9話 蒼の祝福 ①(ブレイド&ドロウ前編)
「これで完成! 一緒に見ようよブレイド」
「一緒に見よ~」
破壊の巨人を倒してか5日後、マスターと創りあげた読み切り漫画を同時に見ることに。
「ブレイド&ドロウ」
作画 ハガサネ
原作 ソウマ
表紙には蒼輝刀剣を持ったブレイドとペンを持った絵咲ちゃんが背中合わせのポーズで描かれている。
タブレットをスライド、ページをめくり物語の世界へ。
タブレットで絵を描く楽しそうに描く少女がいる。
(今度こそ、1万いいね欲しい)
完成した絵をアップロード。望むのはたくさんの人に見られ、いいねを押してもらうこと。
あたし羽重絵咲は高校一年生、夢は売れっ子イラストレーターです。。
「絵咲さんのイラストみたよ」
「ほんと、えさきっち絵が上手いよね」
次の日。学校で友人達が絵を褒めてくれた。
「でしょ~! そう言ってくれると本当嬉しいよ!」
友達に褒められるのも超嬉しい!
――エサキちゃんの凜花ちゃん、可愛いすぎ!
もちろんSNSのフォロワーにも。
嬉しい、嬉しい、嬉しい……それは確かなんだけど
(また千か2千、止まりぐらいかな)
表示されている、いいね数は千。目指すものとは程遠いのが悩み所。
画力を高めることでフォロワーは増えたけど、まだまだ上手い人との差は歴然、売れっ子イラストレーターなんて夢物語。
才能の差、それはあまりにも大きなもの。
(どうすればこんなにも上手くなるんだろう? 奇跡でも起こったら、上手くなれるのかな)
机に顔をつけて、冷めた顔であたしはつぶやいた。
あたしはびくびくと顔を動かすくらい、唖然とした表情をしている。
(奇跡とはいいましたけど……これってどういうこと!?)
下校帰り、『奇跡のノート』と表紙に書かれたノートがあたしの頭に降ってきたからだ。
そのノートには奇妙なくらい厚みがなく、薄い。表紙にノート書かれていなかったら、ノートだと思わない程度には。
奇跡のノートを開き1ページ目に書かれていたのは、
『描かれた魂を救え、さすればあなたに奇跡が与えられるであろう』
という一文だけが書き記されている。
「なに……これ?」
奇跡が与えられるという部分はそそられるけど、描かれた魂はなんかめんどそう。
そんなことを思いながら、次のページをめくる。
(この娘、かっこいい!)
描かれていたのは狼を彷彿とさせるウルフカットの少女。手には刀を持ち、腰には鞘が差されている。ということはこれは青い剣士服ってことなのかな。
狼のような鋭い視線、そして刀を振るう姿。
(なんでこんなのにこの絵は力強く感じるの)
その絵には魂がある、そんな風に感じられるくらい魅力的な絵だった。
「ヤッホー、マスター」
背後から呑気で、友達にでも声をかけるかのような親しげな声が聞こえると、
「へ?」
振り返りつられて間抜けな声を出す。眼の前にいた少女を見て、一瞬思考が停止するあたし。
狼のようなウルフカット、そして腰に帶刀をしている。
(ノートの娘とめちゃそっくりなんですけど!)
その少女はノートにかかれていた女剣士。その姿とそっくりだった。
(興味はあるんだけど……いきなり声をかけてきたのは怪しい……怪しい度100%だね、こりゃ!)
眼の前に現れた少女はノートと描かれた少女と似ている。そこには興味は持てたたが、いきなり声をかけてきたことを不審がる。
「人違いでは?」
そっけない態度で返答。マスターと呼ばれたことがとどめになった。
もう関わらないでみたいなオーラもだしてみたけど、
「そんなことないよ。あなたはマスター、わたしゃのマスターだよ!」
人懐っこい子犬のような目で、すでに知り合いかのように懐かれる。
「マスター、会えて嬉しい!」
そして難攻不落の心の壁を突破する、子どものように無邪気な笑顔。
(やば、めちゃ可愛い!)
あたしはイラストレーター、可愛いものには目がない。その少女の笑顔をみて、ときめいていた。
「そんなこと言われたら、あたしも嬉しくなちゃうじゃん……あ! でも、いきなりマスターとか意味が解らないよ!」
嬉しそうにデレデレした後、思っていたことを口走る。
もうやけだ、いろいろと事情を聞いてしまえ。疑問を解決した方がスッキリするかも。
「それ!」
眼の前の少女は指を向けたのは、奇跡ノートだ。
「あ~これあなたの。良かった~持ち主が見つかって……」
と、目の前の少女に渡そうとしたら、
「それはもうマスターのだよ」
なんと拒否られた。めちゃ笑顔で。とんでもなく無垢な笑顔で。
(え、めちゃ可愛い)
あたしはイラストレーター。可愛いものは目がない。そんな姿にときめいてしまも……
呑気な表情をしていて、見た目や雰囲気もめちゃ好み。
可愛いものに弱すぎる、弱すぎるのよ、あたしって。
「ぐぐぐぐ、笑顔でごまかさないで、これあたしのじゃないから!」
笑顔に負けない。なんとかなんとか言葉をひねり出し、あたしはそう叫ばずにはいられなかった。
「で、このノートはどういうものなの」
観念したかのように、とりあえず事情は聞いておく。あたしのじゃないのに。
「神様が創った奇跡を起こせるノートだよ」
「へぇ~そうなんだ……じゃ、納得できないんだけど!」
「詳しいことはわたしゃも良く解ってないんだ。てへ☆」
てへぺろ可愛いポーズでごまかし笑顔。可愛いじゃん~と心の中で唸りながらも、いやいやとすぐに冷静になる。
「この、『描かれた魂を救え、さすればあなたに奇跡が与えられるであろう』は、どういう意味?」
「あ、それそれ! それが重要なだよ。神様はね、奇跡を得ようとするものに試練を与えることにした」
試練を与える。やっぱりなんか嫌な予感。顔が青ざめる中でも話しは続き、
「わたしゃはマスターに奇跡を与えるためにここへきた。一緒に描かれた魂を救おうよ!」
神々しいくらい眩しい笑顔。も~う可愛い……って、さすがになってられない。やばい! これ絶対やばいやつに巻き込まれちゃってるよ!
「なにその可愛い悪魔の勧誘方法! 全然そんなことしたくないよ! あたし忙しいんだ、ほら絵を描かかなくちゃいけなくて」
理由なんてなんでもいい。とりあえず忙しい理由をつきつけるために、あたしが描いた絵を見せつけた。
「絵描いてるんだ。見せて、見せて!」
キラキラ目を輝かせながら、あたしの絵を見たいと言ってくれた。
「う~ん、しょうがいないな☆」
全然そんな気ないだからね、的なことをはいいつもノリノリでブレイドに絵を見せる。。
手渡されたスマホを手にあたしのイラストをみてくれて、
「うぉおおおおお、こんなすごい絵描けるんだ。すごいよ、マスター」
めちゃくちゃ褒めてくれた。も~う、そういうのに弱いのに。
「えへへへ、そうかな~。あたしの絵最高でしょ」
「とっても!」
パンと手をたたき合う、それこそ親友みたいに。
「あなた、けっこうノリいいね」
「マスターもだよ~」
うふふふ、そんな風にして笑いあった。
「それで解ってくれた」
「なにが」
「ほら時間が必要なこと。イラストを描くのって時間がかかって、あなただってあたしの絵がみたいでしょ」
「見たい!」
「なら……」
「わたしゃがマスターの側でお手伝いすればいいってことだよね。魂を回収するのと、絵を描くの。二つ同時にやればいいんだよ~」
「な、なんで、そんな流れなちゃうのよ!」
これが物語ならばどれだけ良かったことか。普通にイラストレーターを夢みていただけの少女が、とんでもないことに巻き込まれてしまった。




