし、ベインを敵視している。

 

 破魔やブレイカーは苦悩し、悩んだすえに願いを叶えようとしていた。

 しかしベインは違う。悩みは皆無、楽しいから闘おうとしている。そこが絵麻には受け入れられないのかもしれない。


「ベインはいつも楽しそうしているな」

 対して俺はベインのことを知ろうと対話を試みる。ベインはまったく別の存在だという風に思えない。その答えを俺は知りたがる。

 

「そういう性分なんだ。楽しくなきゃ、生きてる感じがしねぇだろ、しねぇよなぁ」

「同感だ。俺も楽しい方がいいとおもう。その方が生きているって感じがする」

 ベインと同意できるは同意し、ベインにさらに踏み込んでいく。

 

「闘いを見るだけじゃない。今回は闘いそのものを楽しもうとしている。闘う相手は強い方が良いと思ってたんだよな」

「そうさ。簡単にやられる相手じゃ、あまりにもつまらえねぇからな」

「それってあんたがただの戦闘狂ってだけじゃん」

「そんな単純に捉えるなよ。闘い以外の部分もしっかり楽しんでるのによぉ」

「悩みを持っている人達の心を利用してきた、それも楽しんでるのはおかしいでしょ」

「なに言ってんだ、お前らも楽しんでるじゃねぇか」

「は? 何言ってるの?」

 ぐさぐさと言葉を絵麻は何度も突き刺そうとするが、ベインはそれをいともたやすく交わす。どこまでも相容れない応酬を繰り返す。

 絵麻にとってこれは無意味なやりとり、ただいらつく行為だったはず。


(やっぱりそうだ、やはりベインは……)

 俺はこのやりとりを見て、ベインの正体がなにか、また一つ確信へと近づいた。

 

「あいつは楽しみたいんだよ、この楽しみすらも。だろ、ベイン」

 絵麻の疑問に答えつつ、不敵な笑みを浮かべながらベインの方をみた。ベインも同じ気持ちでいてくれているのだろ、そう楽しそうな瞳で訴える。

 

「そこの感情丸出しイラストレーターと違って、お前は感情に左右されず目的をしっかりみさだめている。物語を創りだす作家ってやつはこうでなくちゃなぁ」

 ベインもまた楽しそうに笑っている。そうだな、お前はそうあるべきだ。


「前回の闘いで質問したよな、この俺がどんな存在かを? その答えあわせといこうか」

 ベインは瓦礫の頂点に立ち、俺達を試すかような見下し視線を送りながら、前回の戦闘後に質問したことについて返答することを求めてきた。


「そんなこと話していたね。わたしゃからみたらペインはマスター達を脅かす敵でしかない」

「あたしも似たような答えかな。人の気持ちを考えないただの戦闘狂、それだけでしょ。迷惑なやつだよ」

 ブレイドと絵麻の考え方はほぼ同じ、ベインは敵だってこと。

 これまでの闘いでそれは証明済み。破壊力を利用して苦しめてきた。願いを叶えてやるって言い方してるけど、そんなの許していいはずない、そういった思考からくるものだ。


 ベインはその意見を心底退屈そうに聞いている。どうでもいいものだと思ってそうだな。


「あなたは、わたしと同じキャラクターなのではないでしょうか」

 逢夢は俺の意見も考慮し、フラット目線で意見を述べる。

 

「惜しい、それだけじゃ正解だとは言えねぇな。もう少し細かい部分、キャラクターだけだと敵か味方かどうかすら解らねぇだろ。俺はどんなキャラクター、どんな存在を教えてくれよ」

「それがなにかわたしには解りません。でも、創磨ならば……」

「本質が解るっててか。答えてみろよ、創磨」

 読者がワクワクして物語の答えを待っている、ベインはその読者と同じ瞳をしていた。

 答えを聞くのが楽しみでしかたがない。こういうやつには聞かせたくなる、いい顔してやがる。


「ベインの正体、それは物語を楽しみつまらないものを壊したいと願う、読者の破壊的な願いが創り出したキャラクターだ」

 創造というなのショーを楽しみ、つまらないものを壊すことを最優先にベインはしていた。

 しかもそれだけじゃない。敵であることを認知してもらえることを喜んでおり、それが普通の敵ではないことを教えてくれた。

 嫌味な部分はあり俺自身も苦しめられたが、どこか共感できる部分はあった。

 

「俺も読者として物語を楽しんできた、だからきずけた。お前は物語を読んでいる時の俺と似ているきがしたんだ」

 ベインは読者と似ている、それが導き出した答え。


「正解だ、正解さぁ! さすが何時でも物語のことを考えてるだけのことはあるなぁ!」

 今もそうだ。答えが正解だった、喜び笑うベインをみて楽しくなってた。


「この事実を知ってもまだ……いや知れたからか。ずいぶんとてめぇも楽しそうじゃねぇか」

「ベインは面白いやつだ、そう思っただけさ」

「いいね、面白いって思ってもらったほうが光栄さぁ」

 読者を楽しませたいと常に思っているからか、ベインの態度はそこまできにならない。

 ただしこいつは甘い相手でもない。気は引き締めないとな。


「本当にあれが読者の破壊的な願い、だっていうの?」

「ベインは嘘はついていない。あいつの表情をみれば解るだろ。だいぶおかしな考え方かもしれないがな」

「そうなんだけどさ……」

「たとえそれが事実だとしても、あの方が敵であることには変わりません」

 ブレイドと逢夢は破壊的な読者だという認識はしていても、敵であるという警戒はし続けている。

 答え合わせは終わったが、ベインと闘うことは変わらない。

 

「読者の願いからベインは創られたんだろ、だとすれば理解しあうことはできないのか」

 ベインの正体が読者の願いから創られたものならば、説得できる可能性はあるかもしれない。用意しておいた言葉をベインに伝えた。

 

「できねぇなぁ。そんなことしても楽しくないだろ」

「闘うことが楽しみだった、ベインはそう言っていたもんな」

「解っててて、聞いたな」

「ああ、そうさ。それでも聞いておきたかったんだ。読者と殺しあいのような闘いをしたいとは思えない」

「つまらない、くだらない、面白くない、そう言われるかもしれねぇのにか」

「そうさ、別にそう思わうことは必ずしも悪いことではないからな」

 なにかをつまらないと思うから、より面白く楽しいものが生まれる。それに自分の合わない作品だってある。そこに目くじらを立てた所で、楽しいものはつくれない。

 

「お前は俺達を消したら、楽しくなくなるんじゃないのか」

「負けた時点で用済み。他の楽しい奴をみつける。それだけのことさ。本気でかかってこいよ。そうしなきゃ、この世界ごと破壊しちまうもかもなぁ!」

 どうあろうとも説得みたいなのには応じるつもりはないらしい。ベインらしいと言えばそれまでか。


「楽しもうぜ、俺との闘いを! 完膚なきまでにお前達を破壊してやるよ」

 握り拳をつくってゴリゴリと指の関節を鳴らし、破壊王ベインは敵として俺達を苦しめることを楽しもうとしていた。

 

「創磨よ、気がすんだか」

「ああ、これで心おきなく闘える。たとえ読者の破壊力が創り出した相手であろうとも、この世界を破壊させるわけにはいかない」


 惜しい相手だ。もし物語に中にいてくれたのなら、これほど心強い相手はいないだろう。

 どこまでも牙むき、作家なんて関係ない。ありのままでいてくれる。作品の中で登場してくれるのならば、どれほど楽しいものだったか。

 だが今はそれを許すわけもにいかない。

 レイターと共に歩むべき者として、果たすべき使命がある。

 

「逢夢」

「ブレイド」

「「変身だ」」


 俺と絵麻の想いを受け入れ、逢夢とブレイドはブリリアントブックを手に

「レイター・ブリリアントチャンジ!」

 創造の輝きをみにまとう変身をはじめていく。

 

 桜色の花びらが吹き荒れ、狼が駆け回る中、桜色のバトルコスチュームと蒼い剣士服が創られていく。


「未来へ続く創造の輝き、レイ・クリエイト」

 レイ・クリエイトは左手を胸にあて、右手は先端が腰の高さと同じになるように手を伸ばし、


「すべてを切り裂く創造の輝き、レイ・ブレイド」

 レイ・ブレイドは蒼炎を燃え上がらせた蒼輝刀剣を構えた。

 

 強大な破壊の意思に立ち向かう二人の創造の輝きが創りだされる。

 ベインがどれほどの強敵であろうとも、俺達はこれまでの闘いで積み重なてきたものをだすだけだ。

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