9話 蒼の祝福 ④
「それではあらためまして……」
マスターはもったいぶるかのように、たっぷりと間を置いたあと、
「ブレイドの誕生日を決める会を開催いたします!」
今日やりたいことを宣言した。
「いきなりだな……絵麻らしいが」
苦虫をつぶしたいような表情に創磨はなっている。わたしゃはこういう表情すきなんだよね。唖然とさせちゃうくらいになると、逆にかっこいい。さすがはマスターだよ~
「誕生日ならば貴様達で決めれば良かろう。なぜ我まで……」
「漫画完成記念、お祝いだからだよ~」
祝いの席を盛り上げたい、わたしゃは両手をだらりとあげた。
「誕生日決まってないって、逢夢からも聞いてるよ~」
「ええ、まだ誕生日というものは設定されていません」
逢夢にはわたしゃから、誕生日があるか事前に聞いておいた。ないのは意外だったんだよね~
「そもそもの話だ、誕生日というものはそれほど我らに必要なものなのか」
ティア、誕生日否定派を匂わす。うーん、これはツンデレの予感。わたしゃの勘はそう告げてる。
「なに言ってるのティアちゃん、超必要だよ」
マスターもその匂いを嗅ぎつけ、さっそくデレを引き出そうとしはじめた。
「設定されておらんキャラもおるようだが」
「最近の作品は決まってること多いって」
「それは誕生日限定のグッズを販売し、利益にしたいだろ」
「利益も出て、お祝いできる、一石二鳥じゃん!」
「まぁそれは否定はせんが……ならばなぜ最初から決めておかんのだ」
「あ~もしかしてティアちゃん決めて欲しかったけい?」
マスターはティアのツンデレ光線に当てられて、ヒートアップ。
ティアはツンデレ娘という設定をいかんなく発揮して、頬を赤く染めちゃった。かわいいよね~
「な、なにを言っておるのだ。別にこれはただ興味あるだけのこと。設定して欲しいとかそんなことは思っておらんぞ」
設定して欲しかったことが伝わる反応。わたしゃ達キャラクターは、作者の想いを感じる時とても嬉しく感じるもの。そこはティアとも共通認識みたい~
「てか創磨はなんで今まで決めてこなかったの。決めてなかったあたしがいうのもなんだけどさ」
「書きはじめは、誕生日含めて細かく設定を決めたくないからかな。重要なイベントや物語の根幹に関わるなら別だけど、物語を書いていく中って細かい部分は決めてきたいと思ってて。型にはめすぎない方が創りやすくて。誕生日イベントは重要になるかもだし」
創磨はマスターと違い、お祝いしたいという気持ちよりも、物語の流れに沿って、そのキャラクターに適したものにすべきだという考えでいた。実に創磨らしい発想だな~
「じゃあ決めないほうがいいってことなの?」
「ある程度構想やキャラのイメージも固まってきたし、今は決めても大丈夫だとは思う。誕生日じゃなきゃだめっていうイベントはたぶんないだろうしな」
「よし決めよう!」
絵麻のガッツポーズ、創磨の了承もあって誕生日を決めていくことになった。
「誕生日っていうのは、どうやって決めるものなの~」
テーブルに用意されていたお茶を飲みつつ、話を続けていく。
「物語において重要なイベントでないなら、キャラのイメージや作品に関連するものがいいとは思う。ある程度適当でもいいとは思うけどな」
「イメージにあってるもの。やっぱり刀剣ってことなるのかな~」
わたしゃの意見を聞くと、創磨はスマホでなにか検索をはじめている。
「刀の日……最近制定されたばかりだが日本刀の日というのがあるらしい。10月4日で刀匠だそうだ」
「う~ん、悪くはなさそうだけど他の候補もいくつかだしたいよね、せっかく決めるんだし」
「剣士の日ってあったりするの~?」
あたしが剣士だから、まぁよくわる理由。
「武士の日なら」
「ブレイドって武士って感じではないんだよね。蒼色、イメージカラーもありかも」
話し合っていくうちに誕生日候補が、だんだんと広がっていっている。
「なんか良さげな記念日があるといいけどな」
記念日の一覧を見てみんなは誕生日の候補を探してくれている。たったひとつの設定を真剣に決めてくれるのって、こんなに嬉しいことだ。
「6月2日、蒼いバラにちなんでローズの日なんていうのはどうですか」
探し始めた直後、逢夢が新たな提案をしてくれた。
「バラか~かっこいい女の子って感じがするブレイドにあっていそうだな」
「花言葉も素敵なんですよ。青いバラ、ブルーローズの花言葉はかつては不可能、存在しないという意味でした。昔はつくることができないと思われていたからです。しかし技術が発達することで作ることができた。そういった経緯を経て花言葉は『奇跡』になったそうですよ」
『奇跡』、それはマスターの作品と創った作品の中で語られている言葉。
「それすごくいい!」
部屋の中に響き渡るほどの声をあげ、その誕生日が良いと表明した。
「あたしもあたしも、めちゃいいって思った。夢が叶う、神の祝福、他のもなんか神秘的でいい感じ。青いバラっていうのもすごくブレイドぽいし」
「決まりで良いんじゃないのか。絵麻の物語とも重なる部分があるし」
創磨はうなずきながら、わたしゃ達の意見に同意してくれた。
「ブレイドの誕生日は6月2日、ローズの日に決定だね!」
「ありがとうございます、マスター。みんなで決めた誕生日、大切にしていくよ~」
くぅううう、わたしゃの誕生日。6月2日、ローズの日がわたしゃの誕生日なんだ。
「いつも以上にブレイド、ニコニコにんまりだね」
「だって、ほんと嬉しくて~こうやって魂が宿っていくんだなって」
「そうかも。なんかわたしも嬉しくなってきちゃった」
「嬉しいよね~マスター」
パチンと手を叩きあい、誕生日を決められたことをマスターを喜びあった。
「逢夢の誕生日は3月27日の桜の日にしようかなぁとは思ってる。どうだろうか」
「すごくいいと思います。出逢いの日のことも思いだせますし……もしかして、だいぶ前からこれにしようと思っていたのでは?」
「実はそうなんだ。でも、なんか言い出すタイミングもなくて。欲しいな~とは思ってたんだよ。そしたらブレイドや絵麻が嬉しそうにしてるの見て」
「触発されてしまったと。わたしも、決めて欲しいと思っていました。うわぁ~桜の日がわたしの誕生日。この嬉しさ、じわじわ来ますね」
「うん、じわじわくるな」
逢夢の誕生日が決まり、創磨と逢夢お互いに嬉しそうだ。
わかる~超わかる~特別な証だもん。嬉しくなちゃうよね~
「ティアちゃんの誕生日はどうしましょうか」
「魔王の日とかはさすがになさそうだもんな」
「別に我は決めて欲しいとは思っておらぬが……希望日というのは決めておいた。変なものに決まってしまうのを阻止するためだ。重ねて言わせてもらうが、これぽっちも決めて欲しい等とは思っておらぬからな」
マスターはティアがツンデレすぎて、餌を与えられて魚みたいに口をパクパクさせながら悶絶しています。マスターがツンデレを楽しんでいる表情、なんと素敵なんだろ~
「どの日どの日! あたし的にはいいおっぱいの日がめちゃ推しなんだけど」
「そんな日にするわけなかろう
マスターはティアのいいおっぱいをガン見し願望を伝える。いいおっぱい、わたしゃのものももっと見て欲しい~ティアも恥ずかしいと思いながら、そう思ってたりして……ティアはしなさそう。
「2月11日、建国記念日というのはどうであろうか。魔王である我にとって国家は大切にすべきもの、それを象徴する日でありたいのだ。この土地の住まわせてもらっているからには、この国を大切にしたいという想いもあるのでな」
「あ~ようするにセラフ様に影響受けちゃってるってことね」
セラフ様の誕生日、それも建国記念日だった。ティアはそれを意識しているみたい。
図星なのか一言も離さず、フライパンみたいに顔が熱々になっている。良く焼けるデレ顔だな~
「魔王だから国を大切にしたいか。いいと思う、さすがティアだな」
「わ、我は当然のことを言っておるだけなのだぁ!」
創磨に褒められて嬉しいのか、まんざらでもない様子。くるくると指で赤いツインテールを撫で回して嬉しさをなんとか抑えようとティアはしている。
ティアの恥ずかしがる反応が可愛い。マスターのニヤけている姿も可愛いな~
「創磨と絵麻、お二人の誕生日はいつなのでしょうか?」
一通り誕生日を決めた所で、逢夢はわたしゃが聞きたいと思ってくれたことを質問をしてくれた。
「あたしは7月14日が誕生日」
「その日は……ひまりの日らしいね~」
「まじ! 超イメージとあってるじゃん」
ひまわりみたいな笑顔をみせてくれるマスターは、自分の誕生日がどんな記念日だったか知らなかったようだ。ひまわりいつも明るいマスターらしい花だと思う。これからはより大切にしていきたいですね。
「俺は11月24日。たしか……そんなイメージにあう記念日はなかったぞ」
「どれどれ……オペラ、鰹節、和食、進化の日、創磨ぽい感じではないね」
「わたしは、進化の日がすごくあってると思いますよ」
「さすがに壮大すぎないか」
「進化の日は『種の起源』が出版された記念日。であるとしたならば、わたしを創ってくれた創磨こそがわたしの種の起源。つまり創磨が種の起源であることの裏返しなんですよ!」
拡大解釈しすぎな理論であるのは誰の目からみても明らかで、創磨ですらその壮大な考えにはついていけない様子。
「逢夢、無理しなくていいぞ。誕生日っていうのはそもそも、その日がなんの記念日かは重要じゃない。生まれてきたことを喜ぶことができる、それができるってだけですごく嬉しいことなんだよ」
誕生日は喜び合えることが大切、確かにそうかも~
「それそれ! 喜びあえることを大切にしたいよね。みんなの誕生日、お祝いしようよ。来週とかどう?」
「いいにはいいが、みんなの誕生日って範囲ガバガバすぎないか」
「まぁそうなんだけどさ~初回限定特典みたいな感じでワイワイしちゃったほうがよくない。初回限定特典、お得だよ!」
マスターはみんなの誕生日をみんなで喜びあいたいって考えてくれている。
初回限定特典、そんなマスターらしい言葉を使って。
「わたしゃはさんせ~めちゃ楽しそう~」
だらりと両手をあげて、マスターの意見に賛同の意を示す。こんなのノルしかないでしょ~
「ブレイドの誕生日近いし、それを中心にして祝いならいいかもな」
「わたしも賛成です」
「しかたがない……我の実験にもつきあってくれるのならば、つきあってもよいぞ」
ツンデレしながら、きになることをティアは口にする。
「実験って?」
「戦力増強のためだ。そこまで時間はとらせんよ」
「もちろんつきあうよ~」
「ああ、俺達もそのつもりだ」
マスターを守るための実験。ティアはいつも頼りになるな~
「誕プレは……ブレイドのだけにするか。一度に全部は負担が多い。ごちゃになりそうだし」
「場所はあたしの家で。誕生日ケーキも用意しておくから。じゃあ来週また集まるって感じで、よろしく」
来週誕生日会をすると決まった所で、わたしゃ達は創磨の家をでた。
誕生日を祝いあうか。どういったものか知識として認識しているけれど、それはわたしゃ自身の体験ではない。だからこそはじめての体験ができるのを待ち遠しいな~




