10話 破壊王ベイン ①
「破壊王ベイン、あいつは結局なんなんだろうな」
ベインとの闘いを控えて、ベインがなにものか考えていた。
(憎むべき敵、というのが模範解答だろうな)
あいつのしてきたことは迷惑極まりないこと、俺だってその被害を受けてきた。不快に思う言動もそれに拍車をかけている。
「でも俺はそんな単純じゃないものだと思っている」
あいつは俺達に自分自身がどんな存在かを問いかけてきた。答えを楽しみに待っているベインからすれば、普通じゃない方が当たり前。ただの敵じゃない、それはこれまでの行動をみていれば解ること。
「ベインは創造に対する悩みや不満、それを持っている人達の願いを利用していた。それだけじゃない、俺達に関わりが深い相手の願いも利用していたか」
誰でもいいわけじゃない。より俺達が敵意を向けやすい相手に絞っていた。
しかしそんなことをしても相手の戦意を高めてしまうだけ、デメリットだ。
他にも闘いの舞台は用意するが積極的な介入せず、勝つために闘っているようにはみえない。楽しむために闘っているというほうがしっくりくる。
「ベインは俺達の行動や闘う姿を楽しそうにみていた、まるで物語でも見ているように。それはあいつの正体を深く関わっている感じがする」
額に手あて、自問自答をしつつ答えを探していく。
全力で闘って、苦しめて、感情を爆発させてくれる相手をベインは求めている。そうした方が楽しめるからだ。
「あいつの願いを楽しむこと。今回もさらに準備期間まで与えている」
直近でベインが言ったことを振り返る。
「次は俺が直々に相手をしてやるって言ってるのさ。それまでせいぜい幸せな時間を過ごしながら、俺がどんな存在か考えておくがいい。時が来たらすぐにでも破壊しつくしてやるよ。フッハハハッハハ」
「そう警戒するなって。このまま誕生日会をぶち壊すような真似をしない。もっともっと幸せになって欲しいからなぁ」
そうすることで導き出される答えがある。
「幸せをベインは破壊しようとしているのか……しかも楽しむために。だとしたら……まぁそれは聞いてみれば解る。俺も楽しませてもらうか、この予想が当たっているのかを」
ベインという存在がどんなものか考え、楽しみになっている。
「案外、俺とあいつは本質的には似た者同士なのかもな」
どこまでも幸せと不幸を望み、どこまでも闘いを望み、どこまでも楽しさを望んでいる。
そうすることでより楽しいことが起こると解っているからだ。
“トントン”
楽しそうに笑みを浮かべていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「創磨、よろしいでしょうか」
「ああ」
部屋に入ってきたのは桜色のパジャマを着た逢夢だった。
「どうした」
「明日のことを考えていて……あれ、なんか良いことでもありました」
「あいつの正体を考えたら、楽しくなってきたな」
「そうなんですか!?」
桜色のツーサイドアップがびくっと動いてしまうくらいの驚きよう。あまりにも予想外の言葉だったらしい。
「あいつのやってることは賛同できないけど、あいつ自身はそんなに嫌っているわけでもないんだよな。あいつは人の願いこそ利用したが、人を殺すようなことはしなかった。人間に対する憎しみは感じないんだよな」
嫌いじゃない理由はいくつかある。それを話していく。
「人道に反するようなやり方もしてこない。人質とかとろうと思えば、あいつはいくらでもとれる。寝ている間を襲う、そういうこともしなかった。いくらでも卑怯なやり方をあいつはとれたにも関わらずな」
ベインはどこにでも現れ、俺達の行動を観察しちえる。やり方さえ選ばなければ、殺そうと思えば殺せる立場だ。
「わたし達はベインに生かされていると」
「本気でこの世界を破壊しようと考えてるなら、もっと非道になればいい。だがそれはしてこない」
「楽しむためにですね」
「ああ、それがベインを嫌えない理由だ。楽しむことには共感できる。敵として闘っているはずなんだけどな」
楽しむために、その前提があるから嫌いにはなれない。やり方も選んでくれていて、ある意味フェアな闘いを挑んでくれている相手だから。
「創磨は寛容ですね」
「逢夢は違うのか」
「ベインは創磨や絵麻のことを傷つけてもいいと思っている。創造されたキャラクターとして、それを見過ごすことは出来ません」
逢夢の立場からすれば、俺達が傷つくには許しがたいと思ってくれていた。
「わたし達は勝たなければならない」
「ああ、それは俺も解ってる。負ければ、この世界すら破壊しうる力をベインは手にしてしまう。俺達が楽しくなくなったら、たぶん用済みだ。だからこそ負けられない」
ベインがどんな存在であれ、負けられない闘いなのは変わらない。
楽しいことを望んだ先にあるものが、この世界の破壊ならば絶対に阻止しなければならない。
「勝とう、逢夢」
「はい、創磨」
拳をつきあわせ、勝利を誓いあった。




