9話 蒼の祝福 ③
「漫画見ましたよ~! めちゃくちゃ面白かったです」
翌日の日曜日、ティアが異空間に創り出した魔王城内の研究施設にみんなが集まっていた。
「価値のないものから、価値へ変わる瞬間。そしてすべてを大切にしたいという想い。すべてがつながってるんですよね。ブレイドの緩い感じはコミカルにかっこいい部分はひたすらにかっこいい。絵の良さも素晴らしすぎて」
逢った瞬間から、逢夢が推し推しモードになっていた。
「だよね~超すごいんだよ~」
身近な友人に面白いって思ってもらえるの、たまらなくきもちい~
「ふん、面白かったとだけは言っていこう」
「撫でちゃってもいいだんよ~サービスサービスしてくれてもいいんだよ~」
「やめろ、我に近づくな」
ティアも褒めてくれている。えへへへとマスターもうれしそう~
「創磨、ほんとにありがとね。めちゃいいのになったの創磨のおかげだよ」
「それを言うのは俺のほうだ。絵麻が考えてくれたあの言葉なかったら、まったく違う物語になっていたかもしれない。絵麻と出逢ってなかったら、あんなにユニークな感じにならなかったと思う。いい引き出しをもらえた、感謝してる」
キュンとなっているのが伝わるくらい、マスターは乙女の顔になっている。マスター自身はきずいていないかもだけど、憧れみたいな感情がそうさせているかも。
創磨には助けてもらったのは、わたしゃも同じ。
もしあのバレンタインの夜、創磨が手を差し伸べてくれなかったら、マスターはわたしゃをまた創り出すことはなかっただろう。
「創磨にはお礼しないとだよね~」
創磨の背後から近づき、頭を胸に押しつけてみる。
「男の子ってこういうの嬉しいのかな~」
逢夢やマスターよりも胸は大きくないけれど、ぺったんこではない。
ゆったりとした膨らみを感じさせ、いたずらぽく微笑んだ。
創磨は、真っ赤なりんごみたいに照れている。
わたしゃでも照れてくれるんだ~かわいいとこあるな~
このままやり続けちゃうと、逢夢やマスターに悪いし、さくっと終わらせときますか。
「はい、終わり! きもちよかった~ サービスシーンの参考にしてもいいんだぞ☆」
「いやいやしないしない。ほんと、ブレイドは不意打ちばっかりしてくるな」
「かわいい姿がみたいのだよ~」
からかわれるも、創磨はなんとか大人な対応をしてくれる。
「そろそろ本題に入るぞ」
ティアは手を叩き、ふわっとした流れを変えた。
「で、今からなにするの」
「レイター化の実験、それを行っていく」
「ティアちゃんもついにレイターに、ってこと!」
「それは結果しだいだ」
ティアがやりたかったこと、それはレイター化の実験。戦力が増えればマスターへの負担も少なくなる。
「試作型魔王剣デモンブレイド、あれは創造力を増幅させる機構を研究してつくられたものだ。今回の実験はそれを応用した装置を利用する」
試作品がいくつも転がっており、研究が難航していたのを物語る。
「ワクワクが止まらないね~どんな感じになるんだろ~」
「わかる~めちゃんこかわいいに決まってるもん。で、スケベだね!」
「スケベなんだ~」
じろじろと舐め回すようにしてティアをみる。マスターがぐふふふというスケベ顔なので、わたしゃもぐふふふ顔になっておく。
「貴様ら~! 無視だ無視」
このまま突っかかっても、からかわれるだけ、ティアは無視を決め込んだ。まぁ、しかたないよね~
「わたし達もなにか手伝えることはありますか」
「創造力を我に送って欲しい」
「ティアに変身して欲しい、そう強く願いながらでいいのかな?」
「その方向で。目標はクリエイトブックの創造、なにか質問はあるか」
「特にはないですかね」
「ではこれより実験をはじめる。意識を集中してくれ」
ティアの指令がくだり、レイター化の実験がはじまった。
ティアは腰に取りつけた創造力増幅装置を起動。中に蓄積された創造力が、ティアの創造力に重なりあっていく。
(ティア、変身して)
わたしゃ達もティアへ創造力を送りだし、創造力を一点に集中させる。
クリエイトブックが創られるのは、強い願いによるもの。
ティアの発想はおそらく、ティア自身の強い願いだけでなく、わたしゃ達の願いを集めることで、より強い願いを創り出すというもの。
そして蓄積された創造力は、クリエイトブックを創るにいたる。方針としては問題ないように思えた。
ティアの体から黒、白、赤、それぞれ混じった創造力が放出されている。集めた創造力はバラバラなものも多く、混ざらず散ってしまう。
やがて……集めた創造力のピークが迎えると、だんだんと輝きが弱くなっていく。
「これでは無理だな」
ティアは創造力を集めるのを止め、早々に実験を取りやめた。
「え、なにがいけなかったの」
「創造力が混在しすぎている、増幅されず拡散していくものがあまりにも多い。今回は失敗のようだ」
「そんな~」
「とはいえこのままにしておくつもりはない。今回得たデータをもとに改善をしていく。また今回得たデータは戦力の増強に役立つはず。今までよりも高いレベルで創造力の増幅はできたことは確認できた。感謝すうr」
複数人数の介在、それによりティアの計画は失敗に終わった。
期待していたとおりにはならなかったが研究は進んだ。新しい可能性も広がり、応用もできるはず。うまくいえばわたしゃ達のパワーアップにも……
そう考えていたら
「ティアちゃん、その装置ってあたし達にも使えたりしないの」
「どういうことだ」
「あたし達もレイターになれないかなぁって」
完全な思いつき、マスターから爆弾発言が飛び出した。
「それはだめです。マスターが危険な目にあちゃうよ~。闘いはキャラクターであるわたしゃ達にまかせてよ~」
即座に首を振り、そんなことしなくていいと進言した。
「そうですよ。絵麻に闘わせるわけには……」
もちろん逢夢も同意。闘わせたくはないもんね。
「戦力は必要だと思う。ティア、できれば俺もレイター化したいと思っている」
創造主には闘いを避けて欲しい、そんな願いとは真逆。創磨もレイター化には意欲的だった。
「戦力が増えることは悪いことではない……しかしそれが実現できるかと言われれば不可能に近い」
「そんなに可能性が低いことなのか」
考える人みたいに顎に手を創磨はあてている。不可能、その答えに対してもなにか違う方法でアプローチしたいと考えはじめている。
可能性を広げることは頼りになるけど、今回はあんまりしないで欲しい。
「キャラクターと人間は違う。破壊力によってブレイカーに変身させられた人間がおるとはいえ、それはベインの力によって強引に解放されたことによるもの。創造力がある我ですら、まだ変身できぬのだ。奇跡でも起こさぬかぎり不可能だろうな」
奇跡という不確定な要素で良かったと思う。もしティアが変身システムでも作りだそうものなら、マスター達は最前線で闘うことになるだろうしね。
「いろいろ考えてたんだけどね。ペンと刀、めちゃいけいけな感じだったのに」
「バトルコスチュームは初めて出逢った時に、コスプレで着てたやつか」
「うん、あんな感じ。創磨はどういうのやりたかったの。どうせ考えてるんでしょ」
ぎくっと、擬音が聞こえきそうなくらいには創磨は肩をひいた。
「まぁな。これ、こんなイメージ」
創磨はティアと手をつなぎ、自分の中のあるイメージを共有しはじめる。
「勇者服に、竜ぽい刻印もあるね。なんか宝珠ぽいのもついてる」
「竜は人間の創造が作りだした神獣。創造とのつながりが深いと思って……せっかくだし、テラブレイブのことも意識もした」
「なるほどね~このままのイメージだとちょいださいかも。なんか色の象徴が激しくなりすぎてるんだよね~もうちょいシンプルにした方がいいかも」
「どんな感じだ」
「ちょい待ち……こんな感じかな」
マスターは創磨のイメージしたものから、新しいバトルコスチュームを頭の中で描きだす。
「お~いいかんじだな」
「わたしもみたいです」
「わたしゃも」
「みんなにもみせてくね~」
マスターは想像し創りあげた創磨のバトルコスチュームをみせてくれた。
背中に竜の刻印が刻まれた緑色の勇者服、白色のズボン、茶色のブーツ、緑色のグローブ、胸の中央には宝珠とおぼしきものがついていた。
「竜と勇者ですか、主人公ぽくてかっこいいです」
「だよな!」
逢夢は創磨に対して何度もうなずき、レイター化した姿を喜んでいた。
闘わせたくはないけど、かっこよく闘っている姿を創造できるのは悪くない。わたくしもその点は同じ。マスターと一緒に闘う姿を創造することは悪いとは思えなかった。
「誰が一番早く変身できるかなぁ」
「マスターと創磨は、変身しないという流れだったじゃん」
「それでも妄想はしちゃうんだよね~」
「可能性は低くてもですか」
「奇跡起こせたらすごそうじゃん」
わたしゃが心配してもマスターは変わらず、変身したいという願いを持ち続けた。
「妄想くらいにはしておいて欲しいな~マスター達をわたしゃが絶対守るから」
マスターには奇跡を起こす力を秘めているかもしれないけれど、その願いは叶うことがない方がいい。そのためにもより強くなって、マスターを守れるようにしないとね。
「これで実験は終わり?」
「ああ、そのつもりだか」
「あたしやりたいことがあるんだけど、付きあってもらっていいかな」
「実験につきあってもらたからな。多少なら良いが」
「ここじゃあれだし、いったん創磨の家のリビングにでも」
「転移しますね」
逢夢が創造力の力で、創磨の家のリビングへとわたし達を転移させた。




