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1話 誕生、レイ・クリエイト ⑨

「創造の輝き、そんなもの認めぬ! 破魔、あやつを倒せ」

 魔王ディアボロスの命令を受けたミノタウロスの破魔は、巨大な拳でクリエイト押し潰そうとしてきた。

 

“バン!”

 公園内に響き渡るほどの衝撃音。アルファルトを砕いて穴を開けてしまう程の威力はあっただろう。

 クリエイトはそんな強烈な一撃を片手で受け止めていた。

「はぁああああ」

 そして次の瞬間には芝生を強く蹴って破魔へと近づき、強烈な鉄拳を逆にくらわせて破魔を後方へ弾き飛ばした。力量差は圧倒的。

 

「これがレイ・クリエイトの力! すげぇこの世界でも見たかったやつだ!」

 戦闘中であるにもかかわらず、高揚感が半端ない。なんだこれ、楽しすぎるだろ。

「楽しんでいただけてなによりです」

 そんな俺をみて、クリエイトは嬉しそうだ。自分の活躍をみられることを喜んでいる、見せたがりなクリエイトらしい反応だ。

 

「ミノタウロス、立ち上がれ!」

”ブォオオオオオオ”

 クリエイトの拳は強烈な一撃ではあったが倒すにいたっていない。

 ミノタウロスは立ち上がると手に赤い塊を集め、その赤い塊から巨大な斧を創り出していた。

「倒すのだ、我らの敵を」

 ミノタウロスは痛みや苦痛をひきずりながら、クリエイトに迫ってきている。

 

 必死なんだ破壊の意思に飲まれてしまった人も、必死で今を変えようとしている。

 それでも苦しみを知っている人間として、その欲望を止めてやらないといけない。

「クリエイト、頼んだぞ」

「はい」

 クリエイトはうなずいてみせると、ミノタウロスの前に自らすすんで歩み寄っていく。


「ここは物語のように都合の良い世界ではない。なめているのか、貴様は!」

「なめてなんていませんよ、彼らと真っ直ぐ向きあいたいだけです」

 ミノタウロスは眼前で止まるクリエイトに対して、巨大な斧を振り下ろす。

 自分の何倍も大きい姿をした相手、それを恐れることもない。

 

”ガァアアアアン”

 斧はクリエイトに当たっている。衝撃が貫通し地面にヒビが入ってしまうほどの威力。

 それにかかわらずクリエイトは攻撃を受けとめ、立ち上がっている。

 クリエイトの手には創造の輝きが集め、破壊力を凌駕していた。

 

「創造の衝花、クリエイト・インパクト」

 さらに集めた創造の輝きで斧に衝撃をあたえ消し飛ばし、さらにミノタウロスを真上に吹き飛ばした。

 自分よりも何倍も大きい身体をしているミノタウロスが、糸で吊り上げられたかのように真上に飛んでいく。

 

 クリエイトは頭上に飛んだミノタウロスを追いかけ空中へ。

 ミノタウロスを追い越し、真上にあがっていたミノタウロスを真下に殴り飛ばし地面に叩きつけた。

 

「結果がでなくて、なにかにすがりたい気持ちも理解はできる……それでも他人の創造を奪うなんことはするな。自分自身を信じて欲しい。そうすれば自分が創った創造も信じることができるはずだ」

“グォオオオオオ”

 ミノタウロスは俺の言葉を聞いて、涙している。声が届いたんだ。

「貴様ら、こんな戯言に耳を傾けるな」

 魔王ディアボロスは破壊の意思を送りこみ、再び操ろうとしている。

 あの破壊の意思を浄化しないと、止められないか。

 

「クリエイト、破魔に囚われた人を助けるぞ」

「はい!」

 クリエイトと俺は両手を前に伸ばすと、

「根源は紡がれし創造の輝き、今一つとなりて解き放つ」

 閉じられた掌を開き、満開に咲いた掌の中心に創造力を集めていく。

 助けたい、それもまたヒーローが闘う覚悟、その想いがより創造力を輝かせ強くすると、桜色の創造の輝きは一つの大きな光の塊を創り出した。

「クリエイト・バスタァアアアアア」

 創り出した技名を叫び、クリエイトは集めていた創造の輝きを解き放った。

 

 輝きは桜色の花びらを舞い散らせながら進み、破魔はその輝きに包まれていく。

 創造の輝きは破壊のためにあるものではない。破魔の中で広がった破壊の意思を浄化して、本来あるべき輝きへと創り変えた。

 破壊の意思に囚われ得た魂は、光となって主の元へと戻っていく。

「この世界でも我は!」

 破魔を失った魔王ディアボロスをみると戦闘する意思はないように思える。けれど諦めたようには見えない。怒りが抑えきれないのか拳を震わせていた。


“パチパチパチ”

 空の上から拍手が聞こえた。その音をたよりに空を見上げると黒色の服を着た赤黒い髪の男が拍手をしている。

「いいねぇ、中々楽しいやつらじゃねぇか」

 俺達をみてそいつは笑っている。何者か解らないが、こんな所に来るってことはなにかしら事情を知っていると思ったほうがいいな。 

 

「本気で悩み、本気で闘ってくれたお前達にはこれをあげよう。じゃがりんこ、知ってるだろ」

 赤黒い髪の男は長細いじゃがいもの菓子を渡そうとするも

「見るからに不審な相手から受け取るものはありません」

 クリエイトは警戒心を強め手にとることはなかった。

「残念だなぁ、美味しいのによぉ」

 敗北したことにいらつくディアボロスとは違い、赤黒い髪の男はこの状況そのものを楽しんでいるかのようだ。あいつは俺が創り出したものじゃない。なんなんだあれは?

 

「お前は誰だ?」

「お前達がよく知ってる存在……いやこの場合は名前を聞いてそうだね。俺の名は破壊王ベイン。お前が創り出した魔王に破壊力を与えた者さ」

 聞き覚えのない名前と姿、それなのに俺達がよく知っている? いや、それよりも注目するべきはベインが破壊力を与えているといるということ。

「ベインが元凶ってことか、なぜこんなことを」

「楽しむためさ、この闘いをなぁ」

 闘いが好きなのか? だめだな。これだけの情報じゃ、ベインの真意は解らない。

 

「なにをしに来た、ベイン」

 その態度にむかついたからか、ディアボロスはベインを睨みつけている。

「お前に力を与えたのは俺だ。それをどう使っているのかきになるのは当然のことだろ。まぁ、あまりうまく力を使いこなすことはできなかったみたいだなぁ。俺はつまらないのが大嫌いなんだ。もう少しくらい粘ってくれよ」

 ベインからは敵意が今の所はあまり感じない。この状況を楽しもうする意思はやたらと感じる。楽しむためっていうのは本当なんだろうな。


「貴様、我がつまらん存在だとでもいうきか」

「つまらなすぎるってほどではねぇな。創造主を悩ませ、追い詰めてくれた。そこは評価しといてやるよ」

 常に上から目線の態度でいるベインに対し、ディアボロスは快く思っていないように見えた。

「創造主よ、今日の所は引いておこう。だがこれでは終わりではない。次は貴様らを倒す」

「レイター共、また楽しませてくれよ」

 ベインが何者かという疑問は解消されることがないまま、軽蔑した眼差しを向けてくる魔王ディアボロスと、愉快に手を振り笑う破壊ベインがその場から消え去った。

 

 この闘いはこれで終わり。クリエイトとなっていた逢夢も変身を解いた。

「創磨、ありがとうございます。あなたがわたしを輝かせてくれたおかげで勝つことができました」

「ありがとうを言いたいのは俺のほうだ。逢夢がいたから、創造を輝かせることができたんだ」

 お互いに感謝を伝え、満開に咲く桜のような笑顔を咲かせた。

 自分が創ったキャラクターが目の前にいるってだけで嬉しい。現実離れしたこの状況を受け入れられてしまっているのは、そのことが嬉しくてしかたないからなのかもしれない。

 

「寒いし帰るか。これを着てくれ、寒いだろ」

「少し動けたので多少でしたら」

「遠慮しなくていいからな」

 逢夢が着ていたワンピースとカーディガンは春服用だ。それでは寒いだろうということで俺が着ていたコートを逢夢に着せた。


 逢夢と一緒に月明かりが輝く夜道を帰ろうとしていたら

“トゥルルル、トゥルルル”

 スマホから着信音が鳴り響き、スマホを取り出し画面をみる。

 知らない番号からの電話だったが、とりあえず出てみることにした。

 

「遠坂さんのお電話でよろしいでしょうか」

「あ、はい」

 聞いた事のない声だった。その声の主は話をつづけていく。

「わたしは希望出版の正谷と申します。小説大賞の選考結果はご確認されていますか」

「はい」

「そのことに関連して、今回はお尋ねしたいことがあってお電話させていただきました」

 なんだ聞きたいことって。アンケート調査的なものか。まったくわからん。

 

「今回最終選考まで進んだ際にあなたの作品を読ませていただきました。惜しくも残念な結果になってしまいましたが、あなたの作品に光る物があると感じています。そこで拾い上げという形ですがあなたの作品を出版させていただけないでしょうか」

 拾いあげ、出版、いきなりのことすぎた。

「ぜひお願いします!」

 頭が真っ白に一瞬なったが、編者者の申し出を受けいれた。

 拾い上げでもいい、未来へつながった。

 それが嬉しくて、嬉しさが滝のように流れ落ちてくる。

 どんな形であろうとも、チャンスをつかむことができたんだ。

 

「ではメールで今後のことについてお知らせしますのでご確認ください。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします!」

 あまりにも嬉しくて声量が抑えられない。子供かよって思われてるかもしれねぇが、それでもいい。可能性があるって認めてもらえた、認めてもらえたんだ。

 通話が切れスマホをしまうと、自然と嬉し涙がでていた。

 

「聞こえてたか、逢夢! 逢夢を沢山の人に見てもらえるようになったんだ」

「わたしも嬉しいです!」

 俺の目にも、逢夢の目にもキラキラ輝くものがみえる。それは嬉しさが創り出したもの。

 空を見上げると、願いが叶ったことを祝福するかのように、流れ星が一筋流れる。

 これが俺達の創造の出発点、未来へ続く創造のはじまりだった。

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